あなたはどちら?

「運転手さんは、流行に敏感な人をどう思いますか?」



 それは乗客の唐突な質問だった。これは難しい問いかけがきたぞ、と私は悩んだ。「敏感でもいい」と答えて、乗客が「敏感な人は苦手です」という思考の持ち主だった場合、地雷を踏むことになる。



「流行に敏感な人もいれば、流行に無関心な人もいます。私は流行には無関心なタイプですね」



 どうやら、乗客が求めていた回答だったらしい。「そうですよね」と相槌を打ってくる。



「私は結婚しているんですけどね、夫が流行に敏感なタイプでして。人気ナンバーワンと書かれていれば、何も考えずにその商品を買うんです。私は逆なんですけど」



 なんとなく、話の流れが読めてきたぞ、と私は感じた。



「流行商品だと、大量生産されているみたいで苦手なんです」



「分かります」



「ついこの間も、夫と喧嘩してしまいました。流行の品を買うべきか否かで。流行を追う主人の考えをなんとかして変えたいんですが、どうしたらいいんでしょうか」



 私は頭を悩ませる。人の考えを変えるのは、簡単なことではない。ここは別のアプローチをすべきだと私は考えた。



「旦那さんは、SNSでもいいねが多ければ、自然と自らもいいねを押すタイプではないでしょうか」



「そう、そうなんです! 流行が全てじゃないと思うんです。運転手さんは会ったこともないのに、よく分かりましたね」



 ここからが問題だ。どうすれば、この女性を納得させられるか。私は慎重に言葉を紡ぐ。



「旦那さんの行動は『バンドワゴン効果』と言われています。つまり、流行に乗り遅れたくない、という心理のことです。一方、お客様は逆の考えをお持ちです。これは『スノッブ効果』と言われています。大量生産されているから、価値を感じない、という心理効果です」



 乗客は「そんな名前があるんですね」と感心したらしい。私は別に知識をひけらかしたいわけではない。この後の話のために重要だから話したまでだ。



「つまり、お二人とも別の心理効果で行動されているわけです。心理的にそう考えるのであれば、これは解決しようがありません。しかし、妥協案はあります」



「妥協案? 運転手さんの話を聞く限り、妥協案なんて思いつかないけれど」



「機能や品質こだわった定番商品を買うのです。これなら、旦那さんは定番商品ということで、心理的に満足しますし、お客様はこだわりの品質ということで満足するはずです。いかがでしょうか」



 女性客はしばらく考え込むと「今度はそう意識してみるわ」と言う。



 人は自らの意見を変えることはない。私の提案でうまくいくかは未知数だ。しかし、お互いに歩み寄ることはできる。私は夫婦の生活が円満になることを願いつつ、アクセルを踏み込んだ。

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副業は探偵ですが何か? 〜タクシー運転手の小さな楽しみ〜 雨宮 徹@クロユリの花束を君に💐 @AmemiyaTooru1993

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