第21話 挑発したら…?
「
「そそ、炎を操る能力ね。シンプルだけど……結構強いよ?」
京香先輩が可憐への方へ視線を送る。
可憐はケルベロスに向かって仁王立ちで立ち向かう。
ケルベロスの口からさっきよりも多量の煉獄の炎が漏れ始めた。
そして対峙している可憐に向けて、その三つの頭から火炎放射を放った。
「っ、よけ──」
避けろ、と言いかけた時、可憐がケルベロスへ向けてその剣の切っ先を向けた。
「『業火の
可憐がそう叫ぶと、剣の切っ先から荒れ狂う炎の嵐が放たれ、ケルベロスの火炎放射とぶつかった。
しかし勢いは遥かに可憐の方が高い。
「グルッ!?」
ケルベロスの火炎放射は可憐の炎の嵐に押され、ケルベロスの身体は炎に飲まれていった。
荒れ狂う炎の嵐はそれだけでは収まらず、後ろの木々すらも巻き込んで焼き尽くしていく。
「ふん、まあざっとこんなところかしらね」
可憐がツインテールを払いながら振り向く。
炎が収まった後、そこに残っていたのはケルベロスの魔石と、炎の嵐が吹き荒れて焦土と化した森だけだった。
「どう新入り? Aランクエージェントの実力を理解したかしら?」
「ああ、確かにすごいな……」
さすがはAランクエージェント。
実質異能機関の中の最高ランクなだけはある。
異能の威力も、規模も桁違いだ。
あれだけの大技を撃っておいて疲労している気配もない。つまりは可憐は相当な魔力を持っているということだ。
『彼女はエージェントの中でも有数の魔力と、出力の高い異能を持つ人間だ。間違いなくトップ層の一人だよ』
通信でアイリスが補足を入れてくる。
「ふふ、すごいでしょ。可憐ちゃんの魔力は私より多いんだから」
「え、そうなんですか? てっきり京香先輩の魔力量ってめちゃくちゃ多いのかと……」
「いやいや、私がSランクに登録されたのは『切断』の異能の能力が青天井だっただけで、実は魔力量自体はそこまで多くないんだよ?」
「じゃあ、どうやってSランクモンスターを倒したんですか?」
「それは簡単だよ。魔力を他人から借りたの」
「借りた?」
「うん、魔力って貸し借りが出来るから──」
「あ、ストップ。敵が来たよ」
凛が京香先輩の解説をストップする。
「敵の数は?」
「五匹。全部ケルベロスだね。さっきの一体は群れからはぐれた個体みたい」
「おっけー、五体なら一人一体……」
「ちょっと待ってください!」
そこで可憐が京香先輩にストップを掛けると……ビシッ! と俺に指を指してきた。
「そこの新入り! 勝負よ!」
「勝負?」
「ケルベロスは五体! ならどっちが多くケルベロスを狩れるかで勝負しようじゃない! いいですか京香様!」
「あー……うん、いいよ」
可憐は京香先輩のほうを向く。
期待の眼差しを向けられた京香先輩は少しの間考えた後、人差し指と親指で丸を作った。
この人……多分「面白そうだから」って理由だけでオッケーしたな。
京香先輩との付き合いはまだ短いが、この人がどういう人なのかが最近わかってきたような気がする。
「負けたらどうなるんだ」
「あんたはこれから一切、京香様に関わらないと誓いなさい!」
「えぇ……」
なんだその変な条件。
「そうは言われても……もし俺が負けたら、ダンジョンの攻略はどうやってするんだ?」
俺が質問すると可憐は明らかに困ったようにうろたえ始めた。
「えっと、それは、その……」
考えてなかったのかよ。
「ケルベロス来たよー」
凛が指を差す。
「と、とりあえずどっちが多く狩るかの勝負だから!」
可憐が勝手に勝負を始めるのと同時。
木々の向こう側からケルベロスが五体こちらへとやって来た。
「来たわね!」
可憐は剣を構える。
「話全く聞いてないし……」
俺はため息をつきながら、制服下のホルスターから銃を取り出した。
「お先にもらうぞ」
「あっ、ずるいわよ!」
「だったらお前も銃を使えばいいだろ」
さっそくケルベロスへと向けて引き金を引く。
別に可憐の交戦距離になるまで待つ必要はない。せっかくこっちは遠距離武器なんだからな。
可憐が戦う前に全部狙撃して倒してやる。
しかし、俺の思惑は外れた。
ギンギンッ!!
