第4話 『放電』による身体操作

「まじかよ……」


 次の日、廃工場の方へと行ってみると、廃工場の中には警察っぽいスーツを着た大人が何人も立っていた。

 廃工場の中を調査しているのか、よく見る黄色いテープで封鎖して、カメラで写真を取ったり計測器のようなものを使っていた。

 中からは「ダンジョン」や「魔石」など、聞いたことのないような単語が聞こえてきた。


「なんの話をしてるんだ……?」


 どんなことを話しているのかと俺は耳を澄ませる。


「っ!」


 「不審者」や「男子高校生」といった単語が聞こえてきたところで、慌てて身を隠した。


(もしかして、調査されてるのは俺なのか……?)


 廃工場で何年も使われてなかったとはいえ、勝手に入ったから通報されたのかもしれない。

 毎日魔法の練習もしていたし、『雷撃』の音は発砲音にも聞こえなくもないしなぁ。


「ここで魔法を練習するのはもうやめるか……」


 俺はそう呟いて、別の練習場所を探しに行った。



***



 それから一週間がたった。


「『雷撃』」


 俺がそう呟くと、両手から電気が発射された。

 空き缶にそれぞれ命中し、空き缶が黒焦げになった。


「よし、両手から『雷撃』を放つのも完璧になってきたな」


 ゴブリンを倒してから一週間の練習を重ねたことで、俺は全身に魔力を送ることが可能になった。

 以前のゴブリンとの戦いで、なんとなくコツを掴むことが出来たのだ。


 つまり、今の俺は全身から『放電』と『雷撃』を放つことが出来るわけだ。

 やっぱり実戦は大事だな。


 まあ、やりやすさという観点から『雷撃』は腕から撃ってるが。 

 『雷撃』も細か威力を調整するのは難しかったが、今ではかなり調整が効くようになってきている。

 そして全身に帯電できるようになったことで、俺の脳裏にあるアイデアが浮かんだ。


「これ、俺の体内に向けて『放電』を使えば、電気で身体の動きを操れるんじゃないか……?」


 身体を動かしているのは脳から発せられる電気信号だ。

 俺の能力は電気を操作すること。

 つまり、理論的には可能なはずだ。


「とりあえずやってみるか」


 今までは体外に魔力を放出して放電したので、体内で放電するのはこれが初となる。

 試しに、右腕の中で『放電』を使い、電気を小さく発してみた。


 すると……ピクッ。

 腕がかすかに動いた。


「おお……そうだ」


 良いことを思いついた。


 俺はそこら辺に転がっていた人体模型図を持ってきて、目の前に立たせる。

 そして右腕を大きく引くと……電気を発した。


 次の瞬間、矢のような速さで拳が人体模型を撃ち抜いた。

 バラバラになって崩れる人体模型。


「よし、成功……!」


 俺はガッツポーズを取る。

 電気で自分の身体を操ることは成功だ。

 これなら、全身を電気で操って常人には出来ないような、超人的な動きをすることも可能になりそうだ。



***



 それから二週間が経った。

 目の前には病院の中を探し回って探してきた人体模型が三つ置いてあった。


 それらの前で深く息を吐いた俺は魔力を全身に回す。

 バチッ、と全身が帯電した瞬間。


 大きな音が三回鳴った。

 そして、地面にはバラバラになった人体模型が三つ落ちていた。


 この二週間で、俺は完全に電気による身体の操作をマスターした。

 思わぬ副産物として、通常の身体能力の限界を超えた力やスピードを出せるようになった。


 例えば、今ならコンクリートの壁だって蹴りでぶち破れる。

 しかし身体自体は別に強いわけではないので、あまりに限界を超えすぎると普通に骨折や怪我をしたりする。


 その上バランスを取るのが難しいので、少しでも操作をミスればすぐにバランスが崩壊して怪我や動作が乱れにつながってしまう。

 だが、俺は精密な電気の操作……つまり魔力の操作を、最初に魔力操作の練習をした段階で既に会得している。


「これも最初にちゃんと基礎を固めておいたおかげってことか……教科書、しっかり読んでから勉強しよ」


 魔力操作の練習のお陰で「基礎を固める」という言葉の意味を初めて実感した。


「この調子だと、かなり威力を高めていけそうだな……よし、再開するか」


 小休憩も終わりにして、壊れかけの椅子から立ち上がる。

 そして練習に戻ろうと思った途端。

 背後からガラスが割れるような音が聞こえてくる。


「……まじ?」


 嫌な予感がしながらも後ろを振り返ると、そこにはまた空間がひび割れたような場所が広がっていた。


「なんでまたできるんだよ……」


 俺はため息をついてひび割れを覗き込む。

 どうやら前回みたいにひび割れが出来た瞬間にゴブリンが出てくる、といったことはなさそうだ。

