第22話 勝負の結果
凛がケルベロスがいた方向を指して聞いてくる。
「い、いや……なんかすごい動きしてたんだけど何あれ」
「いや、普通に戦っただけだけど」
「そうじゃなくて。明らかにおかしい動き、してなかった?」
「え? ああ、それか。あれは単純に身体の中で電気を放電させて、自分の身体能力を強化させてるだけだよ」
「に、にんげんじゃない……」
凛と寧々がちょっと引いた感じの目で見てくる。
え? いやそうか……?
普通に身体能力を強化して戦っただけなんだが……。
「それにしてもすごいね。どれだけ練習したらそんなのできるようになるの?」
「えぇ? 先輩なら魔術で身体を強化したら、あれくらいできそうですが」
「いやいや、少なくとも私、あんな動きできないから」
京香先輩がぶんぶんと手を振る。
「あんな動きしてるの少なくとも真澄くんしか見たことないよ」
京香先輩の言葉に凛と寧々がうんうん、と頷いている。
凛と寧々と会話する中、どさりと音がした。
さっきから一人唖然としていた可憐が剣を取り落とした表情だ。
可憐は俺が四体を仕留める間に一体仕留める事ができたようだ。
つまり、この勝負は四対一で俺の勝ちということになる。
「な、なんなのよあんたは……」
「俺の勝ちだな」
勝ち誇った笑みを可憐へと向けると、可憐はぐっと悔しそうに唇を噛んだ。
そこで俺は今までさんざん絡まれたことに対する、ちょっとした意趣返しを思いついた。
「ああ、そうだ。勝負の賭けだけど」
「な、なによ……!」
「俺が負けたら一生京香先輩と関わらないこととを賭けたってことは、お前が負けたら京香先輩と一生関わらないってことか?」
「えっ、あっ、そっ、それは……!」
「自分で言ったんだろ? もしかして、自分の言葉を覆したりしないよな?」
わかりやすく狼狽え始める可憐。
俺は調子にのって、さらに可憐を問い詰める。
「勝負なんだよな?」
「それは、そうだけど、うぅ……」
「言い出したのはお前だよな。じゃあ、ちゃんと宣言しろよな。「私は勝負に負けたので、二度と京香先輩には近寄りません」って」
「………………ふぇ」
「ん?」
「ふぇぇぇぇぇぇんっ!!」
「えっ?」
「だって、だってぇぇぇぇ! 負けるなんて思ってなかったんだもぉぉぉぉんっ!! うぇぇぇぇぇん……っ!!」
「えぅ、ちょっ」
可憐が大粒の涙を流して泣き始めた。
ど、どうしよう。泣かせるつもりはなかったんだが……。
流石にやりすぎた。
どうすればいいのか分からなくなって俺が狼狽えていると、ニヤリと笑みを浮かべた京香先輩が肩をぶつけてきた。
「あーあー、泣かせちゃった。ひどい男だね、真澄くん?」
「あらら」
「お、女の敵……!」
「あ、あれ……?」
周囲を見渡す。
いつの間にか形成が逆転していた。
『見損なったぞ真澄、まさか君がそんなやつだったとは……』
『真澄様……』
イヤホンからアイリスとシャーロットも可憐へと加勢する。
罪悪感に苛まれていた俺は、可憐へと向かって手を差し出した。
「ほら、ごめんって。ちょっとからかいすぎた。ごめんな」
目をうるませた可憐が鼻を鳴らして聞いてくる。
「…………私、京香先輩から離れなくてもいいの?」
「ああ、あんな約束そもそも無効だ。どっちも了承してなかったんだからな」
「ほんと?」
「ほんとほんと」
俺が何度も頷くと可憐は涙を拭って俺の手を取り、立ち上がる。
これでいいですか……? と先輩たち三人にお伺いを立てると、力強く頷いた。どうやらこれでいいらしい。
「ほら、可憐ちゃんもちゃんと謝って」
京香先輩が可憐へとそう視線を向ける。
可憐はバツの悪そうな顔で俺に謝ってきた。
「な、何度も突っかかってごめんなさい……」
「ああ」
「はい、あくしゅー」
京香先輩に無理やり握手させられる。
そうして、調子を取り戻してきたらしい可憐は、まだ赤い目元を釣り上げてで腰に手を当てる。
「ふ、ふんっ、一回勝ったからって慢心しないことね。私の実力はまだ見せてないんだから!」
「はいはい」
空気を切り替えるように京香先輩が手を叩く。
「よしよし、仲直りもできたみたいだし、次にいこうか」
***
渋谷地下迷宮は五層以上のAランクダンジョンだ。
そして俺達はその一層目を攻略しているわけだが、想像よりもスムーズに攻略は進んでいた。
もちろん、Aランクダンジョンというだけはあり、出現するモンスターもCランク以上のモンスターしか出てこない。
それもどのモンスターも基本的に群れで行動してくるため、俺一人だと戦い辛い相手だろう相手もいた。
