第18話 幼馴染の追及
「で、昨日の事件はどうなったんだ?」
翌日、俺は朝食を食べながら昨日の事件がどうなったのかをアイリスへと尋ねた。
「キミが無力化した犯人がその場にいた人質たちによって拘束された後、警察へと引き渡されたよ。幸いにも怪我人はゼロ人。あのままだと何人かは死傷者が出ていたかもしれない、と感謝されたよ」
「そうか。皆けが人がいなかったなら良かった……」
けが人が出ずに無事だったならそれで良かったと思う。
「そういえば、なんか犯人の様子がおかしかったんだけど……麻薬でもやってたのか?」
「それが少し厄介でな」
「厄介?」
「犯人が捕まった後、何度もうわ言を繰り返していたから薬物検査が行われたんだが、その結果は白。しかし犯人はそれでも「頭の中に誰か居る」「ずっと誰かに話しかけられていて、そいつに犯行するように命令された」と供述した」
アイリスはティーカップに口をつける。
「精神疾患を患う患者によくある傾向だが……こちらが調査した結果、彼には魔力の痕跡が残っていたんだ」
「それって……」
俺は犯人が何度も言っていたことを思い出す。
──「なんで俺なんだ」「言う通りにしたんだから俺を解放しろ」
……まるで、頭の中から命令されたようなセリフだ。
「そうだ。もしかしたら彼は魔術か異能によって操られていた可能性がある」
「じゃあ……あいつは無理やり強盗をやらされてたってことか?」
「それはまだ分からない。操られていたかもしれない、というのもあくまで可能性の一つだ」
後味の悪い会話を終えた瞬間、家のチャイムが鳴った。
「こんな朝っぱらから誰が……」
俺はインターホンの映像を確認したところで……固まった。
なぜならそこに映っていたのは……俺の幼馴染である鈴乃だったからだ。
まずい……アイリスたちといっしょに居るのを知られてたら、とんでもないことになる……!
「ご来客でしょうか? でしたら私が……」
「い、いや大丈夫だから! それより今からしばらくはリビングから絶対に出てくるなよ!」
「はぁ? なんでそんな面倒くさい……」
「絶対だぞ! 絶対だからな!」
有無を言わさず俺は玄関へと歩いていく。
扉を開けた先には鈴乃が立っていた。
「あ、おはおうございます真澄くん」
「お、おはよう……。こんな朝からどうしたんだ?」
「その……久しぶりに一緒に登校しようかな、って思って……」
「一緒にって……まだ登校するには早いけど……」
「その……早めに来て、真澄くんにお食事を作ろうかな、って……」
鈴乃はそう言って、手に持っているバックを掲げた。
「え? そ、それは……」
「真澄くん、最近あまりちゃんとしたご飯を食べれてないんじゃないか、って思いまして……朝食とついでお弁当も作って差し上げようかと思ったんですが……駄目でしたか?」
「い、いや、気持ちは嬉しいんだけど……」
「けど?」
「その、今日はもう朝は食べちゃったんだよ。だから、いらないかな、はは」
「ではお昼だけでも作りますよ? お弁当、食べたくないですか?」
「え、ええと……それも今日はいらない、かな」
俺は鈴乃を家に入れないためになんとか誤魔化す。
その時、ガサッとリビングの方から音がした。
ぴたり、と鈴乃が足を止める。
あ、あいつら……!
「…………もしかして、誰か居るんですか?」
「え?」
「いつもと違って不自然なくらい家に入れてくれないし、それに……すんすん。自炊した匂いがします。真澄くん、お料理は出来なかったですよね?」
「え、いや、その最近できるようになって……って、鈴乃!?」
俺が必死に言い訳していると、突然鈴乃が俺の制服を引っ張って顔を近づけてきた。
そして数回鼻を鳴らした鈴乃は……絶望の表情で顔を上げた。
「……女のにおいがする」
「いっ……!?」
な、なんでバレたんだ……!?
そんな匂いなんて自分では全くわからないんだが……!?
ニコリ、と全く笑ってない笑顔を浮かべた鈴乃が、俺にこてんと首を傾げて尋ねてくる。
「真澄くん」
「な、なんだ……?」
「家に、入っても、いいですか」
やけに短く言葉を区切りながら問うてくる鈴乃。
ハッキリ言って、めちゃくちゃ怖い。
「い、いや……今はちょっと……」
「幼馴染の私が家に入って、困るようなことがあるのですか?」
「あ、あるにはあるんじゃないか? 親しき仲にも礼儀ありというし……」
「真澄くん、隠し事をするときには右目の筋肉が引きつりますよね。私、幼馴染ですからわかるんです」
「と、とにかく今日は駄目だ!」
俺は無理やり会話を打ち切って、俺は扉を閉めた。
扉の外から「真澄くん」と俺を呼ぶ声が聞こえるが、無視だ。
五分ぐらい待っていると声が消えた。どうやら諦めて学校へと向かったらしい。
後が怖いが、アイリスたちが家にいる現場を押さえられなければ問題ない。
リビングに戻ると、ふくれっ面のアイリスがいた。
「彼女とは、随分仲がいいんだな」
「え、いや別に幼馴染なんだから……」
「……ふんっ、もういい」
どうやら鈴乃とのやり取りの一部始終を見ていたらしい。
それからなぜか不機嫌になったアイリスに、学校に行くまでジト目で睨まれ続けた。
もちろん、学校に登校したら鈴乃にも追及されたが、なんとか回避することに成功した。
***
そして、それから一週間が経った。
洞窟の中に稲妻が走る。
「グオォォォッ!!!」
悲鳴と共に赤色の肌を持つ人間型のモンスターが膝をつき……塵となっていった。
洞窟の中から視界が切り替わり、外へと出てきた。
制服下のホルスターに拳銃をしまうと、隣りにいたアイリスが声をかけてきた。
「お疲れ様真澄、今回のDランク『迷宮』も攻略は完了だ」
「ああ、それにしても一週間ぶりの『迷宮』なのに、あっさり終わったな」
俺はたった今倒したオーガの魔石を持ち上げる。
今回のダンジョンはDランク一体と、Eランク六体。
時給に換算すればまあまあだが、Cランクのモンスターを倒したときよりは実入りが悪い。
それにアイリスが笑う。
「本来はこれくらいの頻度でしか発生しないものなんだよ。Cランク以上のポンポン生まれたら怖いだろう?」
「それはそうだな」
「それはそうと、今から異能機関の本部へと向かうぞ」
「本部へ? なにするんだ」
「おいおい、まさか忘れたのか?」
アイリスは腰に手を当てると呆れたようにため息をつく。
「キミの装備を受け取りに行くんだよ」
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