第2話 魔力操作の訓練


「……」


 目が覚めると、俺は自分の部屋のベッドで寝ていた。

 窓からは朝日が差し込んでいる。

 ベッドから上半身を起こすと、俺は頭を押さえる。


「なんで俺はベッドで寝てるんだ……?」


 記憶が正しければ、俺はゼルギアスのところで気絶したはずだ。

 ベッドに入った記憶はない。


「もしかして、昨日のは夢だったのか……?」


 思わず俺はそう呟いた。

 それも無理はない。


 竜や魔法、異空間。俺が覚えている記憶はあまりにも現実からかけ離れている。

 疲れていたせいでやけに鮮明な夢を見たと言われても、正直信じてしまうレベルだ。


 しかしとある物を見つけて、俺は昨日の記憶が正しいことを理解した……いや、強制的に理解させられた。


 なぜなら、俺の机の上には、昨日ゼルギアスからもらった黄色い鉱石が置いてあったからだ。


「これはゼルギアスの……じゃあ、まじで昨日のは夢じゃなかったのか……」


 俺は机の上の黄色い鉱石を見ながら呟く。


「ん? じゃあ、ゼルギアスが言ってた、あいつの力っていうのは……ん?」


 ベッドに腰を掛けた状態になった俺がそう呟いたところで、ベッドの横にある時計が目に入ってきた。

 時刻、八時。

 いつもならもう学校に向かっている時間だ。


「うわっ、もうこんな時間か、ヤバい……!」


 俺は慌てて高校へと向かった。



***



「つ、疲れた……」


 高校、そしてバイトを終えた俺は疲れ果てて家に帰ってきた。

 時刻はもうすでに夜の九時。


 食事はバイトのまかないを食べたが、もう動く気力があまりない。

 昨日、あんな非日常があったのに、すでに日常に戻ってしまっている。


「なんか、昨日のことが嘘みたいだな……」


 玄関の廊下で天井を見上げながら俺はそう呟いた。


「昨日といえば……そうだ、あいつにもらった力って、結局なんだったんだ?」


 そこで俺はゼルギアスになにかの能力を貰っていたことを思い出した。

 途端にどんなものなのか確認したくなってきた。


 もしかしたら漫画やアニメみたいな異能力に目覚めたかもしれない。

 そう思うと、疲れが吹っ飛んで動けるようになった。


「よし、確認するか!」


 俺は立ち上がると、庭へと出た。

 ちなみに、俺が住んでいるのは両親が遺してくれた一軒家だ。


 庭に出ると、俺は右手を上げて、左手を右手の二の腕の辺りを掴む。

 そして気合を込めて……。


「破ァッ!!!」


 ……。

 …………。

 ………………。


 何も起こらなかった。


「……恥ず」


 カッコつけて掛け声まで上げたのに何も起こらなくて、気まずくなった俺は右手を引っ込めた。

 どうしよう……。今のご近所さんに見られてないかな?


