第17話 異能がバレた…?


 銃声が鳴り響いた後に、地面にマンティコアが倒れた。


『ダンジョン内の生体反応はすべて消失した。攻略完了だ、お疲れ様、真澄』


 イヤホンからアイリスの声が響く。

 同時に視界が洞窟の中から外へと切り替わった。


 ボスであるマンティコアを倒したことで『迷宮ダンジョン』が消滅した証拠だ。

 俺は足元に落ちたマンティコアの魔石を拾い上げる。


「マンティコアの魔石はいくらくらいなんだ?」

「25万円ほどだな」

「25……学校を早退して倒しに来たけど、これでチャラだな……」


 これ以外にもモンスターの魔石があることを考えたら……本当に良い収入すぎる。

 俺が顔を上げると、アイリスが顎に手を当てて考え込んでいた。


「どうしたんだ?」

「通常、こんなにハイペースで『迷宮』が出現することはないのだが……」

「たまたまじゃないのか?」

「そうかもしれないが……なにか作為的な物を感じるんだ」

「おいおい、作為的ってことは、誰かがわざと『迷宮』をハイペースで出現させてるってことになるぞ?」

「ふむ……」


 アイリスは顎に手を当てて考える。

 するとアイリスのスマホに通知が届いた。


「これは……!」


 スマホの画面を見たアイリスは目を見開く。


「どうしたんだ?」

「近くで事件が起こった。任務だ真澄。我々で対処するぞ」

「事件って……また『迷宮』が発生したのか?」

「いや、それよりもっと緊急性が高い事件だ」

「なんだよそれ」

「近くで──立てこもり事件が発生した」

「立てこもり……? なんで立てこもり事件を俺達が解決するんだ?」

「最初にキミを勧誘したときに、我々異能機関は世界の平和を守るのが目的だと説明したのは覚えているか。それは世界各地に出現する『迷宮』を攻略するのと同時に、人間が起こす脅威から平和を守ることも含まれている」

「そうだったとしても、俺達が対処するより警察に任せたほうが安全じゃないのか?」


 俺の問いかけにアイリスは静かに首を振った。


「その警察では犠牲者を出さずに解決するのが難しいということだ。それに、今回の立てこもり事件には異能が関係している可能性がある」

「つまり、立てこもりの犯人が異能を持ってるってことか?」


 アイリスは短く頷く。


「恐らくは。そして、この事件には──キミの幼馴染である水無月鈴乃が巻き込まれている」

「……なんだと?」

「これを見てみろ」


 アイリスが俺へとスマホの画面を見せる。

 そこには立てこもり事件で囚われている人質の顔写真付きのリストが表示されており……その中には鈴乃の名前と顔写真があった。



***



「犯人の凶器は包丁だ。幸い、まだ誰も怪我しているという情報は出ていない。が、現在犯人はひどく興奮しているようで、いつ誰を傷つけるかはわからない。今も職員の一人に刃物を突きつけていて、突入するという強硬策もとることは不可能だ」


 俺達は立てこもり事件が発生している銀行までやってきていた。

 アイリスがタブレットに映している銀行の中の監視カメラの映像の中には、確かに鈴乃が人質として囚われているのが見えた。


 犯人の男は銀行の職員を一人捕まえてナイフを突きつけ、必死に何かを叫んでいる様子だった。


(あいつ……なんでこんなところにいるんだよ……!)


