第41話 行方不明の幼馴染


 俺は訓練場にいた。

 訓練場の真ん中には複数の人形の模型が立っている。


「さて真澄……私に新技を見せてくるか?」

「はいよ」


 観戦席で俺のことを見ていたアイリスにそう返事をする。

 俺は雷の球体を空中にいくつか浮かべると……球体を槍状へと変化させ、それを標的に向けて発射した。

 雷の槍が標的をいくつか貫いていく。


「範囲攻撃には向いてるけど……狙いをつけるのが難しいな」


 練習したことにより、いくつか使えるようになった技が増えた。

 まずは周囲に雷を浮かせて攻撃できるようになったことだ。


 今までは両手から雷を撃っていたが、これで二つ以上同時に攻撃できるようになった。

 ただ、浮かせている状態では標的へ狙いを定めるのが難しいので、今はデカい的に当てるようか対集団用に使うしか無い。


「次はっと……」


 地面に置かれている鉄の棒へと手を向ける。

 手のひらが少し帯電すると……ぐん、と鉄の棒が俺の手のひらへと引き寄せられた。


 これは魔力を切り離す云々は関係ないが、練習をしている最中に見つけたものだ。


 磁力の操作。


 漫画やアニメでは雷系統の能力者が使っている定番の能力だ。

 いろんな物を手に引き寄せたり、逆に操作したりできる。


 そして最後に魔力を切り離すことと、磁力の操作から派生したのが……これだ。

 ホルスターから銃を抜いて、残った人形へと銃口を向ける。


 すると手首から銃口の先を覆うように何本かの雷の輪が形成された。

 引き金を引くと。


 ──ドンッ!!!


 大きな音を立てて、銃弾が発射された。

 銃弾が命中した人形には……穴が空いていた。


「名付けて拳銃型電磁砲レールガンってな……」


 俺が習得したのは磁力による加速。

 ただの銃弾だったとしても威力を底上げしてくるし、速度も洒落にならないほど速い。


 もちろん、銃弾じゃなくてもいろんなものに加速は使える。

 なんなら使い方によっては俺も加速できる。


「どうだアイリス」


 俺は新技を見ていたアイリスに尋ねる。


「ふむ……確かに素晴らしいな」



***



「おいあれ……」

「どうして水無月さんが……」

「ほら、あいつの様子を確認しに来たんだろ」

「ああ、あの幼馴染の……でも、最近ずっとこんな感じじゃないか? もしかして水無月さん、あいつのことが……」

「いやいや、ありえないって」


 生徒たちが指差すそこには、教室の中をうかがっている鈴乃がいた。

 目的はもちろん、幼馴染が登校してきているか確認するためだ。


「今回もいない……」


 鈴のからは何度か体調不良かと心配するメッセージを送ったが、返事はない。

 だから心配のあまり、休み時間ごとに確認しに来ていた。


「最近学校を休んでばかり……真澄くんは一体なにをしているのでしょうか……」


 確認しに来るあまり、周囲の生徒から不審がられているほどだった。


「帰るときに一度、お家に寄ってみましょうか……」


 ポツリと鈴乃は呟いた。

 ──その判断によってどんなことが起きるのかを知らずに。



***


 放課後、鈴乃はいつもとは別の帰り道を歩いていた。


「真澄くん、お家にいるでしょうか……」


 目的地は幼馴染の家。

 最近学校を休みがちな幼馴染の様子を確認するためだ。

 教師に欠席の理由を確認したところ病欠、と言われたが、自分は実は違うのではないかと考えている。


「それに、確かめたいこともありますし……」


 鈴乃は以前の銀行強盗に巻き込まれたときのことを思い出す。

 あの日は銀行に行かなければならない、という占いの結果が出たので行ってみた。


 そこで、自分はあり得ないものを見た。

 今ですら見間違いではないかと疑うくらいだ。


「あれは私の見間違い……いや、でも確実に……」


 銀行強盗に巻き込まれたと思ったら、いつの間にか幼馴染が隣にいた。

 そして自分へと目をつむるように言ったのだ。


 本当は目をつむるべきだと思っていたが、できなかった。

 窺い見るために開けていた指の隙間。

 そこで見たのは、不思議な力で銀行強盗を気絶させる幼馴染の姿だった。


「あの雷のような線……マジック? いや、でも……」


 鈴乃は考え込む。


「もしかしたら、悪いことに巻き込まれているのかも……あっ」


 顔を上げると、そこは表札に『東条』と書かれた家の前だった。

 考え込んでいるうちに幼馴染の家へと到着していたようだ。


「真澄くんはいるでしょうか」


 いれば病欠というのは本当。

 いなければ嘘ということだ。


 インターホンを押そうとしたその時。


「あれ? 君もここに用事なの?」


 真横から声をかけられた。

 鈴乃は振り返ってその人物へと尋ねる。


「……どなたでしょうか」

「ちょっとね」


 答えになってない回答に鈴乃は眉根を顰める。


「東条真澄くんに用事があるんだよね?」

「そうですが」

「ああ、そうそう。僕もちょっとした伝言があるんだよ。仕事の関係でね」


 その人物は肩を竦める。

 仕事。


 鈴乃はその言葉に食いついた。

 何の仕事かはわからない。


 しかしその仕事を始めてから幼馴染は急に学校を休みがちになった。

 危険がなければ問題ない。


 でももし、事件や犯罪に巻き込まれていたとしたら?

 鈴乃はその仕事について知つ必要があった、


「あなたは真澄くんが何の仕事をしているか知ってるのですか?」

「まあ、ちょっとは……」


 その人物ははぐらかすようにそう告げる。

 しかしそれに鈴乃は詰め寄って質問した。


「それを私に教えて下さい」

「なんでそこまでして知りたいの?」

「真澄くんが良くないことに巻き込まれているか確認するためです」


 その人物は腕を組んで熟考する。


「うーん…………よし、分かった。誰にも言わないって約束するなら、あくまで詳しいことは説明できないけど教えるよ」

「それで構いません。危険かどうかだけ知れればいいので」

「じゃあここで話すのもなんだから、ちょっと喫茶店にでも移動しよう」

「わかりました」


 鈴乃は頷いてその人物の後へとついていく。

 インターホンが押されることはなかった。



***



「なんで鈴乃の奴、電話に出ないんだ……?」


 俺は留守番電話に入っている電話を切る。

 先輩との修行中だったので気が付かなかったのだが、スマホに何度か鈴乃から電話が入っていた。

 だから折り返しの電話をかけようとしたのだが、留守電に入るだけだった。


「おかしいな……いつもならワンコール目で出るんだけど」


 珍しいこともあるものだ。

 まあ、用事か何かがあったんだろう。待っていればそのうちにまた電話がかかってくるはずだ。

 そう考えて俺はその日は特に気にしなかった。


 ──その判断が間違っていたことに気がついたのは、翌朝のことだった。


 早朝から電話がかかってきた。

 誰だと思って電話に出ると……鈴乃の実家からだ。

 なんで実家から電話がかかってくるんだ? と思いながら鈴乃の父親の話を聞いていると。


 鈴乃が昨日から行方不明になっていることを教えられたのだった。

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