宵狩

陸野エビ

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吸血鬼

 吸血鬼は、人類以外に現存するヒト族である。

 洞窟生活に完全に適応した彼らは夕方から夜の間に行動し、色素が欠如するために日光に弱く体温を保持する機能を細胞内に共生するヘマトファジアとよばれる微生物に依存するため、低温環境下では生命活動を維持するために冬眠を行い、血液などの液体食を主食とする。

 彼らの細胞内で共生している微生物ヘマトファジアは心臓内に歯車型の赤い結晶を形成し、血流で歯車を回転させて微量な電気を発生させる。これらが吸血鬼の脳内にある記憶電位や遺伝子情報を電気信号として記録し、長期間の冬眠において不可逆的な損傷を受けた脳細胞を再生させた際に破損した記憶や機能を補完する。

 この心臓の内部にあるもう一つの心臓……内部心臓が何らかの事情で壊れたとき、吸血鬼は死亡する。

 それが吸血鬼という種族の平均的な一生のサイクルである。


腐れ袋

 吸血鬼と共生するヘマトファジアが形成する内部心臓は経年に寄る増殖で巨大化し、心臓を破裂させる場合がある。

 ヘマトファジアはその生命活動に豊富な鉄分と微細な電気を必要とするため、外気にさらされた場合は活動に著しい負荷を受ける。

 この状態のヘマトファジアは血液が供給する環境を修復しようと過剰な再生を宿主(吸血鬼)に対して促すが、記憶電位や遺伝子情報を記録していた電子はすでに散逸しているため、再生能力は暴走の一途をたどる。

 また、ヘマトファジアが生存のために血液を過大に要求した結果、ヘマトファジアがコロニーを形成する心臓周辺部以外への血流が激減する。結果として酸素を得られなかった脳や手足は酸素を得られず壊死するため、知性は失われ、四肢も壊死して失われる。

 この再生を繰り返しながらさまよい歩き続ける腐った血袋のような状態は吸血鬼にとっても望むことではなく、安楽な死の模索は吸血鬼たちの至上命題と言える。


宵狩(吸血鬼狩り)

 腐れ袋となった吸血鬼を狩り、弔うことを生業とする。

 銀色の縁に紫水晶をはめ込んだひし形の飾りがこの職業の目印であり、詐称や無資格者がこれをつけた場合は罰金或いは1年以上の禁固刑に処される。

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宵狩 陸野エビ @ebinest01

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