 もし見られてたら発声練習してたとかで誤魔化せないかな。

 眼を泳がせて挙動不審にあたりを見渡して、誰もいないことを確認するとようやく俺は安堵の息を吐いた。


「てか、魔力って言ってたよな? 魔力なんてどうやって扱えば良いんだ……? 元々魔力なんてなかったし……」


 俺は腕を組んで考える。

 当然ながら、俺は生まれた時から魔力なんて持ってない。

 だから魔力なんてどうやって使えば良いのかすらわからないし、そもそも感じることすら出来ない。


「ゼルギアスめ……ぽんと魔力と力を渡されても、これじゃ使いようがないぞ……」


 そうやってうんうんと考えていると──身体の中にちょっと何かを感じた。

 ん? なんだこれ、体の中に温かい何かがある。


「……もしかして、これが『魔力』か?」


 確証があるわけではない。

 だが俺は直感的にそうだと理解した。


 温かい何かを掴んだ感覚を話さないために、俺はその場に座り込み、集中した。


 すると徐々にその『温かい何か』が掴めるようになってきた。

 そして知覚すると同時に、それは温かい何か、ではなくエネルギーの塊であることが分かった。

 そのエネルギーが俺の身体の中心……つまり心臓の位置にあり、心臓が脈打つたびに少しずつ全身に運ばれていっている。


「なるほど、これが『魔力』なんだな」


 こんな感覚、今まで感じたことはない。

 だから俺はこれが魔力だと結論付けた。


「……これからどうすれば良いんだ? ま、とりあえず動かしてみればいいか」


 心臓のあたりにあるエネルギーの塊を動かしてみる。

 しかし。


「……ん? あれ、むずっ!?」


 エネルギーはびくともしない。

 いや、正確には塊の中のほんの一滴ほどを心臓の位置から動いた。


 多分、原因は俺が魔力の塊をしっかりと近くできていないからだ。

 イメージがぼやけているのに扱うのが出来ないのは当たり前のことだ。


「よし、まずはこの魔力を動かせるようになるか……」


 俺はまず、この魔力の感覚を完全に捉えられるようになることにした。

 集中して魔力の輪郭をなぞっていく。


 感覚を研ぎ澄ませば研ぎ澄ますほど、魔力の輪郭が掴めるようになってくる。

 そして集中の後。


「……掴んだ」


 俺は完全に魔力の感覚を掴み取った。


「よし、次は魔力を動かすぞ……」


 集中して、魔力の塊の中から少量の魔力を切り分けると、心臓の位置から右手の手のひらへと魔力を移していく。


「うげ、失敗した」


 右手まで移動させる途中で魔力の制御に失敗して魔力が全部霧散してしまった。


「ふぅ……もう一度だ」


 何度か挑戦するが、全て失敗してしまう。


「くそ、魔力の制御が難しいな……」


 魔力の制御に苦戦していると、強烈な眠気が襲ってきた。

 時計を見て見れば、もう深夜の二時になっていた。


「うわ、こんな時間か……しゃあない。練習はまた明日にするか」


 俺は今日の練習を一旦切り上げることにした。

 これ以上無理をしても明日に響くだけだ。

 ふぁ、とあくびをしながら俺は家の中へと入っていった。



***



 それから帰ってきて毎日、俺は魔力の制御を練習した。

 まずは魔力を保持できるようになるところからだ。


 魔力の制御は少しずつ上手くなっていった。

 まずは水滴ほどの魔力を五秒ほど保てるようになった。


 次の日には魔力の塊を三十秒、保てるようになった。

 そうして、俺は家に帰って来ると魔力の練習をする日々を送った。


 一ヶ月経った頃、俺はようやく魔力を完全に保持できるようになった。


「ここまで来るのが長かった……よし、次は魔力を移動させる工程だ」


 休む暇もなく俺は次の工程へと移った。

 意識を集中して、水滴大の魔力を取り出すと、まずは右手の手のひらへと移動させる。


 しかしその途中で魔力が霧散してしまった。

 移動に気を取られたせいで、魔力の保持が緩んだのだ。


「むっ、難しいな……」


 俺はめげずにまた挑戦する。

 要は慣れだ慣れ。


 俺は既に魔力の練習に熱中していた。

 そして一週間後、俺はついに魔力を右手の手のひら動かせるようになった。

 まだ小さい魔力を動かせる程度だが、ようやくここまで来たのだ。


「動かせるようになったのは良いものの……ここからどうすればいいんだ?」


 ゼルギアスが俺に与えたのは魔力と、もう一つのだったはずだ。


「魔力は力を使うために必要だとか言ってた気がするが……そもそもその力自体、何もわからないんだよな」


 しばらくうーん、と唸った後、俺はあることを思いついた。


「そうだ、まずはこの魔力を外に出してみるか」


 俺は今まで体内で魔力を操ることを練習してきた。

 だから魔力が外に出た時、どんな事が起きるのか知らないのだ。

 アニメや漫画でよく見る魔法も、多分体外に魔力を出している……はずだ。


「よし……」


 先程移動させた魔力はすでに霧散していたので、俺はまた魔力を右手の指先へと移動させる。

 そして魔力を人差し指の先から放出した──瞬間。


 ──カチ、と頭の中でパズルのピースが嵌まるような感覚があった。


 同時に人差し指の先から……バチッ。

 小さな電気が、空中へ向かって走っていった。


「そうか……分かったぞ」


 パズルのピースが嵌まる感覚と共に、俺は自分の能力を把握した。

 どうして魔力を放出したら自分の力が分かったのかは原因不明だが、元々ゼルギアスがそう仕向けていたのかもしれない。

 ともかく、俺は自分の力を理解した。


「俺の能力は──『電力操作』だ」


 電力操作……つまりは電気扱えるようになる能力がゼルギアスが俺に与えた能力だ。


「なんでこんな能力を……あ、もしかして俺が「今の世界では電気が大切」って言ったからか?」


 ゼルギアスに現代の生活は電気に支えられている、ということを説明したのだ。

 それを電気が一番強い能力だ、と勘違いしてこの能力にしたのかもしれない。


「ていうかこれ、魔法っぽくないか?」


 俺はたった今自分の指から電気を出せたことに興奮する。

 魔力を使って電気が出せるとか、それこそ漫画やアニメの中の能力みたいだ。


「とありえず、能力が把握できたんだ。あとは練習あるのみだな」


 もっとだ。

 もっと上手く力を使えるようになりたい。

 俺は魔法の練習へと取り掛かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る