第8話 大団円

 迫水が、命を狙われたといって、交番に駆け込んだのは、彼女が死んでから、二か月くらい経ってのことだった。

 その頃は、その1か月前に、

「妊娠した」

 といって相談に来た女性に対して、

「本当に俺の子か?」

 といって、なじるようなことを言っておいて、結局、堕胎させることになった女が、堕胎手術をしてから、3か月が経っていたのだ。

 迫水が、

「命を狙われる」

 とすれば、一番考えられるのが、この二つだった、

 この日、迫水に、何があったのかというと、

「横断歩道から突き落とされそうになった」

 ということだったのだ。

 人気のないところであったが、その時ちょうど後ろから別人が歩いてきたことで、

「危ない」

 と声を掛けられたことで、一命をとりとめることになった迫水だったが、

「さすがに、恐ろしい」

 と肝を冷やしたことと、

「声をかけてくれた人が、目撃者だ」

 ということで、

「警察に届けないわけにはいかない」

 という事情になったのだった。

 男の人が、証人ということで、交番までついてきてくれて、証人は、普通に事情聴取をされただけだったが、実際に狙われた方はそうもいかない。別の日に。警察署への出頭が求められ、行かなければいけなくなったのだ。

 その時、いろいろ聞かれたが、

「正直、命を狙われる理由が分かりません」

 としか答えられなかった。

 しかし、実際には、

「叩けば埃の出る身体」

 といってもいいとは思っていたので、警察に聞かれるたびに、

「自分が被害者でありながら、なんで、こんなにびくつかなければいけないんだ?」

 と思えてならなかった。

 その日は、とりあえず、

「分かりません」

 ということにしておいたが、

「どうせ警察のことだから、いろいろ調べるんだろうな」

 ということで、

「堕胎した彼女がいる」

 ということまでは分かっても、

「自殺をした女がいた」

 ということまでは分からないだろうと、たかをくくっていたのだが、実際には、警察の捜査で、簡単に化けの皮がはがされるということくらいは、普通のことだったのだ。

 さすがに、迫水も、まるで、

「まな板の鯉」

 のような状態であった、

 さすがに、それを自分の口からは言えなかった。

 この二つのことは、警察に直接話せば、きっと、

「汚いものでも見るような目つきをされる」

 ということは分かっていた。

 今までに、何度もそんな思いをしたことがあった迫水としては、

「今度は警察の視線というのは、厳しい。どんな恐ろしい視線を浴びせられることであろうか?」

 と考えるのであった。

 そんな埃の出る身体であったが、一つ急転したのが、この俺を狙っているであろう久保田が、他殺死体で発見された。

 どうやら、

「チンピラと喧嘩になって殺されたのではないか?」

 ということであった。

 警察もそのチンピラの存在を知っていたということは、

「俺のことも分かっているだろうな」

 と感じた。

 しかし、警察は、迫水に対して、

「お前も白状しないと、久保田のように殺されるかも知れないぞ」

 とは言わないのだった、

 迫水は背筋が凍る思いだった。

 実際に、警察は、チンピラが行方不明になっているということで、その行方を追っていたのだ。

 迫水は、自分を狙ったのが、そのチンピラというよりは、

「堕胎させた方の女ではないか?」

 と思っていた。

 チンピラが久保田を殺したというのも、

「久保田を殺そうとして殺したわけではない」

 ということで、

「今度は、迫水を」

 ということはないだろう。

 それよりも、

「どうやって警察から逃げるか?」

 ということを考えるのが必至で、もう、人のことなど、かまっている暇などないというわけだ。

 ただ、迫水は、何かに怯えているのだったが、それが何なのか、正直警察には分からなかったのだ。

 本当は最初、迫水を確かに二人とも狙っていたのは間違いないようだったが、久保田の方は、チンピラの存在も知ってしまったことで、本当は、

「堕胎した女がいた」

 ということも分かっていたので、その女を犯人にして、迫水に、ケガをさせようとして、歩道橋から突き落とすことを考えていたのだ。

 しかし、実は、堕胎した女も、迫水を追い詰めようとして、迫水を見張っていると、久保田の存在を知ったのだ。

 そして、ふとしたことから、久保田の計画をしり、今度は、

「久保田に責任を押し付けて、迫水を落とそうと考えたのだ」

 二人とも、奇しくも、

「歩道橋から突き落とす」

 ということを計画していて、相手に計画を先にやらせることで、自分は助かろうと思っていたのだ。

 迫水の方でも、実は、そのうちのどちらかに殺意を持っていて、それを計画している最中の

「怪談からの突き飛ばし事件」

 だったのだ。

 迫水は、誰がやったか分かっているが、それを口にすることはできない。

 なぜなら、自分にも動機があって、

「機会があれば、階段から突き落とす」

 ということを考えていたのだ。

 しかも、この三人は、それぞれに、力が均衡していて、いわゆる、

「三つ巴」

 の様相を呈していた。

 しかし、実際には、

「三すくみ」

 ということであり、結果として、三すくみのような形になったのだった。

 警察が、どのような捜査をするか分からないが、結果として、

「どう転んでも、三すくみしか答えが出てこない」

 ということになると、

「最初から、誰が犯人で、事件がどのように解決するのか?」

  ということも分かってくる。

 この犯罪は、

「三すくみというものが永遠の循環」

 という形で形成されるというもので、解決してしまうと、実に、単純な事件だということになるのだった。


                 (  完  )

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永遠の循環 森本 晃次 @kakku

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