2章
第31話 注目
今日は、朝っぱらからダンジョンも発生せずに平和な一日だったため登校できていた。
そして俺は今、学食にいた。
なぜなら今の俺は……金持ちだからだ。
前回の渋谷地下迷宮でB以上のモンスターを倒しまくった結果、大量の魔石を売った俺の財布はかなり……いや大分潤っていた。
ちなみに、魔石は誰が倒したとか計算するのは無理だったので、五等分した。
しかし追加で現れたモンスターの分があるので、100体分は多めに俺のほうがもらってしまっている。
なんだか申し訳ないので五等分で良いと言ったのだが先輩たちに押し切られてしまった。
俺は食券機にドヤ顔で五百円玉を入れると『今日の定食』のボタンを押した。
今までは一食に五百円は到底かけることができてなかった。家計的に厳しかったからだ。
そのため、今まではかけうどん(一杯180円)の良心的な価格の学食で済ませてきた。
だが、生活費をすべてアイリスが持っており、家計に余裕が出てきた今なら……この昼食にも金をかける事ができる。
「ふふ……」
思わず笑いも出てくるというものだ。
「あれ、東条、今日は定食なのか?」
「いつもかけうどんなのに」
「新しいバイトでも始めたのか?」
「まあそんなところだ」
一緒に学食にやってきていた林、山田、栗田に返事を返す。
「真澄くん、今日は学食ですか?」
「ああ……って鈴乃か」
いきなり話しかけられたので驚いて振り返ると、そこには鈴乃が立っていた。
すずのは手に持っている紙袋を残念そうに見下ろす。
「お弁当を作ってきたのですが……必要なかったみたいですね」
「いや、食べるよ。鈴乃の弁当はうまいしな」
「それは良かったです」
鈴乃が心底嬉しそうに笑った。
育ち盛りの学生たる俺は、定食を食べた後でも鈴乃の弁当を食べることは容易い。というか食べさせて欲しい。
「真澄くんが望むなら毎日……」
「みみ、水無月さんっ!?」
「どうしてこんなところに……っ!?」
鈴乃が現れたことで三人組は慌て始めた。
一瞬の沈黙の後、鈴野は三人にニコッと笑みを浮かべて向き直る。
「……突然ですが、ご一緒してもよろしいですか?」
「いっ、いえ!」
「俺達は別の場所で食べるので!」
「水無月さんはどうぞ東条とごゆっくり!」
三人はすぐに逃げていった。
「残念です。真澄くんのことをお聞きしたかったのですが……」
鈴乃は残念そうに頬に手を当てるが、なぜか嬉しそうに口もとが少しニヤけていた。
「さてと、どこに座るかな……」
俺達はどこに座るか席を探す。
うちの学食は広いので学食を利用する生徒だけでなく、弁当を食べている生徒も利用している。
空いていた席に座ることにした。
「それでですね、お聞きしたいのですが……今日はどうして定食を?」
「バイトを始めたんだよ。だから家計に余裕が出てきたんだ」
俺はあらかじめ用意していた回答を返す。
「なるほどなるほど、いつもバイトで忙しそうですが、さらにお忙しくなったのですね」
うんうん、と頷いた後、人差し指を頬に当てて首を傾げた。
「それにしては、顔色が良いようですが」
「え?」
「バイトを二つ掛け持ちしている、ということは少なくとも深夜に家へと帰るはずです。それなのに顔色は健康そのもので、身だしなみもきちんとしている。……バイトを掛け持ちする前よりも」
「え、えーと……」
「一体どうしてでしょうか?」
ニコリ、と笑みを浮かべて鈴乃が尋ねてくる。
笑顔のまま鈴乃が見つめてくるので、俺は視線をそらした。
「……か、勘違いじゃないか?」
「そうだといいのですが」
「……この卵焼き美味しいな。すごく好きな味付けだ」
「本当ですか? それなら良かったです」
目を逸らしながら鈴乃の弁当を食べる。
それからはずっと圧を感じながらの食事となった。
そうして、俺はなんだか緊張する昼食を終えた。
***
放課後、俺は異能機関の本部へとやって来ていた。
