【数話完結】死神様は人間と化(科)された

ふつうのひと

第1話 幸せを祈って

 私は死神。人の命を奪うとっても悪ーい悪魔。


 誰であろうと、どれだけ頼みこもうと、私の心は動かせない。


 サッと奪ってサッと帰る。そんなカリスマ性溢れる死神様。




「───喋り方からしてカリスマ性を感じないのだけれど.....わるーい悪魔て。あんた死神でしょうが」


 私が気持ちよく自分語りをしていると、私よりも死神歴の長い女性──いわゆる先輩が、私のカリスマ性を指摘してくる。


「むっ。私カリスマ性あります!先輩こそ!先輩こそ.....」


「反論出来てないわよ。全く。あなたは本当に死神の向いてない子ね」


 私は先輩が傷つかない様に慎重に言葉を選んでいると、ずる賢くも先輩は、その隙に私に追撃を打ち込む。


「死神なりの優しさです!先輩は人の心ならぬ死神の心は無いんですか!?」


 だが、私はこんな事ではめげない。ようやく頭の中で言葉の整理が着き、誇らしげな口調で再び反論を開始する。


「死神に心なんて要らないでしょうに....何をそんなに誇らしげなのよ」


 しかし、私よりも0.5枚ぐらい上手の先輩は、私の反論をものともせずに短く嘆息し、中々負けを認めてくれない。



 以下説明文。(読まなくても良いです)


 そんな先輩との仲良しな会話が繰り広げられているこの場所は天国だ。天国と言っても地面が雲だったり、死んでしまった人間がいたりはしない。

 神様は天国の統治をしているだけで、面倒くさいという理由で人間界には極力干渉をしたくないのだそう。そんな面倒くさがり屋の神様が一番頭を抱えているのが人間の死だ。


 どうやら、人間の死というのはかなり難しく、神様を信仰する宗教が出来ている事で、死に対する意識が一人一人違うせいで、人によって死後を変えなければいけないのだそうだ。

 神様は一人しかいないし、人間も相当な数がいるので、面倒くさいことこの上ない!


 そこで私達だ!


 神様が面倒くさいという理由で任命された二人の死神役!死神とは、死期を迎えた人間の命を回収する神様の使いのようなものだ。回収した命は、神様が何か色々して裁き、どこの地獄へ送るかを決めるらしい。


 あ、あと、人間の命を回収しにいく時に、人間を天国に連れて行ったり、人間の命を回収しなかったりしたら怖い目に遭わされるらしい。

 前に、人間と長い時間話をしてから命を回収して帰った時に、神様が怖い顔で脅してきて少し怖かった。以来、私は人間とは口を聞かないと決めている。


 え?人間は大量にいるのに二人だけで足りるのかって?


 それは大丈夫!私達は神様の仕事のお手伝いであって、命の回収の大半は神様がやっているから!


 長たらしいけど、要は私達は死んだ後の人間の命を回収しにいくお偉い死神様なのです!


 え?神様はどんな姿なのかって?それは───



「長いわよ。前から思ってたけどあんたの心の中うるさいわね」


 そうだ。もう一つ説明し忘れたことがあった。死神も一応神様だから、生き物の心を読めるんだ。何故か私は読めないけど、先輩いわく上達すれば読めるようになるのだそうだ。


「まあいいわ。さて、あんたそろそろ時間じゃない?」


 先輩は、長く伸ばした黒髪を手で払い、空中に浮かぶ時計に視線を送る。ちなみにこの時計は、天国基準での時間を示している。


「あ!もうそんな時間じゃないですか!行ってきます!!」


 私は、割と時間が押していることに気付き、急いで部屋の床に放り投げられているローブを手に取る。


 私の一部分だけ編み込まれたクリーム色のぼぶへあーを隠すように、オーバーサイズのローブを着込む。真っ黒のローブは、前が見えなくなる程に大きいが、足元はハサミで切っているため何とかコケずに済んでいる。

 その代わりに、ハサミで切りすぎてしまった部分からは、病的に白い生足が露出しちゃっている。


 私は勢いよく部屋から飛び出し、天国と下界を繋ぐをくぐり抜ける。


───────​───────​─────────

「また、出会えますように」


 独りの女は、最期の言葉をこの世に残すと、勇気を振り絞って闇夜に身を投げる。高所からの身投げ。かなりの勇気がいるだろう。だが、その勇気以上に、彼女を縛り付けていた何かが強すぎたのだ。


 それが、彼女の間接的な死因であり、彼女の本音でもあった。


「........ぁ」


 地面に激突する寸前、彼女はローブ姿の珍しい格好の少女を瞳に映す。ローブに隠れていて彼女の鼻から上は見えないが、ピンク色の唇が震えていることが分かる。


(あぁ、私は死ぬ時も人に迷惑を掛けちゃうんだな)


 長い髪を羽ばたかせながら、彼女は深く深く後悔する。その後悔は飛び降りした事ではなく、少女の目の前で死んでしまうことに対する後悔である。


(....トラウマ、背負わせちゃったかな)


 自分は最期まで他人の事を気にしているのだな、と思いながら、彼女は目を細めて少女の唇を見つめる。少女は微かに唇を動かし、聴こえるはずの無い声が彼女に届く。


「───お疲れ様です、ゆっくり、お休み下さい」


 自分と少女とは距離があるはずなのに、彼女は耳元で囁かれたかのようにハッキリと少女の声が届く。きっと幻覚や幻聴なのだろうが、今だけはそう考えたくなかった。


───少女の一言が、彼女にとっての幸せだつたのだから。








「.....また、嘘ついちゃった」


 ローブ姿の私は、血塗れで見るも無惨な姿になった女性の胸元に手を当て、命を回収する。

 彼女の顔は原型を留めていないぐらいにぐちゃぐちゃで、美人かどうかなんて判断出来ないが、心の未成熟さからきっと、まだ若かったのだろう。


 この女性にも、幸せになる未来はあった。


 幸せになる未来は、どんな人間にも平等に与えられている。この行動をすれば、幸せな道を辿れる。だが、大半は怠惰な心から楽な道を選んで、この女性のように未来を捨ててしまう。


 1つ、彼女に嘘をついてしまった。


 死んだ後の人間は決して楽にはなれない。命の回収後、神様によって裁きが下され、が決まる。


 そう。人間は死んだあとは天国に行けない。地獄へ向かうと決まっているのだ。だから、彼女が求めた休みには到底辿り着けないだろう。


「...ごめんね。でも、次は良い人生になるといいね」


 質問に答えることも出来なくなった彼女の遺体に向けて、私は遅すぎる謝罪をする。そして、私は彼女の潰れた頭に手を翳し、これから彼女が及ぼす影響を視る。




─────────。




「そっか。彼女想いの彼氏くんだね。私、感動しちゃった。あなた達の願い、しっかり神様に伝えておくからね」


 私は、目を閉じて黙祷をしてから、命すらも無くなって抜け殻と化した亡骸から離れていく。


 この先、彼女が幸せな人生を歩めますように。


 私は、彼女の歩むはずだった未来を惜しみ、次こそは彼女が幸せになるように祈りを夜空へと届けた。

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