それでもスムーズに攻略できたのは、ひとえに京香先輩のチームの連携力によるものだ。
「前方に敵」
「よしっ、今度は私の出番ね」
凛の言葉とともに京香先輩が刀を抜く。
前方に現れたのはグリフォンの群れ。
Bランクのモンスターだが、十体は飛んでいる。
どれも空を飛んでいる相手で、日本刀が届くような位置にはいない。
しかし楽しそうにグリフォンの下あたりへと走っていく。
「どうやって空中のモンスターを攻撃するんだ?」
「まあ見てなさい。京香様は凄いんだから」
さっきよりちょっと俺に対する態度が軟化した可憐が、ふふんと自慢げに胸を張る。
グリフォンの群れの真下へと到着した先輩は上を向くと──。
「よっ」
っと言った瞬間、姿が消えた。
いや、違う真上の空中に瞬間移動したのだ。
グリフォンの群れの中に突如現れるような形になった京香先輩は、日本刀を両手で持って、
「よい、しょっ!」
空中で一回転させた。
すると次の瞬間、回転させた円の延長線上にいたグリフォンが真っ二つになる。
「なんだあれ……!?」
「京香様の『切断』は、斬撃の線を伸ばせるのよ。凄いでしょ!」
しかしグリフォンをほとんど斬ることはできたが、その斬撃の延長線上にいなかったグリフォンもいた。
そのグリフォンはまだ生きている。
「あちゃー、三体打ち漏らしちゃった。寧々ちゃん、お願い」
京香先輩は地面へと落ちながら寧々へとそう告げる。
「う、うん……」
先輩の言葉で寧々は空中にいる三体のグリフォンへと両手の手のひらを向ける。
「『
すると三体のグリフォンそれぞれに黒い手が巻き付いた。
翼の自由を奪われたグリフォンが地上へと落下する。
そこにはもちろん、鞘に納刀した刀の柄に手を当てて、居合の構えを取っている先輩が待ち構えている。
三回剣閃が輝くと、三体のグリフォンが両断されていた。
改めて見ても凄い連携だ。
凛と遠くからでもモンスターの位置を把握する索敵能力と、京香先輩の高い攻撃力。
可憐は今は出る場面がなかったが、範囲攻撃も遠距離攻撃もできるという、京香先輩と同じくらいメインで火力を張ることが出来る。
「へへん、凄いでしょ。寧々ちゃんの異能は『
「えへへ……沢山手が出せるから、便利……力も強いし」
寧々が控えめに笑う。
「凛ちゃんの『索敵』も便利でしょ? 半径一キロの円の中にいたらどんなモンスターでもわかるし、罠だってわかるんだから」
「確かに便利だよな。」
俺と京香先輩の言葉に、凛は頬を赤らめる。
「……褒め過ぎだから。その代わり、私戦闘はできないし」
『真澄、勘違いするなよ。彼女の射撃のスコアは高いし、単独でBランクのモンスターを狩った記録だってあるんだからな。実力自体はあるぞ』
つまり凛が肩からぶら下げているあの短機関銃は飾りではないということだろう。
戦闘向きではない凛ですらBランク以上を普通に狩れる。
これが日本の中でもトップのチームか……。
「それにしても」
京香先輩が俺の目の前へと回り込んで来る。
いきなり目の前に可愛い顔が近づいてきたので、慌ててのけぞって距離を取る。
「な、なんですか?」
「やっぱり君と私、相性いいと思うんだ? どう、私のパーティーに入らない?」
距離を取る俺を見て、ニヤァ、と笑った先輩は更に顔を近づけてそう尋ねてきた。
そのうえ、上目遣いでおねだりのポーズまで取ってくる。
「私と一緒なら君もすぐにAランクに上がれるだろうし、いろんなダンジョンに潜れるようになるから、稼ぎ放題だよ?」
「い、いや……」
『駄目だ駄目だ! 何ちょっとぐらついてるんだキミは!』
イヤホンからキーン! とアイリスが叫ぶ声が聞こえてくる。
「は、はぁ!? 別にぐらついてねーし!」
『いいやぐらついてたね! 女に言い寄られて鼻の下を伸ばしてたね!! 言っとくが、キミたちのやり取りはイヤホンを通じて全部こちらに聞こえてるんだからな!』
俺とアイリスがイヤホン越しにわーわー! と騒いでいると、京香先輩がくすっと笑った。
「これは……スカウトできる雰囲気じゃなくなっちゃったね」
京香先輩が肩をすくめる。
ふと視線を感じてそちらに目を向けると、可憐が「ぐるるるる……」と睨んできていたが、前みたいに怒鳴られることはなかった。
その時、凛がまたストップをかけた。
「この階層のボスを見つけたよ。……ドラゴンだ」
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