第4話 まさかのこと
俺たちが一度教室に戻り説明を受けたあと、体育館へ移動するとオリエンテーションが始まった。
ソラになんでいなかったのかと問い詰められたのだが、ちょっと用があってとごまかしておいた。疑いの目で見られたが別に嘘はついていない。
それに俺がいない時に他の人と話せるようにならないと、ソラの今後も心配だしな。いつまでも過保護のままでらソラも鬱陶しいと思い始めるだろう。だから少しずつ離れていく。もう俺も一人ではないから寂しくないし。
さてと、色々な考えごとはあとにして今は話を聞くとするか。まずは、この学校で過ごしていく上での世話係というものが決まるらしい。それは一年ごとに変わるらしく、新入生が入るたびにこうして体育館に全生徒を集めているのだとか。漫画の世界なのでなんでもありだな。
その世話係によってこれからの学校生活が決まってくるというのなら中々リスクが高いもののような気がする。
二、三年から選ばれるから誰でもって感じだよなあ。まあ、扱いやすい人ならいいかな。
——なんて思っていた俺の数秒前はどこへ?
俺の世話係として呼ばれたのは雲茂さんであった。
「よ、よろしくお願いします」
呼ばれて横に来た雲茂さんにお辞儀をする。この人は気にしないだろうけれど、少し驚いたから固くなってしまった。
「よろしく、チワワ」
「前の呼び方しないでくださいよ……あの、どこまでが計算ですか?すでに決まっていたんですよね?このペア分け。なんでさっき言ってくれなかったんですか?」
「君がチワワなの変わらないでしょ。僕にプルプル怯えてるのに挑んでくるところとか。あと、これはくじで決められてるからただの偶然。言わなかったのは君が驚いている顔を見るのが面白いと思ったから」
俺のことを変わらないと言ったけれど、雲茂さんだって変わらないじゃないか。チワワ呼びはやめてほしいのだが、時々俺を揶揄うところとか前の雲茂さんそっくりだ。本人だから当たり前か。
しかし、元々決まっていたものとはいえ少し怖いものがあるな。妹が何を考えてこの組み合わせにしたのか……くじとか世話係システムとかあいつの趣味だと思うし。
まあ、深く考えないことにするか。
「偶然だから仕方ないけど、君の友人の世話係があのナスなのは同情するよ」
「あれ、
「記憶ないからに決まってるでしょう?生徒会の迷惑ごとを風紀に持ってくるのやめてほしいからね。そうだ、あいつの今の名前は
そうだ、里樹って先輩だったんだ。初対面で喧嘩ふっかけられたようなものだったから先輩だというのを全然意識してなかった。
猫が轢かれそうだったからと車道に出た女の子ごと、車から助けたらそれが里樹の妹の
それでお礼を言われて何が欲しいのかと聞かれて、何もいらないと言ったら偽善者がって鼻で笑われたんだっけ。
思い返すと喧嘩ふっかけられたわけじゃなかったか。
偽善者発言にむかついた俺が、なら友だちになってよと言ったのも笑われたっけなあ。結局あっちがおれて里樹も冷も友だちになってくれたのだけれど。
そんなことがあったから敬うという気持ちにはならないな。
また雲茂さんに迷惑かけているらしいし。
「そうですね。話してみてからどうするかは考えますよ。ソラに変なこと吹き込むなら容赦はしないですけど」
「君よく自分と同じ姿の人間に過保護になれるね」
「今は違うので。雲茂さんも何かちょっかいかけるようなら容赦しないですから」
圧をかけるように笑ってみる。
この人にそんなことは通用しないのは知っているが、少しぐらいは効果があるといい。
幼馴染でずっと一緒に過ごしてきたからこそ、ソラの人見知りっぷりなど分かっている。そんなソラを騙そうとしてくるのも出てくるかもしれないから過保護にもなるのだ。
「何もしないよ。大体チワワのお気に入りに手を出したらどうなるか分かっているからね」
「そんな怖いことしませんよ?というかお気に入りって……」
「違うのかい?」
「その言い方をするのなら、雲茂さんだって俺のお気に入りですからね」
「そう」
