第45話 許嫁?
「陰陽師の、一族……?」
鈴乃から発せられた衝撃的な一言に、俺は息を呑む。
鈴乃とは小学校からの付き合いだが、そんなこと一ミリも知らなかったぞ……。
「なんで今まで黙ってたんだ?」
「ずっと隠していてすみません。ですがこちら側の世界に関係ない人には教えない、というしきたりなのです。私も真澄くんを危険なことに巻き込みたくなかったので」
「それは……」
そう言われると俺は鈴乃のことを責めたりはできない。
俺がもし鈴乃の立場だったとしてもそうしただろうから。
というか、すでに俺は同じことをしているのだ。
異能機関に所属していることを秘密にしていたのだって、鈴乃を危険な目には遭わせたくなかったからだ。
鈴乃は俺の手に握られている拳銃を見て、悲しそうに目を伏せる。
「……真澄くんも、こちら側にきてしまったんですね」
「……ああ。とあるとこで働いてるんだ」
鈴乃は微笑みを浮かべた。
「ずっと真澄くんが危険な目に合わないように、と思ってこの仕事をやってきたのですが、因果とは本当に奇妙なものですね。私達は同じく星が交わる運命にあるようです」
「そうだな……ところで鈴乃、話を遮るようで悪いが、一つ聞きたいことがあるんだ」
「何でしょう」
「お前、さっきグリムスティンにわざと捕まった、みたいなことを言ってなかったか?」
「何のことでしょう?」
満面の笑みで首を傾げる鈴乃。
「よくよく考えてみれば、あの魔法陣を一気に吹き飛ばせるだけの力があるんなら、そもそもアイツにに捕まったりしないよな?」
「……」
「おい」
鈴乃がわざとらしく目を逸らした。
俺は呆れたようにため息をつく。
「そういう危険なのはやめろよほんと……」
「でも、こうでもしなければ真澄くんがどこでお仕事をされているのかわからないと思ったので」
「それはそうかもしれないが……」
そこで俺はとある重大なことを思い出した。
「っとそうだ! 鈴乃、ここから今すぐに出ないといけないんだ! 外でモンスターが大量に出てきてて……」
「ああ、それなら大丈夫だと思いますよ」
「え?」
「今すぐにでもこの空間は消滅しますし、先程から外の様子を眺めてますが……」
その瞬間、視界が切り替わった。
もとの世界へとやってきたのだ。
俺達がここへと連れてこられる前、グリムスティンに寄ってモンスターが大量に外の世界へと放出されていた。
だから外の世界は大惨事になっていることを覚悟していたのだが……。
「おや、主殿! 帰ってきたのでござるか!! こちらも終わったでござるよ!」
「……は?」
そこには返り血を浴びて真っ赤に染まっている紅葉と。
地面に積み重なるように倒れている夥しい数の塵へと変わっているモンスターがいた。
「ぜ、全部倒せた……! 倒せたぞ……!」
ぜぇぜぇと形で息をする声が聞こえてそちらを振り返ってみると、地面に疲れ切っているアイリスが膝をついていた。
いつもはシャキッとして油断のないシャーロットも地面に座り込んでいた。
辺りを見渡してみれば疲れ切ったエージェントが地面に倒れていた。
しかし誰も負傷しているようには見えない。
「ま、真澄……戻ってきたか……はぁ、はぁ……」
「ア、アイリス、スタンピードは倒せたのか……?」
「ああ、我々だけでなんとか防ぎきったよ……住民たちの被害もなしだ……多少は一般人に見られたから隠蔽する必要はあるがな……」
「千体はいるって話だったのに、この短時間で倒せたのか……!?」
「紅葉のおかげだよ……」
アイリスは紅葉を指差す。
「紅葉が八面六臂の活躍をしてくれたおかげで、なんとか被害を出さずに済んだんだ」
「いっぱい斬れて楽しかったでござる!!」
紅葉は満面の笑みを浮かべる。
そして小走りで俺の下までやってきながら頭を差し出してきたので、俺はついいつものクセで紅葉の頭を撫でてしまった。
「えへへ……」
紅葉の顔がほころぶ。
なんとなくその表情を眺めながら撫で続けていると、背後から冷たい声が聞こえてきた。
「……ますみくん?」
ハッ、しまった……! ついいつものクセで頭を撫でてしまった……!
