第7話 失敗した経験

 迫水を狙っている人間は、もう一人いた。その人間は、本来であれば、迫水が狙いを定めた人でもあった・

 かつて、迫水のそんな女遍歴を知っていて。その迫水の真似をしようとしたやつがいた。そんなことができるはずもなく、それがうまくいかずに、失敗した経験を持っていた男であった。

 何をどう失敗したのかというと、そもそも成功するわけはないのに、それを強引にしてしまったことで、相手の女性を傷つけることが往々にしてあった。

 迫水が、一度として、女性に強引なことをしたことがないのが、迫水の成功の秘訣であったにも関わらず、この男は、タブーである、

「強引さ」

 をもって女を口説こうとした。

 その根本的なことが分からずに、失敗しているのに、それを逆恨みし、迫水を恨むようになっていたのだ。

 迫水は、自分が、

「何となく、その人から嫌われている」

 というのは自覚していたが、

「狙われる」

 という意識はなかった。

 そもそも、

「そんなことで狙われるなどということは、普通ならありえない」

 と思うであろうが、その男は違った。

 元々、その男が逆恨みをする原因となったのは、その男が好きだった女性がいて、彼女とは、会社の同僚だということで、仲が良かったのだ。

 しかし、仲が良かったといっても、

「会社で挨拶をする」

 という程度のことだったのだが、その笑顔が、

「まるで、俺にだけしてくれる笑顔だ」

 ということで、その笑顔を見るたびに、

「俺を好きになってくれているんだ」

 と思ったのだ。

 この男が、

「いつ、その女性を好きになったのか?」

 というと、どうやら、

「彼女の笑顔を見ているうちに」

 というのが、本当のことのようだった。

 最初は、そこまで好きだったという意識はないようで、この男というのは、名前を

「久保田」

 というのだが、女性のことを、

「好きになったから好かれたいというよりも、好かれたから、好きになった」

 というタイプである。

 女性というものを好きだというのは、男である以上、皆同じではないだろうか。しかし、そんな中で、好きになる女性というものに対して、

「いかに好きになるか?」

 ということに関しては、いろいろなパターンがある。

 迫水の方も、

「別に俺が口説いたわけでもないのに、女の方から寄ってくる」

 と思っている。

 それは、迫水が、最初から下心がないわけではなく、自分では、

「下心がない」

 と思っていて、

「相手が好きになってくれるから、こっちも好きになるだけだ」

 と思っている。

 だから、自分では人畜無害だと思っていて、実際に女性に対しては、そのほとんどが、人畜無害であった。

 いや、そう思っているのは、迫水だけかも知れない。

 付き合う女性が、そのほとんどが、浮気や不倫だということを迫水は分かっている。だから、

「本当なら、相手から訴えられたり、恨まれるのは当たり前のことだ」

 ということで、普通なら手を出さないだろう、

 しかし、迫水の考え方は、

「来るものは拒まず」

 ということなので、皆受け入れる。

「自分は、女性の駆け込み寺だ」

 という意識が強く、

「そもそも、付き合っている男や、結婚している旦那に甲斐性ややさしさがないから、俺がその分を引き受けているんだ」

 と思うのだった。

 だから、その男たちに対して、

「申し訳ない」

 などという気持ちはこれっぽちもなかったのだ。

 そのくせ、一度に数人の女性を相手にしているとしても、それは、

「俺の人徳なんだ」

 というくらいに考えるのであった。

 それは、相手の男性に失礼なだけでなく、付き合っている女たちに対しても、失礼である。

 それぞれの女に、

「自分が、他の女たちと関係がある」

 ということは、無意識に隠していた。

「心の中にどこか、後ろめたさがあるというのか?」

 それとも、

「他の女に知られると面倒くさい」

 という、自己防衛的な本能が働くのか?

 なとということが考えられるのだ。

 とにかく、迫水は、

「面倒くさい」

 ということを極力避けるタイプだった。

 そのくせ、

「寄ってくる女たち」

 に対しては、まったく悪びれる気持ちがないことから、彼女たちと付き合うことに面倒くささは感じなかった。

 むしろ、

「人助け」

 と思っているから、余計に女が寄ってくるのかも知れない。

 久保田は、そのことを分かっていない。

 久保田でなくとも、なかなかわかるということはないだろう。それが男の方で分かるのであれば、迫水はもっと早く、女たちとのトラブルが表面化したことだろう。

 迫水の、

「女遍歴」

 というものがどういうものなのか?