アイリスに来るように電話で呼び出されたのだ。
学校から離れたところに止めてあった黒いリムジンに乗り込む。
「遅かったな」
「悪い、ホームルームが長引いたんだよ」
流石に校門の前にリムジンで迎えに来られるのは目立ちすぎるので、高校から少し離れた場所に停車してもらうことにしている。
リムジンが発車して車に揺られることしばらく。
異能機関の本部に到着した。
門番が立っている扉を抜けて中に入ると、高級ホテルのエントランスへと入った。
エントランスには見知っている人物がいた。
「おっ、東条君」
Bランクエージェントで京香先輩のパーティーに在籍している凛だ。
エントランスのテーブルでお茶を飲んでいたようで、凛は俺を見つけるとテーブルから立ってこっちの方へと歩いてきた。
その後ろには寧々もいるが、人見知りを発動しているのか凛の袖を掴んで背中に隠れている。
「久しぶり、前に診療室で会ったきりだよね」
「ひ、久しぶり……」
「はい、お久しぶりです」
凛と寧々が挨拶してくる。
寧々が挨拶してくれるということは、最低限嫌われてはいないということか。
「いや、なんで敬語なの」
丁寧語で挨拶を返した俺に、凛が首を傾げる。
俺は頭を掻きながら説明した。
「年齢も上だし、エージェントとしても先輩なので敬語を使ったほうが良いかな、と……」
前のときは可憐と話していた延長線上で自然とタメ口で話していたが、よくよく考えれば凛も寧々も年上だ。
だから敬語を使った方がいいんじゃないか……と思ったが、どうやら凛と寧々は違うようだ。
「そんなの気にしなくていいよ。私達もう命をかけて戦った戦友じゃん」
凛がまるで親しい友人にそうするように、肘打ちをしてくる。
「そ、その通り……」
確かに、俺と京香先輩のパーティーは命を預け合って戦った仲間だ。
その相手が敬語を使わなくて良いって言ってるのに、それに対して変にかしこまって敬語を使うのも無粋だな。
「じゃあ、これからはタメ口でいかせてもらう」
「全然おっけー」
会話が一段落したところでアイリスが入ってきた。
「すまないがこれから用事があるんだ。今日のところはここで」
「ああ、邪魔してごめんね」
手を振ってくる凛と寧々に対して手を振り返す。
そのままエントランスを進んでいると、声が聞こえてきた。
「おい、アイツAランクパーティーに声かけられてるぞ?」
「しかもなんか戦友って言われてなかったか?」
「マジ? あの天海パーティーのメンバーだぞ? 男はろくに近寄らせないことで有名なのに……」
「てかなんでAランクパーティーに認めらてるんだ?」
「いや、それがA+ランクのモンスターを倒したらしいぞ」
「はっ、どうせ天海と一緒にだろ? Sランクと一緒だったらどんなモンスターでも倒せるに決まってるじゃねぇか」
「いや、単独でらしい」
「はぁっ!?」
「それに一人でAとBランク混じったモンスターの群れを倒しきったとか……」
「嘘だろ!?」
「アイツ、一体何者なんだよ……」
そんなふうに話している声がこっちにも聞こえてくる。
なるほど、どうやら京香先輩のパーティーは異能機関の中でもかなり有名なパーティーのようだ。
そりゃそうか。まだ高校生の美少女四人で構成されたパーティー。それも全員高ランク。
その中のひとりは日本最強のSランクエージェント、天海京香だ。
注目を集めないほうがおかしいというものだ。
視線を感じながらエントランスの奥へと進んでいき、そしてホテルのような内装の廊下を歩いていくと、アイリスはある扉の前で立ち止まった。
「なんだここ?」
「ふふん」
俺の前を歩いていたアイリスは、手に古風な鍵をチャリンと回しながら振り返る。
「ここは、私たち専用の作戦会議室だ」
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