 俺は内心で焦っていた。


「今回の作戦は、キミが銀行の裏から周り隙をついて犯人を制圧する、という作戦だ」

「潜入はどうやって行うんだ?」

「これを使う」


 アイリスがに手に取ったのは、魔石がはめ込まれたブレスレットだった。


「少しの間だだけ姿を消す能力がある。これで裏から潜入し、人質の中に紛れ込め。そして犯人がキミに背中を向けた瞬間を見計らって、キミの雷で麻痺させろ」

「ああ」

「ただし、一般人には絶対に異能についてはバレてはならない。拳銃も使うな、キミはまだこの状況で精密射撃ができるほど習熟してはいない」

「それは分かってる」


 モンスターのようにデカい的ならともかく、人質を盾にしている犯人を正確に射撃できると考えているほど、俺は銃の腕に自信を持っているわけではない。

 だが、『雷撃』のコントロールなら何ヶ月も特訓したから得意だ。


 俺はブレスレットをつけると裏口から侵入する。

 イヤホンから聞こえるアイリスのサポートに従って、銀行の中を歩いていく。


『そこの角を右に曲がった先の扉を開ければ、犯人が立てこもっている場所に繋がっている』

「ああ」

『それと部屋に入ったらこのイヤホンは外せ。外と通信を取っていることがバレただけでも逆上する恐れがある』

「了解」


 犯人がいる部屋の前までやってくるとイヤホンを外し……腕輪のスイッチを押した。

 これで透明化出来るのは約一分。


 手早く人質の中に混じらなければならない。

 静かに扉を開けて中に入ると、物音を立てないように人質の中へと歩いていった。


「ああ、くそ……なんで俺が……」


 ぶつぶつとうわ言を呟いている犯人にバレないように気をつけて足を運ぶ。

 狙撃か何かを警戒しているのかバインダーやカーテンはすべて降ろされており、部屋の中は思ったよりも暗かった。


 そして俺は人質組の後方組に交じる。

 その時、ちょうど魔道具の透明化が解けた。


 俺の姿はもう犯人側にも見えているはずだ。

 しかし人質が一人増えたことには気がついていないようだったので、俺は安堵のため息をつく。


「ふぅ……」

「えっ」


 隣からなんだかよく聞き慣れた声が聞こえてきた。


「す、鈴乃……」

「真澄くん、なんでここに……」


 隣りにいたのは鈴乃だった。

 しまった……そう言えばここ、鈴乃が座ってた場所らへんだったな……。

 暗くて犯人の方を見てたから全く気が付かなかった。


「さっきまではいなかったのにどうして……」

「しっ……あんまり喋るな鈴乃。相手を刺激するぞ」

「は、はい……」


 俺は鈴乃にあまり話さないように小声で注意する。

 しかしどうする……? すずのが近くにいたら『雷撃』を使うのは難しいぞ……。


 悩んでいると、ぴと、と鈴乃が肩を寄せてきた。

 首を傾げると「駄目ですか?」と言いたげな表情で見つめてきた。

 ……まぁ、人質にされて怖かっただろうし、仕方がないか。


「言う通りにしたぞ! 俺を解放しろ!」


 その時、突然犯人が叫び始めた。

 しかし一瞬沈黙した後、また頭を抱えて叫ぶ。


「どうして俺なんだよ! 出てけ! 出てけよっ!!」


 犯人が暴れ始めた。

 人質として包丁を突きつけられている女性職員が恐怖に顔を歪める。


 まずい、このままだとあの女の人が包丁で刺される可能性がある。

 仕方ない……。


「鈴乃、ちょっと10秒目を瞑っててくれるか?」

「えっ?」

「頼む」

「は、はい。わかりました……! それでは……」


 鈴乃がぎゅっと目を瞑って、顔をこっちへとくい、と上げてきた。

 なんで顔まで上げてるのかはわからないが、今のうちだ……っ!


 素早く右手に魔力を込めると『雷撃』を、一瞬だけ小さく、しかし威力は強めに発動する。


「がはっ!」


 バチッ! と音がした瞬間、雷の線が空中を走り抜けて、犯人へと伸びていく。

 そして雷撃が直撃すると、痺れた犯人が地面に倒れた。

 一番後ろから使ったから、もし仮に雷の線が見えても見間違いだと思うはずだ。


「は、犯人が倒れたぞ!」

「武器を取り上げろ!」


 犯人が気絶した瞬間を見計らって、近くで見ていた大人たちが犯人を取り押さえ、凶器を取り上げる。


「え、一体何が起こって……あれ、真澄くん? どこに……」


 周囲の喧騒に目を開けた鈴乃が周囲を見渡す中、俺はこっそりと部屋の中から抜け出していた。

 だからこそ、聞こえなかった。


「今のは一体……」


 と、呟く鈴乃の声が。

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