 というと、

「自分で、分かっていないから、成功するんだ」

 ということであった。

 これが、もし、本人に、もう少し自覚があり、心の中で、余裕のようなものを持っていれば、この迫水の行為は、

「女遊び」

 と言われることになるのだろう。

 しかし、迫水自身は、

「遊びだ」

 とは思っていない。

 ただ、

「心に余裕があるから、女たちが寄ってくる」

 と思っていたのだが、どうもそうでもないようだ。

 迫水は、心の中で、

「彼女たちに余裕をもって接している」

 という意識はない。

「来る者は拒まず」

 という言葉そのもので、

「女たちがよければそれでいいんだ」

 ということで、

「女というものを、いかに自分が愛するということになるのか?」

 とここでいう

「愛する」

 というのは、肉体的なことであって、本来の精神的な、

「愛する」

 ということではないのだった。

「精神的に愛する」

 ということを、迫水は分かっていない。

 もっとも、

「女性を愛する」

 ということがどういうことなのか?

 そんなことこそ、

「面倒くさい」

 ことであり、お互いに、求めあっているなら、それがかなえられれば、それが、

「愛する」

 ということではないか?

 と思っていた。

「女遊び」

 をしている人に、

「女を愛する」

 という感情があったとしても。それは、

「身体を貪る感情」

 というものだと思っていて、それこそ、

「性欲による満足度」

 ではないかと思っているのだった。

 そういう意味で、

「かなり歪な恋愛」

 といってもいいだろう。

 そもそも、

「恋愛」

 などという言葉を使うこと自体、おかしなことではないだろうか。

 これは、恋愛ではなく、

「恋愛ゲーム」

 という感覚に、迫水の感情は近かっただろう。

 迫水は、ゲームも嫌いだった。

 それだけ、

「生粋の面倒くさがり」

 といってもいいかも知れない。

「ゲームの何が面白いんだ」

 という感覚があったのだが、それは、ゲームというものが、自分では、

「面倒くさい」

 と思っているわけではなく、まわりの人が、

「ゲームばかりしていてはダメ」

 という意識で、特に大人が見ているということに対して、自分が、

「いい子になっている」

 という感覚があったからだった。

 しかし、実際に、そんなことをいう大人だって、実は、通勤電車の中などで、結構していたりする。

 自分の学生時代にも、自分の親から言われていて、

「大人だって、自分の子供時代は、大人に説教されて、自分の子供には、そんな嫌な思いをさせたくない」

 と思っていたはずだと思ったのだ。

 実際に、そうだったのだろうが、大人になると、

「そんな思いをコロッと忘れてしまう」

 ということなのか、それとも、

「親になると、子供に対しての、しつけであったり、教育というものが、どうしても邪魔をする」

 ということで、子供の頃のことを忘れてはいないが、その分ジレンマとなって、いらだちを子供にぶつけるという、これも。

「余計な感情」

 というものが、

「歪な感情の変化」

 というものを生み出してしまっているのだろう。

 と考えるのであった。

 迫水は、そういう意味では、子供の頃からゲームをしていたわけではなかった。

「あんなに面倒くさいもの、何が楽しくて皆やっているんだ?」

 と思ったが、実際には、

「いつも親から説教される」

 ということで、

「親って、なんであんなに、かたくなにゲームを控えろっていうんだろうな。勉強の妨げになるって言いたいのかも知れないけど、気分転換だって必要だといっているだから、それがゲームで何が悪いんだろうな。もし、他の何かを気分転換に選んでいれば、ゲームのようにやめろっていうんだろうか?」

