第20話 異能『発火能力』
「まずはダンジョンの広さですが……申し訳ありませんが、まだ全体像は掴めておりません」
「それほどまでに深いのか?」
「我々が全体像を把握できなかった理由としては、一つはこのダンジョン──暫定的に「渋谷地下迷宮」と呼称させていただきますが、この迷宮が階層型であるからです」
「階層型……!?」
アイリスを始め、京香先輩のパーティーメンバーがざわついた。
俺はアイリスに小声で質問する。
「階層型ってなんだ?」
「ダンジョンがビルのようになっているということだ。その階層のボスを倒さなければ次の階層に進めない、厄介な種類のダンジョンだよ」
「なるほど」
黒服が説明を続ける。
「現時点で渋谷地下迷宮について判明しているのは四階層目までのモンスター、そして五階層目がある、ということだけです。加えて、それぞれの階層にAランク以上の魔力放っているモンスターがボスとして存在していることも判明しています」
「つまり、実質Aランク迷宮が四つ以上重なってるのと一緒ってこと?」
「そうなります」
「Aランク迷宮が……四つ……」
「あっちゃぁ、これは大変そうだね……」
「五階層目も、ボスは確実にAランク以上でしょうしね」
暗くなりかけた雰囲気を変えるように京香先輩はパン、と手を叩く。
「ま、なんとかなるでしょ。増援申請も出してるし、それでも苦戦するようなら伝家の宝刀も出せばいいしね。私達ならなんとかなるよ、これまでもそうしてきたんだから」
「はい! その通りですね京香様!」
京香先輩の言葉に可憐がいち早く反応する。
「それじゃ、さっそく始めよっか。ここでうだうだしてても仕方ないしね」
「はい!」
先輩の一言で、ダンジョンの攻略が始まった。
***
「ここがAランクダンジョン……」
渋谷地下迷宮の中に入ってまず目に入ってきたのは、いつもの洞窟とは違った。
「森……?」
俺達が降り立った先は森の中だった。
森の中と言っても普通の森ではなく、木の幹がグニャグニャと曲がった、なんとも奇妙な森だった。
木々の隙間から見える空には青空も見える。
「ダンジョンって、洞窟だけじゃないのか」
『基本は洞窟型だが、稀に別の形のダンジョンもある。Bランク以上のダンジョンに多いイメージだな』
「なるほど」
俺がポツリと呟いた独り言に、イヤホンからアイリスが補足を入れてくれる。
するとまた横から馬鹿にするような口調で割り込んでくる人物がいた。
「ふん、そんなことも知らないわけ? 素人じゃない」
「は? さっきからなんだよ……」
「こーら」
俺が文句を言おうとした時、京香先輩が可憐へとチョップをかました。
「きゃんっ!?」
「可憐ちゃん。さっきから意味もなく絡むのはやめなさいって言ってるでしょ」
「ごめんなさい京香様……」
「よしよし、落ち着いてね」
「はい、京香様……」
可憐は俺のときとは打って変わって素直に謝ると、京香先輩に頭を撫でられながら自慢げにフッと鼻を鳴らした。
なんだこいつ。
「ほら可憐ちゃん。真澄くんにごめんなさいは?」
「ゔぇっ」
「ごめんなさいは?」
憧れの先輩に諭され、可憐はぐぎぎぎ、と歯を食いしばった。
「ご、ご、ごめん、なさい……」
「よろしい」
可憐が謝まると、先輩は俺の方を向く。
「真澄くんもごめんね?」
「ええ、まぁ……」
先輩はニコリと微笑む。
そして可憐から手を離すと、俺に改めて向き直った。
「それじゃ、改めて私のパーティーの紹介をしようかな。こっちはツインテールのツンデレで可愛い子は
「全部接頭語に可愛いが付いてるんですが……」
俺のツッコミは無視して、京香先輩は続ける。
「みんなBランク以上の凄腕エージェントだから、可愛いからって侮らないようにね」
ぜ、全員俺よりもランクが高いのか……。
やっぱり、人は見かけにはよらないな。
「そして私が超美少女かつ日本唯一のSランクエージェント、天海京香だよ。改めてよろしくね、真澄くん」
