第44話 グリムスティンとの決着
血が沸騰する、とはこういうことなのだろう。
グリムスティンは触れてはならないものに触れた。
コイツだけは、コイツだけは絶対に殺す。
俺の激情に駆られて、身体から魔力が漏れてくる。
圧力を受けたグリムスティンは顔を引き攣らせた。
「な、なんですかその魔力は……!」
グリムスティンが後ずさる。
しかしすぐに勢いを取り戻して、鈴乃へと魔力を向ける。
「っ彼女を殺されたくなければ、抵抗は──」
ドウンッッッッッ!!!!!
高速化された身体能力で銃を引き抜いた俺は、鈴乃へと向けられた手を撃ち抜いた。
俺の腕から拳銃までを雷の輪が覆い、銃弾が通った軌跡には光の線が残されていた。
「は?」
強化された銃弾により、グリムスティンはその腕を撃ち抜かれる。
グリムスティンは肘から先がなくなった自分の腕を見て唖然としたあと。
「ぎいぃやぁぁぁあああああッ!!!!」
悲鳴を上げた。
肘の先から血が吹き出す。
それを必死に手で押さえるグリムスティンは激痛で空中でのたうち回る。
顔中に脂汗を浮かせたグリムスティンは、怒りの表情で俺を睨んだ。
「こ、この……ッ! 殺してやるッ!!」
反対の手を鈴乃へと向けて殺そうとした。
また銃声が鳴る。
「ッ!」
グリムスティンは慌ててバリアを展開する。
銃弾はバリアを貫通することはなかった。
しかし──。
「なっ……!?」
バリアに、ヒビが入っていた。
「なっ……そんな馬鹿なッ!?」
決して破られることのないバリアにヒビが入ったことに、グリムスティンは驚愕の表情を浮かべる。
俺は引き続き引き金を引き続ける。
「な、なぜなのですっ! 人間は人質を取られると萎縮するはずなのに! なぜ……っ!?」
銃声と共にバリアに銃弾が命中する。
命中した銃弾は大きな音を当てて弾かれながら、バリアにヒビを入れていく。
「そ、そんな馬鹿な……!!」
俺は躊躇いなく引き金を引き続ける。
バリアに当たった銃弾は弾かれるが、そのたびにヒビを入れる。
次第にそのヒビは他のヒビと重なり、更に大きいヒビを生み出していった。
ッドン!!!
「ヒィッ……!!」
バリアに銃弾が命中するたびにグリムスティンは悲鳴を上げた。
ヒビはバリア全体へと広がっていく。
そしてついにバリアが破れた。
バリアを貫通した銃弾は、反対側の手を吹き飛ばす。
「ぎゃああぁぁぁああああッ!!!」
グリムスティンがのたうち回る。
地面を蹴ってグリムスティンの目の前までやってくると、頭を鷲掴みにした。
「ヒッ……!!」
悲鳴を上げる道化。
俺はかかと落としをグリムスティンへとお見舞いする。
「『
それに対抗してバリアを張るが、まるで紙のように割れて、かかと落としがグリムスティンの頭に直撃した。
地面に叩きつけられた道化は、何が起こったのかを理解できない表情で顔を上げる。
「な、なんでワタシのバリアが……!」
頭を鷲掴みにする。
「じゃあな」
「まっ、待ちなさい!」
慌ててグリムスティンが止めてきた。
一応話だけは聞いてやるか、と少しだけ手を緩める。
「ア、アナタの望みはなんですか!?」
グリムスティンはまくしたてるように言い訳をはじめる。
「ワタシとアナタが組めば、どんなものでも手に入るはずです! その強さとワタシの知識、能力、どんな人間も敵にはなりません!」
「……」
グリムスティンの言葉には返事せず、ただ目を細めてグリムスティンを睨む。
「っお金が欲しくないですか!? こう見えてワタシ、人間のお金をたくさん持ってるんですよ!?」
命乞いは続く。
しかしそれがしばらく続いたところで、グリムスティンの態度が急に豹変した。
「ンフフフ! 油断しましたね! 時間を稼いだのはアナタに反撃をするためなのです!!」
グリムスティンの身体の横に魔法陣が展開される。