 というのだった。

 迫水は、親から、

「勉強の気分転換」

 を辞めろとは言われたことはなかった。

 そもそも、親から、

「辞めろ」

 と言われるようなことをした経験はなかったのだ。

 だから、親から言われるようなことをしていたのは、

「小学生の頃までだったかな?」

 と思っていたのだ。

 だから、中学に入ってからの自分は、

「優等生だ」

 という感覚があった。

 だから、この頃から、

「人に逆らう」

 ということをしなくなっていたのだが、それは、

「自分の本能のようなものからだ」

 ということに気づいていないのだ。

 それは、すべてが、無意識の行動ではあったが、あとになってから、

「事後納得」

 というものができたからだと思っている。

 そういう意味で、

「面倒くさがりでよかったな」

 という、これも、

「歪な考え方だった」

 といってもいいだろう。

 迫水の家庭環境、とくに、親は決して褒められた親ではなかった。

「どうせなら、隠しておきたい」

 と思うような親だった。

 迫水の親は、いつも喧嘩している親で、それも、お互いの浮気についての言い争いだった。

 なかなかお互いに喧嘩を辞める気配はないのだが、いつも、

「気が付いたら、終わっている」

 という感じで、

「疲れたから辞めたんだ」

 と感じさせられた。

「そういうところが、俺の面倒くさがりな性格に遺伝したのかも知れないな」

 と思うほどで、

 迫水は、本当は、

「我慢することは嫌い」

 だったはずだ。

「面倒くさがりで、我慢ができない性格って、ある意味、最悪な性格なのではないだろうか?」

 と思えるのだが、迫水自身は、その意識はあった。

 だから、その件に関しては、自己嫌悪のようなものがあったが、だからといって、

「それを決定的に嫌う」

 ということはなかったのだ。

 そんな、迫水の性格であったが、久保田は、迫水のそんな性格を、ほとんど知らなかった。

 知らなかったというよりも、

「表面上に見えている性格だけを見て、勝手に羨ましい」

 と思い込み、

 そんな迫水という男も真似をしようと思っていたところ、自分が好きになりかけていた女性が、迫水になびいたのだ。

 実は久保田の真似をしようと思っていた時、好きになりかかっていた女性がいて、その女性は、久保田のことを好きになっていたのだ。

 久保田はそれに気づいていないだけではなく、迫水ばかりを意識していたことで、彼女のことを、失念してしまった。

 それがそもそもの間違いで、久保田は、自分が勝手に迫水を見ていただけなのに、彼女は、久保田が、

「他の女を見ていた」

 と思ったのだろう。

 そもそも、自分が、

「好きだアピール」

 を表面に出しているのに、その目は別の誰かを見ている。

 と思うことで、

「私のことが嫌いなんだ」

 ということで、安心して相談できる相手として選んだのが、迫水だったのだ。

「来る者は拒まず」

 の迫水なので、その女も簡単に受け入れる。

 久保田としては、

「自分のことを好きになりかかっていた女を、迫水が奪った」

 と思い込んだ。

 そこで、

「俺は、なんてことをしていたんだ」

 と感じたのだ。

 それは、

「迫水のような遊び人に引っかかる女を好きになろうとしていたのか?」

 という感情なのか、普通に、

「俺を好きになってくれそうな女を、迫水が強引に奪い取ったのか?」

 という感情のどちらかであっただろう。

「いや、ひょっとすると、そのどちらも」

 があって、

「そのどっちが強いのか?」

 ということを分からずに、結局恨みというものだけがしつこく残り、その感情が、

「逆恨み」

 ということになったのかも知れない。

 久保田とすれば、

「自分が好きになったのかどうかも分からないが、その女が別の男になびいたということで、プライドを傷つけられた、屈辱という感情の下に、好きだったということが決定し、そうなると、当たり前のように、自分がこの女を好きだったということになり、好きな女を奪った、この男が許せない」

 という、三段論法的な発想になるのだ。

 それを、どこまで、久保田が理解しているのか分からないが、久保田という男は、

「迫水も、自分も、よくわかっていない」

 ということが言えるのではないだろうか?

