第15話 装備の作成
「ダンジョンで討伐したモンスターからドロップする魔石には、いくつか使い道がある」
異能機関へと行く道中でアイリスが説明を始めた。
まず、アイリスが一本目の指を立てた。
「まずは単純に研究用だな。先程も言った通り、ダンジョンには不明な点がまだ多い。モンスターも同様だ。だからいくつかは研究用として回されている」
アイリスが二本目の指を立てる。
「そして二つ目は、君も使用している銃弾へと使用されている」
続けて三本目の指を立てる。
「三つ目は魔力的な資源として、だ」
「魔力的な資源って、なんだ?」
「魔石は高密度の魔力の結晶体だ。つまり他の石炭や石油のように魔力というエネルギーを取り出すこともできる。だが、魔力エネルギーを使用する用途は少ないから、あまり使われることはない」
四本目の指を上げるアイリス。
「そして最後の四つ目は装備の開発だ」
「装備の開発って、銃弾の作成となにか違うのか?」
「ああ、かなり違う。まず、モンスターのランクによって魔石の大きさが違うことは知っているか?」
「それは知ってる。何度もモンスターを倒してるからな」
「銃弾に使用されるモンスターの魔石はFからCランクまで。Bランク以上の魔石は直接武器か装備へと変わる。これは魔石の量と質的に、Bランク以上じゃないと装備が実用レベルのものを作れないからだ」
「中途半端なものでは中途半端なものしか作れない、ってことか」
アイリスは頷く。
「そしてもう一つ、Aランク以上の魔石を武器や装備にすると、もとのモンスターの特殊能力や性質を受け継いだ装備になる。この装備はCランク以下のモンスターにはもちろん、Bランク以上の高ランクモンスターに対しても非常に効果的な武器となる。防具などにしても同様だ」
そこで説明を一区切りしたアイリスは、思い出したように注意事項を付け足してくる。
「ああ、ちなみに自分で装備を作るには別途お金がかかるから注意するように」
「えっ、お金がかかるの……?」
「もちろんだ。異能機関は別に慈善事業ではないから、所属すればすべてのサービスが受けられるというわけではない。追加の銃弾購入や装備、その他諸々は自費になってくるぞ」
俺はその話を聞いて、ちょっと躊躇いが生まれてしまった。
「な、なあ、Bランクの魔石なんだけどやっぱり魔石として売ったほうが……」
「駄目だ。長期的に見れば早い段階で装備を持っておいたほうが良い。経費ということで今回の装備の作成代は私が持つから」
「分かったよ……」
そこまで言われては仕方がないので、俺は大人しく装備を作ることにした。
「装備って言ってもどんなのを作れば良いんだ? 日本刀とか?」
京香先輩を思い題しながら俺はそう言った。
「キミの場合、既に攻撃力という面では銃と異能で十分だから……作るとしたら防具の方だな」
そして俺達は異能機関の本部へと到着した。
俺達がやって来たのは、異能機関の中にあるとある部屋の前だった。
木の扉には『開発部』と書かれたプレートが嵌められていた。
「ここだ」
アイリスが扉を開ける。
すると中はいかにも「研究室」と言った見た目の、いろいろな機械や紙などが散乱した場所だった。
魔道具とか呼ばれているようなものも沢山置いてあった。
そしてその中にあるデスクに、とある女性が座っていた。
「カーリー女史、起きたまえ」
「んー……?」
紙の束に埋もれるようにして机に突っ伏していたその白衣を着た女性は、アイリスに声をかけられて起き上がる。
ボサボサの黒髪に、野暮ったいメガネ。
こんがり焼けた小麦色の肌。
だが磨けば確実にかなりの美人になるだろう、という整った見た目をしていた。
カーリーと呼ばれた女性は寝ぼけ眼でメガネを掛け直す。
「お、アイリスちゃーん! 私のところを尋ねてくるなんて! 三日ぶりじゃないか! え、どうしたどうした? 私に何か用?」
