吸血鬼について
魔女・人狼・異常死・異常出生・悪人は死後、「動きまわる死体」になって人間に害をなす、精気を食うものと認識されていた。
このため、吸血鬼という単体の怪異が存在すると言うよりは、前述の存在が死後も悪事を犯し、これを吸血鬼という言葉で言い表した、という方が的確である。
このため、吸血鬼を意味する言葉には人狼や魔女などの言葉が含まれる事が多く、派生語に近いようである。夢魔と混同されることも有る。
東欧・西欧での吸血鬼の扱いの違い
西欧では12世紀後半から吸血鬼に関する話が一度失せ、17世紀末から18世紀にかけて東欧での吸血鬼に関する報告書が発見されてから吸血鬼ブームが到来、以降、現代に続く文学的な題材として扱われるように成る。
東欧で主流である正教とちがってカトリックでは12世紀後半から煉獄(天国には行けず、地獄にも墜ちない人間の行く場所。苦罰によって罪を清められた後、天国に入るとされる)の観念が生まれており、死者は墓場で暴れるより死後の執り成しを頼みに来る幽霊としての側面が強くなったことが主要因であると考えられる。
魔女狩りと吸血鬼
東欧では共同体に不和をもたらすものとして、動く死体としての吸血鬼に着目されており、共同体に何らかの不幸が在った場合には吸血鬼だと疑われた死体が墓を暴かれて吸血鬼退治の処置を受ける事で事件の解決が試みられた。
吸血鬼の存在が薄れた西欧ではこの吸血鬼のポジションに魔女が取って代わっており、西欧に魔女狩り
が集中した原因の一つと見られている。
吸血鬼に成るとされた者
魔女・人狼・異常死・葬儀の不備・異常出生者・悪人等
異常出生
生まれたときに歯が生え揃っていた、胞衣を被って生まれてきた、特別な日に生まれてきた等。
葬儀の不備
啼泣・湯灌が行われなかった。
猫・その他の動物に死体・墓穴を飛び越された(影がさすことも含む)
異常死
自殺・他殺・溺死・落雷死(葬儀無しで聖別されていない土地に葬られる為)
生前の行い
狼に殺された羊の肉を食べて吸血鬼に「感染」した
吸血鬼に食べられた家畜の肉をたべて「感染」した等
※吸血鬼は伝染るものだと考えられていた向きがある。
吸血鬼の姿
死んだときの姿や様々な動物の姿を取る
大きくも小さくも成り、どんな小さな隙間でも鍵穴から滑り込める
毛むくじゃらで爪が長く、赤い目や歯を持つ・口から炎をはく
骨がなく、血の詰まった袋のようだという話もある。
一定期間後(だいたい40日)の後は骨を得て死んだときの姿に成るとも言う
四十日をすぎると手に負えなくなるという話もある。
月が満ちていくほど力を得る為、対峙するのは月が欠けていく機関が良い。新月が最適。
ある期間は狼の姿に変わるとも言う。
他、水死者の吸血鬼は雪・雹をふらせて農作物に不利益をもたらすという。
顔が赤く太っているともいう。
生前の妻や恋人のもとに通って子供をなすとも言う。
脇の下に翼がはえるタイプも射る。
吸血鬼の欠点
水や茨を超えることが出来ず、火をこわがり、教会の鐘の音を聞けば墓に戻る。
扉にタールで十字を描くと建物に入れない。
黒犬・四つ目の犬を恐れる。
細かいものを数えてしまうので、細かいものをまけば数えている間に夜明けを迎える。
※ケシの種、ひまわり、籠の目等
動く死体であるため、
杭で墓場に縫い留めるか死体を灰になるまで焼いてしまえば動けないので退治できる。
吸血鬼の争い・集会
夜に他の吸血鬼や呪術師と戦い、豊作を争う。