 これは、久保田という男が、

「勝手に妄想し、その責任を、すべて迫水に押し付けようとしたことから起こった感情で、被害妄想なのか、猜疑心の強さからの嫉妬なのか、どちらにしても、その感情は、逆恨みにしかすぎない」

 しかし、迫水に、

「まったく責任がないのか?」

 ということになれば、それはそうではないだろう。

「迫水がどのような接し方を普段からしているか?」

 ということが、迫水にとっての、大きな問題となる。

 実際に迫水は、久保田という男を知らない。久保田の方では、迫水のことをかなり調べているようで、

「なんで、こんな男に彼女は引っかかったのか?」

 と思っているのだ。

「彼女だって、迫水のこんな裏を見れば嫌になって、俺のところに戻ってくるに違いない」

 と感じているようだが、たぶん逆であろう。

 もし、このことを彼女に告げて、

「あんな男のことは忘れて、俺のところに戻ってこい」

 などというと、久保田は彼女が、

「そうなのね、教えてくれてありがとう。やっぱりあなたが最高だわ」

 などといって。抱きついてくれるのではないかとまで思ったほどだ。

 しかし、久保田は女というのを知らなすぎる。

 女というのは、

「何かあれば、相手に相談するようなことはせずに、自分で考え込んでしまう。そして、それを相手に悟られないようにしているが、口数が減ったりして、おかしなところがあるように思えるのだ」

 というものだ。

 そして、そのあとに、急に別れを切り出してくる。

 男としては、

「何がどうなったのか分からない」

 という状態だ。

 しかし、この時には女というのは、すでに、気持ちが決まっていて、何を言っても、女はビクともしないというのが、ほとんどの女性のパターンのようだ。

 男としては、

「何も言ってくれなければ分かるはずがない」

 と、相談すらしてくれなかった女に、恨み言の一つも言いたいだろう。

 しかし、もう、

「時すでに遅し」

 なのである。

 だから、

「あの女は、いきなり別れを告げてきた」

 といって、知り合いに話したりすると、その人が、

「女性経験が豊富な人」

 ということであれば、

「彼女は、何かSOSのサインを出していたのでは?」

 というだろう。

「言われてみれば、急に会話をしなくなって、考え事をすることが多くなったような気がするな」

 というと、

「それだ」

 と言われるのだ。

 そして、こちらとすれば、

「俺の方は、彼女の方で何かあるなら、必ず相談してくれると思っていたんだ。だから、変に聞いたりして、気まずい雰囲気になるのが嫌だったんだ」

 というと、

「それだよ。その姿勢が、お前に疑問を感じていた彼女からすれば、決定的な気持ちを動かしたんじゃないか? 相手はSOSを出しているのに、相手に逃げ腰になられたのでは、もう、八方ふさがりだって思ったんじゃないか?」

 と言われるだろう。

 さらに、相談した相手は続ける。

「女性はえてして、考えている間は、相手に悟られないようにするものさ。そして、何かを口にした時には、すでに、覚悟ができていて、腹は決まっているというわけさ」

 というのだ。

「そんなの卑怯じゃないか」

 と男は思う。

 しかし、

「卑怯というか、それが、女性とすれば、自分への防衛反応のようなもので。相手に悟られないように、自分で動く、それが相手の気持ちを悟るという意味でも、考えられる防衛本能のようなものじゃないかな? それを分からずに男は、勝手に女性に対して、自分の考えを当てはめようとする、その時点で、完全に、温度差は激しいものだといえるんじゃないかな?」

 ということであった。

 実際に、この相談は、以前に久保田が、親友にしたものだった。

 迫水に、

「奪われた」

 女とは違い、その前に付き合っていた女性とのことであったが、久保田という男は、女性と付き合っても、大体、3か月くらいで別れてしまう。だが、不思議なことに、すぐに他の女性が現れて、付き合うようになるのだから、

「彼女がいない時期というのは、実に短い」

 それだけに、

「その前に付き合っていた女性と別れることになったきっかけというものを検証することはない」

 といえるのだった。

 そんな久保田だったので、

「結局は、いつも同じパターンで別れてしまう」

 ということを毎回繰り返すのだ。

 しかも、付き合っている期間も短いので、

「おいおい、今度はまた別の女性かい?