お気に入りというか、友人や仲間という表現が正しい。そして、俺の大切な人たちに危害を加えることは許さない。
それは前からだ。俺が守らなくたって自分でどうにかする人の方が圧倒的に多かったのだけれどな。
守ってるつもりが守られていたなんてこともあっただろうし。それでも、一緒にいられたことは俺の誇りと言える。
だから、今世だってそうだ。一緒にいたい人といて、大切な人を守れるようになる。
「雲茂さん、ありがとうございます。したいこと決まった気がします」
「僕は何もしていない。どうせ君はまた一人で考えて決めたんでしょ」
「そうですけど、雲茂さんと話していたら思い浮かんだので」
「そう。雨にも言われてるだろうけど、一人で背負おうとしないでよ。君また何も言わず消えたら僕だって容赦しないからね」
「は、はい」
過保護だなんだと言うけれど、二人の方が過保護なのではと思う。それが嬉しくないわけではないがむず痒い。
確かに急に消えたみたいなものなのは否定できない。
そうだ、あの時の友人には会えるかな。俺が一番最後に会った友人であり、苦しい表情にさせてしまった人。
君は悪くないって伝えたい。例え記憶がなくても。いないということはないと確信している。
だって俺のそばにいた人たちをモデルにしたのだとしたら、必ずいなくてはならない人だから。そんな人を描いていないわけがない。そのうち会えるといいな。
「さて、終わったみたいだね」
「えっ、そ、そうですね」
「また考えごとしてたのかい?にしても、雨の世話係は
「あ、もしかして
「うるさい。晴間は
そっぽを向いたということはおそらく図星だったのだろう。幼馴染のことが心配になるというのは今の俺と雲茂さんの共通点だな。
裕貴さんは空手部の主将で、いつも走って体力の向上に努めていたり、面倒見がよく後輩のことを気にかけていたりするとても気さくでいい人だった。
そんな人の性格を変えて描いてはいないと思うし、確かに安心できる。
「そういえば、オリエンテーションってこれだけなんですか?」
「これだけで朝からなわけないから。まあこれで二時間費やしてるんだけど。事前に決まっているとはいえこうも生徒数多いとかかるものだね。気分悪くなってきたし」
雲茂さんは人混みにいると気分が悪くなってくる人。普通に会話できていたから気づかなかった。大丈夫になってきたと思っていたけれど全然平気ではなさそうだ。
「休みますか?」
「どうせこのあとはさっき決まった世話係との交流も兼ねての、お話会みたいなものだから」
「それなら休めそうですね。良かったです」
号令がかかって今の時間は終了となった。お話会は各自好きなところでということで体育館から出ていく生徒も多い。
そんな時、手を振って近づいてくる姿が見えた。
「ナル、弥生!一緒に話そうぜ!あっ、この人がオレの世話係の晴間先輩な!」
「うむ!晴間勇だ!よろしく頼む‼︎」
井口と晴間先輩だった。
別に勇さんと言っても良かったかもしれないが、なんというか先輩って呼びたくなったのだ。
「よろしくお願いします。俺は久保成海です。あの、雲茂さん少し気分悪いようなので声のボリューム下げてもらえると……」
俺は彼をチラッと見ながら言った。
気分悪い時に大きい声はあまり聞きたくないだろう。
「なに⁈すまないな雲茂!」
「慣れてるから別にいい。それより背中バンバン叩かないでくれる……」
慣れてるのか。それなら気にすることはなかったかな。仲がいいというか、晴間先輩が積極的に話しかけにいってるというやつか?
「弥生が押されてるの面白いな」
「聞こえるように言ったら怒られるよ」
「だーいじょうぶだって!」
「もー」
こうして俺たちが話していると、また寄ってくる人がいた。
「おやおや、随分と楽しそうですねえ」
—— 誰の声だ?
ただの相談役ポジなんだが攻略対象の男たちに言い寄られているようで? 紫吹 橙 @HLnAu
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