第14話

 昨日の日曜日は初春と言う事もあり、のんびりと清々しい休暇をとった。

 何せ一仕事終わったあとの週末だ。

 これ以上気分の晴れるのも珍しい。

 今朝の通勤電車も苦にはならなかった。

 むしろ、また相原さんと仕事ができる喜びの方が大きかった。

「おはようございます」

 いつもの挨拶にいつもの気の抜けた返事があちこちから起こった。

 おれは自席に着いて各サーバのログチェックをした。

 まあ、あるわあるわ。普段見慣れないログがあちこちにあった。

 ダミーのLinuxノートPCのログを見た。

 こっちにもアクセスの記録が残っていた。

 相当焦ってたな、竹富部長。

 ここでおれは竹富部長のクロを確信した。

 相原さんの言うとおり、一昨日の臨時役員会の終わりから今朝の五時まで、延々と不審なログが続いていた。

 まあ、全ては相原さんの手の中なのだが。

 結局、午前中はそのログ解析だけで午前中が潰れてしまった。

 竹富部長は出社してこなかった。

 あまりにも分かり易いズル休みだったので、総務部に確認の内線した。

 及川さんが出た。

「システム部の吉岡です。お疲れちゃんです」

「はい。お疲れちゃんです」

「まだ竹富部長が出社されてないようなんですが、何か連絡ありましたか?」

「いえ、特には」

「何かあったんでしょうか」

 そう。何もかも、とにかくあったのだ。

「こちらには何の連絡もないです。もうちょっとお待ちいただけますか」

「はい。分かりました」

 で、電話を切った。

 飛んだかな?

 音楽業界では稀にあると先輩社員に聞いた事がる。

 時々、人が「飛ぶ」事があると。

 それがまさか自分の上司が飛ぶとは思ってもみなかった。どういう時に人は飛ぶのか?

 今回の件でそれがうっすら実感できた。

 今日の昼食は一人で鉄火丼を食いに行った。

 一人で行ったのは、土曜日の臨時役員会の話が社内に出回り、何をしていたのか訊かれるのを避けるためだった。

 そう。Teamsの予定表にちゃんと「臨時役員会」と、土曜日にスケジュールされていたのだ。これでは全社員に臨時役員会があったのが筒抜けだ。

 昼休みが終わり、おれは自席に戻った。

 デスクの脇には新人用のノートPCが六台積み上がっている。これも新年度が始まれば初々しい新人たちにこき使われるのだ。

 頑張ってくれよ。できる準備は整ったのだ。

 サーバルームに相原さんがいた。

 相原さんは相変わらず端末に食らいついていた。

 ふと、相原さんはおれの目線に気が付いたのか、おれと目が合った。

 相原さんは右腕をすっと伸ばしサムズアップしてまたすぐ作業に戻った。

 何か良い事があったらしい。

 おれは相原さんからの作業報告を待った。

 それは間違いなく吉報になるだろう。

 相原さんはおれの期待に応えられるほどの力量は持っている。おれはそう確信している。

 やっぱり相原さんはいい女だ。

 その力を見せてくれ。お手並み拝見といこうじゃないか。おれはそう熱望した。

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相原さんは斜め上から闘いを挑む @wlm6223

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