「よろしくー」
「え、えへへ……よろしく」
「あ、はい。Cランクエージェントの東条真澄です」
可憐と違って友好的に挨拶されたので、俺も挨拶を返す。
「本当にCランクからスタートなんだ……」
「す、すごい……へへ」
Cランクエージェント、と聞いた凛と寧々が驚いたような表情になる。
ここにいる四人の中で一番低いんだが、何がすごいのかイマイチよくわからない。
「私はまだあんたを認めてないから」
しかし可憐はむっと俺を睨んでくる。
俺が何をしたっていうんだ……。
簡単な自己紹介が終わると、迷宮の攻略が始まった。
普通なら手分けしてモンスターを狩っていくのが普通だそうだが、今は合計五人しかいないので、固まって行動したほうが良いだろう、ということだそうだ。
戦闘を歩く京香先輩をなんとなく見ていると、先輩が腰から日本刀をぶら下げていることに気がついた。
「そういえば先輩、本当に日本刀が主武器なんですね」
「うん、そうなの。Aランク魔石で作った強い武器なんだよ? Sランクの魔石で作ったのもあるんだけど、それは気軽には使えないしね……」
「Sランクって、京香先輩が倒した……?」
「そうそう、私が倒したSランクモンスターの魔石を使って作った日本刀があるんだけど、強すぎて使うには異能機関に申請して封印を解いてもらう必要があるんだよね……」
残念そうにため息をつく先輩。
魔石から武器を作れるなら、もしかしたらと思ってたが……。
やっぱり作れるんだな、Sランクモンスターから、武器を。
ということは超大型台風モンスターから作られた武器がある、ってことか……。
ちょっと、話の規模が違いすぎるな。
「でも、先輩の持ち物のに、自由に使えないのはひどいですね……」
「そうよ、その通り!」
「うわっ、なんだいきなり!」
俺の言葉に可憐がくいついてきた。
「あれは京香様にこそ一番ふさわしいのよ! それなのに封印まで施して京香様から取り上げるなんて、許せないわ……!」
「仕方ないよ。作るときに費用を半分持ってもらったんだから」
異能機関に怒っている可憐をよそに、京香先輩が苦笑いを浮かべる。
「その、Sランクの魔石を売ろうとは思わなかったんですか?」
「それも考えたんだけどね? すっごく高かったし。でもこれを私の武器として使ったほうが面白いな、って思ったんだ。お金ならモンスターを倒せばいくらでも手に入るしね」
「面白いって……」
前から思ってるが、もしかしてこの人の行動原理は「面白いから」なんじゃないだろうな。
五人で森の中を歩いていると、ボブカットの少女、凛が待ったをかけた。
「ちょっと待って、この先にモンスター」
「ランクは?」
「B以上」
「じゃあ私が……」
「待ってください京香様、ここは私にやらせてください」
先輩が刀を抜こうとすると、可憐がそれを止めた。
「可憐ちゃんが?」
「はい」
可憐は強く頷く。
「Bランク程度の雑魚に、京香様の魔力を消耗させるわけにはいきません。それに……」
可憐はぎろっと俺を睨む。
「新入りに、格の違いを教えてやらないといけませんから」
目の前の茂みから何かが出てきた。
三つの頭を持つ犬──ケルベロスだ。
全長三メートル以上もある巨大な犬が木々の隙間から顔を出す。
「グルルルルルルゥ……」
ケルベロスは俺達を認識すると牙を向いて威嚇した。
口からは煉獄の炎が漏れている。
それを見て、可憐はニヤリと笑った。
「ケルベロスね……ちょうど良いわ。──火力勝負といこうじゃない」
そう言って可憐は腰の剣を抜き放った。
「異能機関に入ってから一年でAランクに上がった私の実力を思い知りなさい」
そして剣を構えた瞬間、可憐の足元から炎が吹き荒れた。
「私の異能は『
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