そこから魔力の光線が俺へと迫る。
右手はグリムスティンの頭を掴んでいる。
雷撃で相殺はできない──以前まで俺ならば。
「なっ……!?」
だが、その光線が届く前に雷球から伸びる雷の槍がその光線を弾いた。
「そ、そんな……」
グリムスティンが絶望の表情を浮かべる。
俺は頭を鷲掴みにしている手から、電気を流し込んだ。
「ぎぃぃぃいいいいいいやぁぁあああああッッッ!!!!!!!」
グリムスティンの絶叫がこだまする。
今度こそ逃がしたりはしない。
ここで絶対にグリムスティンを斃すために、電気を流し続ける。
完全に
そしてどれくらい電流を流し続けただろうか。
真っ黒に焦げたグリムスティンが……塵へと変化していった。
そしてそのあとには一つの魔石が残される。
グリムスティンを確実に
同時に、空中に浮いていた鈴乃が透明な拘束から逃れ、落ちてくる。
「っ鈴乃……!!」
俺は鈴乃をギリギリのところで受け止めた。
受け止めるとすぐに鈴乃は目を覚ます。
「んん……あれ、真澄くん?」
「鈴乃、大丈夫か!? どこか痛むところとかないか!?」
鈴乃は寝ぼけたような声で自分の身体を見下ろす。
「えっと、ありませんが……ふぇっ!? なんですかこの役得な体勢は!」
「役得?」
「あっいえなんでもありません。その……もう少しこのままでも良いですか? ちょっと足腰に力が入らなく……」
「ああ、分かった。いくらでも待つよ」
鈴乃が遠慮がちにそうお願いしてくるが、それぐらいならお安い御用だ。
「あと、もう少し近くに寄っていただけませんか? そう、密着して抱きしめるように」
「……?」
そのとき、俺はとある違和感に気がついた。
「なんでまだこの空間が閉じないんだ……?」
俺は完全にグリムスティンを斃した。それは間違いない。
目の前で塵になって魔石を残していったのを確認したのだ。
通常ならすでにこの空間が消えて、外の世界へと戻っていてもおかしくないはず。
そう考えていたとき。
「え?」
広場の中心から魔法陣が展開された。
大きな魔法陣は広場全体へと広がり、俺達の下まで到達する。
そして魔法陣の展開が終わると、回転し始めた。
魔法陣は回転しながら輝きを増していく。
……不味いぞ!
明らかに魔力がどんどん高まっていく。
もしこの魔力が暴走すれば大爆発を起こすだろう。
そうなると俺だけじゃなくて鈴乃まで被害に巻き込まれてしまう。
「アイツの置き土産か……!!」
卑怯な手だが、非常に効果的だと認めざるを得ない。
閉じているここから俺達の逃げる場所はない。
遮蔽物のない密室で手榴弾を破裂させられるようなものだ。
どうする、どうする……!!
「…………はぁ、折角良いところでしたのに」
そのとき、腕の中の鈴乃がため息をついた。
「鈴乃……?」
「真澄くんの調査に役立ちそうだからと放置していれば真澄くんを襲っただけには飽き足らず、見苦しく自爆の術まで遺していくとは……本来ならば真澄くんにも隠しておくつもりだったのですが、仕方ありませんね」
鈴乃は立ち上がると広場の中央へと歩いていく。
そして鈴乃は──魔力を纏っていた。
嘘だろ。どうして鈴乃が魔力を……。
「鈴乃……っ!」
「──鎮まりなさい」
鈴乃が手を振った。
するとその瞬間……バキンッ!!!!!
魔法陣が粉々に割れ、魔力が霧散した。
広場の中心に立っている鈴乃は、これくらいなんてことはないような顔で髪を払った。
「鈴、乃……?」
俺は鈴乃の名前を呼ぶ。
「ごめんなさい真澄くん。今まで黙っていて」
鈴乃は振り返ると、衝撃的な言葉を放った。
「私は退魔の一族、いわゆる陰陽術の家系なんです」
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