アイリスを視界に収めた瞬間、満面の笑みになりハイテンションで話し始めるカーリー。
そんなカーリーに鬱陶しそうな表情をしつつも、アイリスは俺へと彼女を紹介した。
「彼女はカーリー。この開発部に住み着いている変人だ」
「あー、ひどーい! 乙女を変人扱いするなんてー!」
椅子の上にあぐら座りをしているカーリーは頬を膨らませて抗議する。
変人、というのは確かにその通りなんだろうな、と俺は思った。
「えっと、この人は……外国人?」
「いーや、私は日本人だよ。カーリーは名前の香里奈、をもじってカーリー。アメリカに行ってたときの名残だよ。で、どうしたのアイリスちゃん」
「キミに少し用事があるんだ」
「え、なになに?」
「これで装備を作ってくれ。こいつにだ」
そう言ってアイリスは親指で俺のことを指した。
「ふぅん、君、新しくアイリスちゃんの部隊に入ったって子?」
カーリーは興味深そうに俺のことを見つめる。
「はい、そうですけど」
「凄いよね君、開発部でも話題になってたよ。将来有望なんだよね? あ、そうだ!」
ぽん、となにかを思いついたかのようにカーリーは手を叩く。
「まだ高校生でCランクってことは将来めっちゃ稼ぐだろうし……少年、私と結婚しようか?」
「は、はぁ?」
いきなり手を握ってそんなことを言い放ったカーリーに俺が若干引いていると。
「痛っ!?」
パァン! とアイリスがカーリーの頭をはたいた。
「真面目にやれ」
「うえーん……前まではこんなジョーク、鼻で笑って許してくれてたのに。なんでこれだけそんなに怒るのぉ」
「べ、別になんでもいいだろう理由なんて……」
アイリスはちょっと焦ったような口調でそう言った。
そして指で髪をいじりながらチラチラと俺を見てくる。
なんだ?
「あ、ふーん……なるほど……」
カーリーは何かを察したようにニヤリと悪戯めいた笑みを浮かべたが、俺にはさっぱり意味がわからなかった。
空気を切り替えるようにアイリスが強く咳払いをする。
「ごほん! それで、これで装備を作ってほしい。一体どんな装備が良いと思う?」
「これはBランクの魔石か。少年、君の
「拳と拳銃」
「ワオ、ストロングスタイル。そういうの嫌いじゃないぜ? てなると、武器を作ってもしょうがないか。Bランクくらいだとそこそこの性能しか作れないし。じゃあ、作るとしたらプロテクターかな」
「プロテクター?」
カーリーの提案に俺は首を傾げる。
「そそ。まあプロテクターって言ってもこの魔石の量だと手と足を守るくらいのプロテクターが限度だけど」
「プロテクターにする心は?」
「高いランクのモンスターを素手で殴ったら拳を痛めるだろうし、プロテクターで守った方がいいと思う。それに主武器が拳と銃って、つまりは体術を使って戦うってことでしょ? だから無茶な動きにも耐えられるプロテクターが良いと思ったんだけど、どう?」
「……」
カーリーの言っていることはほぼ当たっていた。
実際にキマイラを全力で殴ったことで俺の手は傷んでいるし、その度にシャーロットに治癒してもらうのは現実的ではない。
ここはカーリーのおすすめであるプロテクターにするほうが良いだろう。
「じゃあそれで頼むよ」
「おっけー。どういうのが良い?」
「制服の下に着れるくらい薄くて、なおかつ丈夫なのが良い」
「えぇー……結構ムチャな要求するねぇ……まあできるけど」
「できるのかよ」
自分でも結構無理を言っているとは思ったんだが。
ふふん、と自慢げにカーリーは胸を張る。
「私を誰だと思ってるの? 天才カーリーさんだよ!」
プロテクターの作成には三日ほど時間がかかるらしく、また後日取りにくることになった。
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