第8話 魔力量の測定

「なぁ、高校サボって大丈夫なのか……?」

「大丈夫だ、安心したまえ。ちゃんと手続きで公欠扱いになっている」


 アイリスの手を取った後、俺は校門前に止めてある黒塗りのリムジンに「乗り給え」と乗せられた。


 そして現在は首都高を走っている最中だ。

 生まれて初めてリムジンに乗ったので、俺はガチガチに緊張していた。

 内装がまず豪華だ。それになんかグラスとかシャンパンとかもある。


「というかさ、学校の手続きをあっさりと通せる件といい、日本政府の人間を使って俺を呼び出した件といい、異能機関って一体どれだけ権力を持ってるんだ?」

「異能機関はどの国にも属していない。しかし、各国と極めて強い協力体制にあること事実だ。世界に生まれる『迷宮』を対処するために動ける組織など我々くらいだからな。そうなると当然、影響力もそれなりに強くなってくるわけだ。だが日本政府の人間を使った件は単純に私にコネがあるだけさ」

「コネ?」

「私はそこそこ古い英国貴族なんでね。日本の外務省の中にも古い付き合いの友人がいるのだよ」

「き、貴族……?」


 コイツ、貴族なのか。

 道理でやけに態度が尊大なわけだ。


「ロスウッド家は世界各国にこういうイザといきのための伝手を作っている。それが役に立ったというわけだ」

「な、なんか上流階級っぽいな……」

「正真正銘、上流階級だよ」


 異能機関の権力というのも意味不明なくらい凄いんだろうが、コイツ自身もおかしいっていうのはよく分かった。


「おっと、到着したな」


 いつの間にか目的地に到着していたらしく、リムジンが停車した。


「さ、着いたぞ。ここが異能機関の日本本部だ」

「ここが……?」


 俺は建物を見上げる。

 そこにはビルが立っていた。


「真澄、着いてこい」


 アイリスに言われるまま後ろをついていく。

 扉の両脇には二人の警備が立っていて、その隣を通り抜けていく。


 扉を抜けた先には──高級ホテルのロビーのような空間が広がっていた。

 床には深紅のカーペッドが敷き詰められ、アンティークな調度品がダークウッドのテーブルと調和して、全体的にクラッシクな雰囲気を醸し出している。


 ロビーの奥にはフロントデスクがあり、そこでは受付嬢が丁寧に受付の前にいる人間に応対していた。

 中に足を踏み入れた瞬間、空気が変わったのを肌で感じた。


 このロビーにいる誰もが只者ではない雰囲気を纏っているのだ。

 そうだ、ここにいる人間はその殆どが異能機関のエージェントなのだ。

 つまり、俺と同じく『異能』を持ち合わせた人間ということだ。


「真澄? どうしたんだ」


 気がつけばアイリスが先の方にいた。


「あ、ああ……」


 俺は取り繕ってその背中についていく。

 アイリスは受付につくと、受付嬢に話しかける。


「私だ。今日は私のチームに新しく入ったエージェントの登録を行いたい」

「かしこまりました、アイリス様。異能の能力などは鑑定済みでしょうか?」


 名乗ってないのに受付嬢はスラスラとアイリスの名前を答える。

 もしかして、エージェント全員の顔を覚えてるのか?


