一晩だけ最高の夢が見れる枕
惣山沙樹
一晩だけ最高の夢が見れる枕
兄が酔っ払った勢いで変な物を買ってくるのが恒例化している。こう何度も続くとむしろ楽しみになってしまって、ベッドの上でスマホをいじりながら兄が帰ってくるのを待つ。
「瞬! ただいま! 今日はいいやつ買ってきた! いいやつ!」
「へぇ、どれどれ?」
兄が抱えていたのはパステルピンクのふわふわしたものだった。
「ん? これ枕?」
「そう! 一晩だけ最高の夢が見れる枕だ!」
そう言って渡された。ぱふん。気持ちいい。
「これいくらしたの?」
「五千円」
「あ、意外と安い」
前に買ってきた「精力絶倫になるたこ焼き」と同じ値段である。あっちはムーンライトの方にあります。
「じゃあ俺、さっさと風呂入ってくる! そんで早く寝よう寝よう!」
「はぁい。待ってるね」
僕はベッドに枕を置いてみた。けっこう大きい。これだと二人分の頭が置けるのではないだろうか。
風呂からあがった兄に持ちかけてみた。
「兄さん、僕も最高の夢見たい。一緒に使おう」
「ええ? まあいいけど……」
兄にぴったりくっついて、枕に頭を置いて目を閉じると、すぐに眠りは訪れた。
ぽわん……ぽわん……。
漂ってきたのは、甘い香りだった。
「……んっ?」
僕の目の前にあったのは、大きなお菓子の家だった。隣に兄がいて、大声で叫んだ。
「やったー! 瞬! お菓子だ! お菓子の家だぞ! やったー!」
「これが最高の夢ぇ?」
「最高だろうが!」
兄、三十半ばなんだけどな。まあいいや。兄は窓枠をベリッとはがして食べ始めた。
「うめぇ、うめぇ」
「あれかなぁ。兄さんの願望が中心の夢なのかなぁ……」
すると、お菓子の家の扉が開き、たわわなおっぱいを揺らした水着のおねえさんが現れた。髪型は僕の大好きなポニーテールだ。
「瞬くん、こっちこっち」
「わ……わぁっ! Fくらいある! むちむちFカップのおねえさんだー!」
僕はおねえさんのおっぱいに顔をうめて感触を楽しんだ。ガリガリと音がしている。兄は壁をかじりだしたらしい。
僕はおねえさんに手を引かれ、お菓子の家の中に入った。そこにあったのは昭和のラブホにしか置いていないような回転ベッドだった。なぜ僕が昭和のラブホを知っているのかというとそんなのばっかり普段から調べているからである。
「おねえさん! おねえさん! そういうこと? ねえねえそういうこと?」
おねえさんはまぶしく微笑んだ。えっちなことをしてもいいらしい! 僕はおねえさんをベッドに押し倒してどこから何から始めようかと考えヨダレをたらしかけた、その時だった。
メキ……メキ……メキメキ……。
お菓子の家がきしみ、天井が崩れて降ってきた!
「うわぁぁぁ!」
そこで目が覚めた。
兄も僕と同時に目を開け、にらみつけてきた。
「なんだよ瞬! いいとこだったのに!」
「兄さんのせいでしょ! 僕だっていいとこだった!」
兄が僕の腹に膝蹴りを食らわしてきたので僕は兄の肩に噛みつき、そこからボコボコに殴り合って二人とも落ち着いて枕を見た。
「兄さん……この枕どうするの……一晩しか最高の夢見られないんでしょ……」
「もったいないし一応置いとく……」
それから、今回の件について考察した。兄がこう言った。
「俺はさ、二人で使ったから効果が半減したんだと思うんだよな。あーあ、瞬に使わせるんじゃなかった」
「まあ……それについては僕も同じ意見なんだよね、悔しいけど」
「おっ珍しく意見が合った」
「はぁ……あと少しでえっちなことができたのに……」
そして、僕たち兄弟が前向きに考えて出した結論は、「夢は見るものではなく叶えるもの」ということだった。
兄はお菓子をたくさん買ってきて、ミニチュアだがお菓子の家を作り始めた。
僕は兄に小遣いを貰って高級店を予約した。
枕は邪魔になったので川に流した。
一晩だけ最高の夢が見れる枕 惣山沙樹 @saki-souyama
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