 ひび割れの世界の向こう側は前回と同じく洞窟が続いていた。


「放置するか? でもまた前みたいにゴブリンが出てきたら、ここに来た奴が襲われそうだしなぁ」


 この廃病院は心霊スポットになっているらしく、そのせいで深夜になると人が探検しに来ることがある。

 ここにいた一週間の中で一回しか遭遇してないから、人が来ることは稀なのだろうが。


 別に心霊スポットに探検しに来る人間を助けたいわけじゃない。

 でも対処できる危険を放置して、そのせいで他の人に危害が加えられた、と思ったら非常に後味が悪くなる。

 まあ、前回みたいにここもボスを潰せば消えるはずだ。


「仕方ない。潰すか」


 ため息を吐きながら面倒くさそうにひび割れの中に入っていくが、そんな表情とは裏腹に習得した新技が試せることにワクワクしてもいた。



***



「『雷撃』」


 銃の発砲音にも似たような音が響き、ゴブリンが焼かれていく。

 『雷撃』は鍛錬を積んだことで以前とは比べ物にならない威力となっていた。


「これで五匹目……」


 ゴブリンが塵になった後を超えて俺は前へと歩を進める。

 するといきなり広い空間へと出た。

 大きな広間の中心には、身体が岩石で出来た巨人が座っていた。


「これは……ゴーレムか?」


 俺の声に反応したのか、ゴーレムが立ち上がる。

 するとその巨体の全体像が視界に収まる。

 天井すれすれの三階建てのビルに匹敵しそうな身長、そして太く力のありそうな両腕。


「──ッ!!!」


 ゴーレムが咆哮を上げて、こちらへと走ってきた。


「おっと」


 振り下ろされた拳を回避する。

 すると地面に直撃した拳は爆発音にも似た音を上げ、地面を強烈にえぐり取った。

 粉塵が晴れたそこには直径二メートル以上はあるクレーターが生まれていた。


「確かに力は強いが、隙だらけだ……!」


 全身に魔力を巡らせる。

 バチッと音を鳴らして全身が帯電すると同時に……駆け出した。

 目にもとまらぬ速さで駆け抜けた俺は、ゴーレムの横腹に……蹴りを叩き込んだ。


「──ッ」


 常人を遥かに超えた力の蹴りに、ぐらり、とゴーレムの身体が揺れる。


「硬ってぇ……! 流石に何回も蹴ったらこっちの脚が先に壊れるな……!」


 しかし俺とゴーレムの間の圧倒的な体重差は覆すことが出来ず、バランスを崩すことができた程度に収まった。


「『雷撃』」


 ゴーレムから少し離れたところに着地した俺は、すかさず『雷撃』をゴーレムへと放つ。

 轟音を響かせて『雷撃』がゴーレムへと直撃する。


「これを耐えるのか……」


 『雷撃』は確かに直撃していた。

 だが、ゴーレムは依然としてまだその場に立っていた。


「もっと強力な攻撃がいるってことか……」


 右手をゴーレムへと向ける。

 そして右手に魔力を集めていく。


 もっと、もっとだ。

 魔力を集め、収縮し、魔力がコントロールできずに暴走しそうになる直前まで威力を上げていく。

 そして魔力が高まったところで俺は技名を告げた。


「『雷撃』」


 今までで最高威力の『雷撃』が発射された。

 右手から生まれた雷の柱が斜め上へと伸び、ゴーレムの身体を貫通する。


 雷光が消えた後には、身体の真ん中にぽっかりと穴が空いたゴーレムが立っていた。

 ゴーレムの身体に空いた穴は焼かれたように溶けており、ゴーレムの反対側の壁も溶かしていた。


「──」


 ゴーレムが地面に倒れる。

 そしてその岩石の身体が塵となっていった。


 ゴーレムが塵となって消えた後には、例のごとく小さなビー玉が残っていた。

 俺はそれを拾い上げる。


「毎回残るけどなんなんだこれ……?」


 ゴブリンよりも強いゴーレムを倒したからか、地面に落ちていたビー玉はゴブリンの三倍くらいはあった。


「ゴブリンよりもデカいってことは、あいつらよりも強かったのか?」


 と、次の瞬間にはもとの廃病院へと景色が切り替わっていた。

 音がしたので下を見れば、例のごとく今まで倒したゴブリンのビー玉も一緒に転がっていた。


「あ、今倒したやつがボスだったのか」


 ひび割れの向こう側にいるモンスターを全部倒すと、空間ごと消滅するらしい。

 ということは、さっきのゴーレムがあの洞窟のボスだったということだ。


「別に他のゴブリンと大差なかったんだが……うーん」


 考えてみてもわからないので、一旦棚上げすることにした。

 空間が消えればそれで俺の目的は達成しているのだから。

 その日はひび割れの先の空間も消滅させて一区切りになったので、その日の練習は切り上げることにした。


 ビー玉を放置していったことがどんな事態を招くのかも考えずに。

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