第14話 実力を見せた結果
俺は四人組の前へと歩み出た。
「な、何をしてる!」
「決まってるだろ。倒すんだよ、あいつを倒すんだよ」
「はぁ……? 入ったばかりの新人が何を言って……」
リーダーの言葉を置き去りにして、俺は前へと出た。
「『雷撃』」
初っ端から俺は『雷撃』をお見舞いする。
雷がキマイラへと直撃する。
「な、なんだあの威力の魔法は……」
「Cランクエージェント以上の威力はあったぞ……?」
「ほ、本当にただの新人なのか……?」
四人組の声が聞こえてくる。
しかし──。
「『雷撃』が効いてない……?」
俺の『雷撃』を受けたキマイラは無傷、とまではいなかいがあまりダメージを受けていない様子だった。
それに対してイヤホンからアイリスが補足を入れてくる。
『キマイラはBランクモンスター。今までのモンスターとは装甲の違いも別次元だ。今までの威力では倒せない』
「なるほど、道理で」
「グルルルルゥゥゥ……!!」
俺に『雷撃』を当てられてムカついたのか、キマイラが俺を睨んでくる。
「っと、ここじゃ後ろが巻き込まれるか」
このまま戦ってしまうと後ろの四人がキマイラの攻撃に巻き込まれてしまう可能性がある。
俺は走って横へと逸れる。
同時にキマイラの顔へと銃を撃った。
走りながらだったから不安だったが、キマイラの胴体に二発銃弾が命中する。
「グォォォォォッ!!!」
予想に反して銃弾はキマイラの皮膚を貫いた。
痛みにキマイラが悲鳴を上げる。
「『雷撃』よりも魔力を込めてなかったのに、なんでだ……?」
『銃弾は貫通力を重視した武器だ。だから少ない魔力でも強靭なモンスターの皮膚を貫くことができる』
貫通力が高いということは、少ない魔力でも頭や弱点に銃を当てれば倒せるということでもある。
つまり、最小の魔力で相手を倒せるということだ。
「……銃って、もしかして強いのか?」
『ようやく気がついたのか馬鹿者め』
「グオォォォオオオッ!!!」
キマイラがその前足を振り上げ、俺へと攻撃をしてくる。
素早く避けると、ドォォンッ!! と振り下ろされた脚が地面をえぐり取った。
ゴーレムやワイバーンよりも強い一撃だ。
後ろへと飛びながら銃弾をキマイラへと浴びせる。
すると銃弾は皮膚へと食い込み、キマイラが怯んだ。
だがキマイラを斃せるような威力には程遠い。
貫通力は高いが、決定打には欠けていた。
(もっと魔力を込めないとだめか……!)
しかしすでにマガジンの中の銃弾は切れていた。
マガジンを交換しようと予備のマガジンを取り出そうとしたその時。
「キマイラが怯んだぞ!」
「魔力をすべて使っても良い! 撃て! 撃ちまくれ!」
「あっ、おい……!」
俺の銃弾がキマイラに通じたことで、自分たちも銃弾が通じると思ったのか四人組がキマイラにもう一度銃弾の雨を浴びせる。
先程よりもこめる魔力を多くしたのか、たしかにキマイラにも銃弾は通っている。
だが威力が足りず、キマイラを完全に仕留めるには至らなかった。
そして攻撃したことで俺の心配した通り……キマイラの注意が四人へと向いた。
まずは弱い存在から消すことにしたようだ。
キマイラは四人組へと方向転換する。
「おいおい……!」
俺が顔を引き攣らせるのと同時……キマイラは四人組へと向かって走り出した。
まさか目の前の標的から目を逸らすのは予想しておらず、俺はキマイラを引き留めようとした。
「くっ……!」
俺はキマイラの背中へと向けて『雷撃』を放つ。
しかしその直前……ヤギの頭がこちらへと目を向けていた。
キマイラの背中に巨大な魔法陣が展開されたと思った瞬間……直撃したはずの『雷撃』が霧散した。
「雷撃が無効化された……!?」
『キマイラのヤギ頭による防御魔法だ。雷属性の攻撃を極限まで威力を落とされるぞ』
「俺の雷撃が効かないってことか……!」
『雷撃』を無効化する初めての相手に、俺は歯を噛みしめる。
キマイラは咆哮を上げて四人組へと迫る。
「ひっ……!」
「逃げろ……ッ!!」
迫りくる巨体に四人組はたたちまちパニックになり逃げ出す。
しかしキマイラのほうが明らかに早く、出口に辿り着く前に四人が襲われるのは明白だった。
マガジンはまだ慣れていないせいで交換できていない。
仕方ないか……!