「弾かれた?」
ケルベロスが前に魔法陣を出現させて、俺の銃弾を弾いたのだ。
前に戦ったBランクモンスター、キマイラのヤギ頭が使った魔術だ。
『Bランク以上のモンスターになってくると普通に魔術を使い出すようになるから気をつけろ』
アイリスが補足を入れてくる。
再度魔力を込めて撃ってみるが……それは躱されてしまった。
巨体の割にはすばしっこくて当てにくい。
「くっ……」
「ふふん! あんたの射撃の腕はその程度なの? もたもたしてるとあたしが全部狩っちゃうわよ!」
苦戦していると可憐が剣を構えてケルベロスの方へと駆けていった。
「ふぅ……」
深呼吸して一旦思考を整理する。
銃弾は遠くから撃っても避けられる。
いっそのこと雷撃を使えば仕留めることが出来るだろうが……俺には試したいことがあったのだ。
俺も全身に魔力を回し、身体能力を向上させる。
そして脚に力を込めると──駆け出した。
「グルッ!?」
高速でこっちへ向かってくる俺を見て、ケルベロスが咄嗟に魔法陣を展開する。
「お、らぁッ!!!」
「ギャンッ!?」
しかし魔法陣ごと俺はケルベロスを殴り飛ばした。
「使い勝手は良好だな! さすがは100万かかった装備!」
平たい魔法陣に顔を潰されているケルベロスに、俺は至近距離で──銃口を突きつける。
「いくら魔法陣が強くても、ゼロ距離でいれられたら……避けられないだろ」
それに、さっき俺の銃弾を避けたということは……これだけ魔力を込めてれば魔法陣では防げないということだ。
引き金を二回引く。
ケルベロスの防御用の魔法陣はいともたやすく銃弾に貫かれ、ケルベロスの頭三つを、二つの銃弾が貫通していった。
頭を撃ち抜かれ塵となっていくケルベロスには目も向けず、俺は次の獲物へと視線を向けた。
「まだまだぁ!」
いきなり一匹やられたことで後ずさったケルベロスを逃さないように、俺は再度強化した身体能力で突っ込む。
そして二体目のケルベロスの頭に、顎から蹴りを入れた。
「ギャウンッ!!」
「脚の方も良好! 全力で蹴っても痛くない!」
テンションが上った俺は、真ん中の頭の顎に銃口をつきつけ、脳天に一発ぶち込む。
そして右を向いてもう一発。
最後に残った頭に至近距離から『雷撃』を放った。
二体目も塵へと変わっていく。
「二体目……!」
空中から地面に落ちていく。
三体目に向き直ると、すでに俺へ向けて火炎放射を放とうとしていた。
空中では地面を蹴ることができないため、俺は右手に特大の『雷撃』を作った。
「『雷撃』ッ!!」
雷の柱が、ケルベロスの身体を飲み込んで焼き尽くす。
地面に着地した俺はもう一度地面を蹴る。
そして四体目の頭の上に手を置いた。
「気になってたんだよな。全力で放電は攻撃として通じるのか」
「ワ、ワゥ……」
ケルベロスが泣きそうな顔で見上げてくるが、無視。
全力の放電を行った。
数秒雷鳴が響き……真っ黒になったケルベロスが地面に倒れて塵となる。
「ふぃー、これで四体討伐完了……って、どうしたんだ?」
地面に着地した俺は、唖然とした表情でこちらを見ている可憐たち三人と、「わーお」と拍手している京香先輩と目が合った。
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