「それではこちらで基本情報の鑑定をさせていただきますね」


 受付嬢はそう言ってとあるものを目にかけた。

 台の上に乗せられた水晶だ。


「なんだ、これ?」

「キミの基本的な情報を鑑定するための魔道具だ。キミの魔力量や『異能』の能力なんかを識ることが出来る」

「魔道具?」

「魔力さえ注げば誰でも使える魔法的な道具のことだよ。アラジンのランプとか、燃える剣とか、そんなものだ。さぁ、さっさと手を乗せたまえ」

「はいはい、分かったよ」

「それでは、鑑定いたしますね…………えっ」


 俺を鑑定していた受付嬢の顔が突然変わった。

 アイリスが受付嬢へと尋ねる。


「どうかしたのかね?」

「いっ、いえ……機器の故障かもしれませんので、もう一つ水晶を借りてきますね」


 そう言って受付嬢は焦ったようにそそくさと奥へと引っ込んでいった。

 そしてすぐに新しい水晶を持ってくる。


「お待たせしました。もう一度水晶に手を乗せてください」

「はい……」


 俺は言われるがままに水晶に手を乗せる。

 すると愕然とし始めた。


「そんな……まさか……」

「一体どうしたと言うんだね?」

「こ、これを……」


 受付嬢は鑑定結果が表示されているのであろう、恐る恐るタブレットをアイリスへと渡した。


「ふむ、東条真澄、16歳、身長172cm、筋力は普通、そして肝心の異能と魔力量は…………はっ?」


 タブレットを見ていったアイリスは目を見開く。


「『雷竜の権能』……!?  それに魔力量……『測定不能』!? そんな魔力量聞いたこと無いぞ……!?」


 雷竜権能? と聞いたことのない言葉に俺は首を傾げる。

 あー、そうか。俺は能力を『電力操作』だって思ってたけど、ゼルギアスにもらった能力自体はそういう名前が付いてるのか。


 アイリスの持っているタブレットを覗き込んでみたら、確かに『魔力』の項目がパラメーターを吹っ切っていた。

 魔力の項目には『測定不能』と出ている。


「これは故障ではないのか……?」

「いえ、機器を変えても二回とも同じ結果ですので、間違いはないかと……」


 てか、やっぱり大量の魔力を渡されてたんだな、俺。

 あいつめ……どこら辺が”一部”なんだよ。


 ゼルギアスに異能貰ったとかそこら辺、アイリスには話しておいたほうが良いのだろうか?

 でもゼルギアスのことって、話しても良いのか? いや、封印されてたくらいだしな……黙っといたほうが良いか。


「聞いたこともないような異能と、魔力量、前代未聞ですよ……」

「では、以前機器で測定されたあの魔力量は間違いではなかったのか……あ、そうだ」


 アイリスはなにか思い出したように呟く。


「それとこれを換金してくれ」


 そう言ったアイリスは受付にビー玉……いや、魔石を置いた。


「これはこいつが、エージェントになる前に斃していたモンスターの魔石だ。『迷宮』も三つ完全攻略済みで、魔力から本人確認は取れている」

「え……これはまさか、Cランクのゴーレムとワイバーンの魔石……っ!? どうやってこれを!?」


 受付嬢が俺に尋ねてきたので、俺は正直に答える。


「え、普通にその『雷竜の権能』? ってやつで斃したんだけど……」

「な……」

「その気持ち、よく分かるぞ。私も最初は驚いたからな」


 愕然としている受付嬢に、アイリスは共感したようにうんうんと頷く。


「これは、もしかしたらエージェントのランクもCランク以上から始めることが出来るかもしれません」

「エージェントのランク?」

「ああ、そう言えば説明がまだだったな」

「それでは私が説明を」

「では頼む」


 受付嬢がアイリスから引き継いで、説明を始めた。


「エージェントにはランク分けが存在しています。研修期間のFランクから、E、D、C、B、A、Sの、七段階でランクが分けられています。このランクはエージェントの能力の高さを表している他、ランクによってアクセスできる情報や、施設、そして任務も変わってきます」

「ランクはどうやって上げるんですか?」

「任務をこなす、もしくはモンスターの討伐、『迷宮』の攻略など、総合的に判断されます。本来はGかEランクから始めることになるのですが、東条真澄様の場合、異能と魔力量がとても強力なうえ、すでにCランクの魔物、『迷宮』を攻略なさっているので繰り上げでCランクから始めることができる可能性が高いです」

「へー、なるほど……そう言えば、モンスターにもランク分けがあるんですか?」


 さっき受付嬢がゴーレムとワイバーンのことを、Cランクと言っていたのを思い出し、質問する。


「はい、『迷宮』から生み出されるモンスターは、その強さでランク分けがなされています。ランク分けはエージェントと同じくGからSまでありますが、実質Aランクが最高ランクだと考えてください」

「え? じゃあSランクはなんであるんですか?」

「Sランクに区分けされるのは、文字通り『規格外』と判定されたモンスターが区分けされることになっています」

「規格外……?」

「たとえば既存のランクでは測れないような異常な強さを誇ったり、特殊な能力を持っていたり……などですね。Sランクエージェントも同じく、Aランクまでのランクに収まりきらないと判断された場合、Sランクへと昇格する事になっています。Sランクエージェントは、世界にもたった七人しかいないんですよ?」

「なるほど……えっ」


 受付嬢のお姉さんがいきなり俺の手を握ってきた。


「個人的な見解ですが、私は東条様がSランクエージェントになれると思っています。頑張ってくださいね?」

「えっ、あ、はい……」


 美人のお姉さんに優しく微笑みかけられ、俺は少したじたじになってしまった。


「ほら、次に行くぞ」

「いてっ、おい、なんだよアイリス……!」

「いいから、着いてこい」


 いきなりジト目のアイリスに肘で脇腹を突かれた。

 そして耳を引っ張ってむりやり連れて行かれた。

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