第9話 武器の調達

 なぜか少し不機嫌なアイリスは、俺を施設のさらに奥へと連れてきた。

 先頭をアイリス、その少し後ろに銀髪のメイド。そしてその後ろを俺が歩いている。

 俺は前を歩くアイリスに、さっきから気になっていることを尋ねた。


「あのさ……この人、一体誰なんだ?」


 俺はアイリスに付き従っている銀髪のメイドを指して尋ねた。


「ん? ……ああそうか、そう言えばまだ紹介していなかったな。シャーロット、自己紹介を」

「はい。私はシャーロット・グレイと申します。お嬢様……アイリス・ロスウッド様のメイドをしております。どうぞよろしくお願いいたします」


 アイリスも美人だが、こちらも美人だ。

 それに加えて感情を伺わせない無表情なのも相まって、まるで彫刻か、人形かと思うような神秘さを感じさせる。


 シャーロットに見惚れていると、アイリスがまたムッとした表情になった。


「何鼻の下を伸ばしているんだ」

「いや、伸ばしてないんだが」

「ふん、さっさと行くぞ」


 どうしてかより不機嫌になったアイリスは、髪を手で払うとさっそうと歩いていく。


「エージェントの登録は済ませたから、次は装備を支給する番だ」

「装備……? 別に武器なんてなくても、モンスターは狩れるけど……」

「まあ、確かにキミはそうだろうが……とにかく、エージェントにはモンスターに対抗するための武器を渡す決まりなんだ。さ、ここだ」


 アイリスはとある部屋の前で立ち止まると、扉を開けた。

 扉の先はお洒落な雰囲気のバーになっていた。


 様々なお酒の瓶が置かれた店を背にして、バーテンダーがカクテルか何かを作っている。

 どう見ても武器庫には見えなかった。


「ここで武器を選ぶのか?」

「その通りだが?」

「いや、そうは言われても、どう見てもモンスターを倒すような武器は置いてなさそうなんだが……いや待て、俺みたいな新米にはワインボトルで十分ってことか?」

「キミは何を言ってるんだ」


 ぶつぶつと呟いていたらアイリスが呆れたようにため息をついた。


「こっちにきたまえ」


 アイリスがそう言ってバーのカウンターへと近づいていく。


「やあバーテンダー君」

「これはロスウッド様、おかえりなさいませ。そちらの方は……新しいエージェントの方ですか?」

「ああ、そうだ。今日から私のチームに加わる事になった。というわけで、新しいのを選んで欲しい。彼は初心者だから、

「かりこまりました」


 バーテンダーが頷くと、カチ、とスイッチを押すような音が聞こえてきた。

 するとバーテンダーの背中の、瓶やグラスやらを保管していた棚が割れてスライドし……様々な種類の武器が飾られた壁が現れた。


「な……」


 目の前の光景に、俺は思わず息を呑む。


「ふむ、日本の男子高校生ということは、馴染みもないでしょうし……それでは、こちらはいかがでしょう」


 そう言ってバーテンダーが優雅な仕草で棚から取り、カウンターに置いたのは……一丁の拳銃。


「グロックか。まあ、無難だな」

「おいアイリス! これ拳銃じゃねーか……!」


 俺は思わず突っ込んだ。


「それがどうした」

「武器ってお前……銃だったのかよ! てっきり俺は他の武器かと……」

「他の武器とはなんだね? まさかRPGのゲームのように、剣やら棍棒やらで戦うつもりだったのか? まったく……今は21世紀だぞ。いつまでもそんな原始的武器だけを使っているわけがなかろう」

「いやけどな、日本で銃なんて……銃刀法っていう法律で禁止されてるんだぞ……!」

「その心配はない。我々を誰だと思っている」

「まじか……」


 つまり、そこら辺の法律は異能機関の権力で対処できているということだ。

 改めて考えると本当に出鱈目な機関だな。


「彼は優秀な銃鍛冶師ガンスミスだ。彼が選んだのならその目に狂いはない。ほら、さっさと行くぞ」

「っと、銃を投げるなよ。どこに行くんだ?」


 投げられた銃を取り落としかけ、アイリスに文句を言いながら俺はどこへ行くのか尋ねる。


「ここの奥に銃を試射できる射撃場があるんだ」


 アイリスに付いていくと、本当に射撃場があった。

 流石にここの内装を凝ったりはしなかったのか、飾りっ気のない使いやすさ重視の内装だ。

 試写するためのボックスの中に立つと、アイリスがテーブルの上に銃弾を置いてきた。


「これは我々が使う、メインウェポンだ。モンスターを狩るため専用のな」

「専用ってことは、何か特別なものなのか?」

「いい質問だ」


 アイリスが銃弾の一つをつまみ上げる。


「この銃弾には魔石の欠片を砕いたもので表面が加工されている。そして、銃弾に魔力を込めることができるのだ」

「銃弾に魔力を込めたらどうなるんだ?」

「ふむ、そうだな……実演してみよう」


 アイリスはスカートの下から拳銃を取り出すと、マガジンに銃弾を込めた。

 そしてマガジンをつけ、スライドを引くと標的に標準をあわせる。


 パンッ!

 銃声が鳴り響くと同時に、標的に銃弾の数倍の穴が空いた。


「こんな感じだな」


 アイリスは自慢げに髪を払い、腰に手を当てて胸を張る。


「このように、銃弾に魔力を込めると威力を上げることが出来る。よって、装甲が硬いモンスターでも倒すことが出来るのだ」

「なるほど……でもこれだとゴーレムとか、ワイバーンの装甲は貫けないんじゃないか?」

「そのときは込める魔力を多くすれば良いだけだ。ほら、キミもやってみろ」


 アイリスが銃弾を渡してくる。

 俺は慣れない手つきで拳銃に銃弾を込め、真ん中にアイリスが空けた風穴がついてる標的へと照準を合わせる。

 そして拳銃から銃弾へと魔力を込め……銃を発砲した。


 ドォンッ!!!

 大砲みたいな音と共に銃弾が標的の方へと向かっていく。


「あ……」

「……」


 アイリスが無言で標的の方を見ている。

 なぜなら標的が影も形もないほど粉々になっていたからだ。

 壊れた標的を見てアイリスが顔を引き攣らせる。


「キミ、一体どれだけの魔力を込めたんだ……」

「いや、ちょっとだけのつもりだったんだけど」

「はぁ……キミの魔力の多さはやはり規格外だな…………間違っても、人に向けて撃ったりするなよ?」

「撃たねぇよ」

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