俺は銃を制服下のホルスターへと仕舞った。
「どいつを狙ってるんだよ……っ!」
俺は『放電』で全身を強化させて……地面を強く蹴る。
キマイラが一番後ろを走っていた奴に噛みつく直前で、俺はライオンの顔を思いっきり殴り飛ばした。
背中をギリギリ牙が掠めていく。
「お前の相手は……俺だ!!」
「ギャンッ!!!」
「ぐっ……!」
ライオンの顔が悲鳴を上げるのと同時に、俺は顔をしかめた。
素手でモンスターを殴ったことにより、拳を痛めてしまった。
これは、ヒビくらいは入ったかもしれないな。
「メ゙エ゙ェェェェッッ!!!」
キマイラのヤギの頭が咆哮を上げる。
するとライオンの口もとに炎の玉、ヤギの口もとに氷の礫が作成される。
『キマイラのヤギの頭が使う魔術は危険だ! 避けろ!!」
イヤホンからアイリスの焦ったような声が聞こえてくる。
俺だけなら避けることも可能だが、後ろには四人組が居る。
このままだと四人はキマイラの魔術攻撃を食らってしまうだろう。
(──雷撃──ッ!!)
俺は両手に『雷撃』を生み出す。
キマイラが同時に炎の玉と氷の礫を撃つのに合わせて、両手から『雷撃』を放つ。
キマイラの魔術と俺の『雷撃』がぶつかり、爆音が響いた。
水蒸気が晴れた後……キマイラも俺も無傷だった。
そして俺は、キマイラに向けて銃を向けていた。
銃弾自体が爆発するギリギリまで魔力を込めた、特製弾だ。
「こんだけ魔力を込めりゃ……いやでも効くだろ」
「メ゙ッ」
ヤギが慌てて魔法陣を目の前に展開する。
バンバンバンッ!!!!
しかし銃弾はその防御魔法を紙のように突き破り……キマイラを斃した。
ライオンとヤギを蜂の巣にされたキマイラは地面に倒れ、塵となっていく。
『キマイラの生体反応消失。討伐完了だ、お疲れ様だな真澄』
視界が切り替わり、廃ショッピングモールへと戻る。
「そしておかえり、だ」
声の方向を振り向くと、そこにはアイリスが立っていた。
ニッと笑って拳を突き出してきたので、俺はその意図を汲み取り……コツン、と拳を合わせた。
後方では四人がひどく疲れた様子で座り込んでいる。
「まずは私に傷を見せてみろ。キマイラを殴ったことで拳を痛めているだろう?」
「なんでそんなこと分かるんだよ……っつ!」
「私にはお見通しだ。ほら、痛めてるじゃないか。シャーロット、治してやってくれ」
「はい」
俺の目の前にシャーロットがやってくる。
そして俺の手を握ると……光が手を包みこんだ。
「これは……」
「シャーロットの異能は『治癒』だ。ちょっとした骨折や脱臼程度なら治せる。ただし大怪我はもちろん治せないから注意するように」
しばらくすると光が消えて……拳の痛みがなくなっていた。
「治ってる……」
「シャーロットに感謝するんだな」
拳の怪我が治ると、俺はさっきから気になっていた疑問をアイリスへと投げかけた。
「それにしても、どうしてキマイラがダンジョンの中にいたんだ?」
「恐らく、隠蔽の魔術を使って魔力を隠していたか、ダンジョンがイレギュラーを生み出したんだろう」
「イレギュラー?」
「近年研究が進んで入るが、『迷宮』にはまだ不明な点も多い。解析部の分析はかなり正確だが、それでもまれにイレギュラーが発生することもあるのだ。ただ、それにしても……」
「それにしても?」
アイリスの思わせぶりなセリフに俺は首を傾げる。
「最近、イレギュラーが多すぎる気がする。私も以前、Eランクダンジョンだと聞いて攻略したが、実際はCランクのワイバーンがいて、襲われたことがあっただろう?」
「そういえばそうだったな」
「本来はこんな頻度でイレギュラーが起こったりはしないのだが……どうも引っかかるな」
アイリスはそう言って少し考えていたが、答えが出なかったのか頭を振って思考を打ち切った。
「あー、やめだやめ。こんなことを考えても仕方がない。運が悪かったと割り切るほかないな。何はともあれ、今はやるべきことが他にもある」
アイリスは俺の隣を通り抜けると、空間の割れ目があった場所へと歩いていった。
そしてそこに落ちていたちょっとした野球ボールくらいはありそうな魔石を拾い上げる。
「これはウチの者が単独で討伐した。貰っても構わないかね?」
アイリスの問いかけにリーダーは眉を歪めると、顔を逸らした。
「構わない……」
「よろしい。真澄、シャーロット、帰るぞ」
アイリスは頷くと踵を返す。
ああ、そういうことか、と俺は納得する。
最初にリーダーが「魔石は全部俺達のもの」発言をしていたので、キマイラの魔石を持って帰られないように釘を差したのだろう。
流石に自分たちで斃してないキマイラの魔石の権利を主張するのは出来なかったみたいだな。
廃ショッピングモールの外に出た俺達はバンに乗る。
「異能機関の本部まで走らせてくれ」
そしてアイリスは運転手へとそう告げた。
「なんで本部に行くんだ?」
「これから、これを使って装備を作成するんだよ」
アイリスはそう言って、たった今俺が斃したキマイラの魔石を見せた。
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