 と、まるでプレイボーイであるかのようなのだが、実際には、まったく違う付き合い方なのであった。

 そんな久保田は、相変わらずのまま、

「迫水に奪われた女」

 のことを、

「悪い女だ」

 と思いながらも、

「寝取った男」

 である、迫水にも、当然のごとく、恨みを感じていた。

 寝取られたといっても、本来は、自分が悪いのである。

「女を寝取られる」

 というのは、

「男側にも若干の責任はある」

 ということは、久保田も分かっていた。

 しかし、今まで別れた女性の中には、

「付き合っている時に、他の男を好きになった」

 ということはないだろうと思っていた。

 ただ、それは、自分が知らなかっただけで、今回のように、

「女の方が露骨に、迫水と付き合っている」

 という様子を垣間見させたということはなかった。

 だから、今回は、

「いつもと違う」

 と思いながらも、その後ろに男がいるということを考えると、

「裏切者」

 という感覚にもなった。

 今までにも、あったことなのかも知れないが、他の女は素振りを見せなかった。だから、

「どうせなら、知らない方がよかったのではないか?」

 とすら思えたのだ。

「知らぬが仏」

 とはこのこと。

 ということだった。

 ただ、この女性、精神疾患があったことで、実は、相談をしていたのは、迫水だけではなかった。

 他の男性に対しても、

「私、どうしていいのか分からないの」

 といって、相談したのだったが、その男は、ひどい男で、女の乙女心を利用して、

「金をせしめよう」

 と思っていたのだ。

 いわゆる、

「チンピラ」

 のような男で、実際にやっていることは、

「それ以下」

 だったといってもいい。

 ただ、表向きには女性に優しかった。

 だから、女性にうまくいって近づき、安心させて、お金を貪る。

 こんなひどい男だったので、まだ、迫水の方が、十分にマシだった。

 しかも、この男、迫水がいるということは百も承知で、そのうえで近づいたのだ。

 この男は、

「女に不自由をしていないので、女を騙くらかして、金をせしめるということだけが目的なので、嫉妬心などというものも、一切なく、それだけに、その男の存在を、迫水も、久保田も知る由もなかったのだ」

 このチンピラは、女性に対して表面上のやさしさしかないので、嫉妬心がないことから、迫水や久保田に感づかれるということはないのだ。

 だから、彼女本人が、この男に、見限られ、捨てられた時、すでに、お金も取られていたので、誰にも相談できずに、一人苦しむことになった。

 チンピラは、そんなのはどうでもよく。

「騙される方が悪い」

 とうそぶいているくらいだった。

 だから、女は、本当に悩んでしまって、どうすることもできない。

 何も言えないまま、そのうちに、金を使ってしまったこともバレるだろう。

 そもそも、考えてみれば、相談にしても、自分の寂しさなど、結果として起こってしまったことからすれば、なんでもないことだった。

 それを思えば、

「もう、あとには戻れない」

 ということで、悩むだけ悩んで、結果、一人で結論を見つけてしまうのだった。

 女は、そこで、

「死」

 を選んだのだった。

 その理由を、警察は調べて、ある程度は分かったのだが、それを、親族でもない、久保田に話すわけはない。

 ましてや、人間関係を調査する中で、名前は出てはきたが、表には出てきていない迫水に話すわけもない。

 だから、二人は、何も分からないままだったのだ。

 久保田は、当然、迫水を恨むだろう、迫水も、

「原因は、久保田にある」

 ということで、お互いに、恨みを持ったに違いない。

 しかし、迫水の方は、そこまで彼女を好きだったわけでもないし、

「相談されたから付き合っただけだ」

 と我に返ると、その憎しみは消えていた。

 白状なようだが、

「これ以上かかわることは、自分のためにならない」

 と思えたのだった。

 迫水は、そう思い、自分が、

「まさか久保田に逆恨みされている」

 とは思っていなかった。

「久保田の方も、そのうちに忘れるだろう」

 というくらいにしか思っていなかったのだ。

 しかし、久保田は、実際には、そこまで彼女のことを好きだったということで、迫水に対しての殺意のようなものがないとは言えなかった。

 ただ、迫水を付け狙って、

「あの男を殺したい」

 と思っているのが、男女二人いたのだが、

「二人とも、その動機は、決定的なものではない」

 といってもいいであろう。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る