振り返るとそこには案の定笑ってない満面の笑みを浮かべている鈴乃がいた。
慌てて鈴乃に言い訳する。
「い、いや、これはな……?」
「随分とその女性と仲が良いんですね?」
不味い……鈴乃はなぜか俺が他の女子と話していたり仲よさげにしていると、こうやって怒るのだ。
多分親友である俺を取られたことに対する嫉妬なんだろうが、鈴乃は怒らせると怖いのだ。
しかし俺の思惑とは逆に、そこに紅葉が火に油を注ぐようなことを言った。
「はい! 真澄殿は紅葉の主殿なので! 仲が良いのも当然でござる!」
「……真澄くん?」
更に冷たい表情を浮かべる鈴乃。
「その、主従っていうのはあれだ! ごっこ的なやつで……」
「違います紅葉は本気ですよ! 真澄殿が主で紅葉が部下なのです!」
「ちょっと黙れこのアホ侍!」
鈴乃は少し固まった後、自分に言い聞かせるようにぶつぶつと呟き始めた。
「…………なるほど、適応しました。殿方はそういう欲を持つものですし、仕方ありません。ええ、仕方ないのです」
「違うからな? 鈴乃?」
俺の言葉には耳を貸さず、自己洗脳を終えた鈴乃は笑顔を浮かべてアイリスたちに問いかける。
「それで、ええと……皆さんのうち、どの方が真澄くんのお家に一緒に住んでいらっしゃるんですか?」
「なっ……気づいてたのか!?」
「バカ真澄! それはひっかけ──」
アイリスが静止する前にそう言ってしまった俺。
「やっぱり、ご一緒に住んでらっしゃるのですね?」
「いや、その……これは仕方なくて……」
「はぁ……バレてしまっては仕方ないか」
ため息をついたアイリスが立ち上がり、俺の隣へとやってくる。
「真澄と一緒に住んでいるのは私だ。あとはメイドのシャーロットも一緒に住んでいる」
「なっ……!?」
鈴乃はアイリスとシャーロットを交互に見た後、目を見開く。
「やっぱり男の人は舶来がいいんですか……!? 絶対に日本の奥ゆかしい美のほうが良いのに、身近にある珍しいものの方に目移りしちゃうんだ……!!?」
「す、鈴乃……?」
俯いて急にブツブツと喋り始めた鈴乃の名前を呼ぶと、ハッと我に戻った。
「い、いえ、なんでもありません。それよりも勝手に私の真澄くんと住んでもらっては困ります」
「どうしてキミにそんなことを言われる筋合いがあるんだ? あの家の家主は真澄だぞ」
「真澄くんは実質私のもので、将来は一緒に住むことになるんだから良いんです」
「いや、ちょっと待──」
俺が口を挟もうとした瞬間、ギンッ!! と鈴乃の眼光で口封じされた。
「はぁ? 何を言ってるんだ。真澄は私の騎士だ。キミのものではなく私のものに決まってるだろう」
「いや、アイリス。俺はお前のものじゃ──」
アイリスの言葉に口を挟もうとした瞬間、凄い目で睨まれたので黙っておく。
その綺麗な金髪を手で払ったアイリスは、少し頬を染めて続ける。
「言っておくが、私はもうすでに騎士の誓いである、キ──キス、も、済ませてあるんだ」
「は……?」
鈴乃がすごい顔でこっちを見てくる。
言っていることは嘘ではないので、俺は静かに目を逸らした。
「な、なな……キ、キスなんて、そんな……」
鈴乃がわなわなと震える。
「これで分かったか? 私と真澄は強い主従関係の絆で結ばれているんだ。だから私と真澄が一緒の家に住んでいるのは当然と言え──」
「そ、そんなの……」
少し涙目になった鈴乃は声を震わせながら、それでもアイリスをキッと睨みつける。
そしてアイリスを指差すと、まるで宣戦布告をするようにこう言ったのだった。
「私だって、真澄くんの許嫁ですから!!!!!!!」
「!?」
その言葉に周囲が驚愕に包まれた。
──もちろん、俺も。
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