クルースニクとよばれる白い胞衣に包まれて生まれてくる人間は白い獣に変身し、黒又は赤い胞衣に包まれてうまれてきたシュトリゴン/クドラクと戦う運命に有り、豊作を争うなどの話が有名。
このニ者は年齢が一定に達すると仲間が迎えに来るという。
イストリアではヨハネ祭の前に集まって祝って踊り・殴り合うとも言う。
月蝕・日蝕を呼ぶ
狼や竜が月や太陽を食べてしまうという伝承が伝播したためか、
月蝕や日蝕を起こすという説話がある
吸血鬼(動き回る死体)を意味する言葉
ストリゴイ(ルーマニア)ストレーガなどの魔女を意味する言葉に由来する。生けるとつくと魔女・呪術師を指す。死んだストリゴイは羊膜を被ったまま死んだ子供、私生児、流産の子、乳離した後また乳をのんだ子、人狼、魔女の子等紡錘のように細い足、馬の脚、赤ら顔、頭に棺を載せて家々や四つ辻を徘徊するとも言う。
ウゴドラク(南スラヴ)
狼+毛皮の混成語。元は人狼を意味する。雲を追うもの(呪術師)や月蝕・日蝕を引き起こす怪物もこの名で呼ばれる。
ヴリコラカス(ギリシア)
血の詰まった袋の片側に赤い目が二つ付いていて、家のものを荒らしたり人や動物の血を吸うという。枕詞に死んだとつくと動く死体で、生きたとつくと夢遊病者や人狼を指す。
ノスフェラトゥ
私生児の両親から生まれた私生児が死産した場合になる。黒い猫や犬、虫や蝶、麦わらなどの姿で夜に動き、異性と性的に交わると相手はやつれて死ぬ。妊娠した場合は毛むくじゃらの子を産む。年配者からは血を吸う。
ヴルコラク
洗礼を受けずに死んだ子供が成る。昼は墓、夜は黒い子供の姿で人の二の腕から血を吸う。球界座れると死ぬ。鍵穴から入り、塞がれると朝に麦わらや羽、つめになる。この姿で燃やされると退治される。香・茴香・にんにくを寝所において聖水をまくと近づけない。
七年たつと月に行き、月蝕まですごしてから地獄へ行く。
コサツ(クロアチア)
ko si?(誰だ?)とkosi!(切り落とせ)の掛詞で、夜に名前を呼ばれて答えると死ぬ。
オルコ(ダルマチア)
馬・ロバ・犬の姿で現れてヒトを背中に乗せて走り、ぐんぐん大きくなって高所に置き去りにする。洗礼を受けずに死んだ子供だとも、救いの祈りを待つ哀れな魂だとも言う。
ウィプリ(ロシア)
不浄の死者を指す言葉。中世までは吸血鬼はささなかったが、近代では吸血鬼を意味する言葉として使われている。中世では捧げ物をされ慰撫される存在として見られていた。水辺の精霊に近いのかも知れない。
ルガト(アルバニア)
むさぼり食う者を意味する。腐敗しない死体で、死後40日たつと徘徊する。生前の妻と同衾する。月蝕はルガトが月を食べてしまうからだとも言う。ルガトの息子にはルガトを殺す力があるという。
シュトリゴン(ポーランド)
古代ローマの子供を襲う怪鳥に由来する。この怪鳥は乳母の付いていない子供を夜に襲い、血や内臓を食べてしまう。鳥に変じた老婆とも考えられそこからストレガ(魔女)へ変遷し、やがて吸血鬼を示唆する言葉となったようである。
「動く死体」ではない妖怪・精怪としての吸血鬼
動物の死体を他の動物が飛び越えると、その死体は吸血鬼と成る。
10日以上、またはクリスマスまで放置されたスイカ・かぼちゃは音を立てて震え、血痕があれば吸血鬼に成る。
退治方法は水につけて箒で洗ってから捨てること。箒は焼き捨てる。
麦束を束ねる棒・軛の木のこぶも三年たつと吸血鬼になる。
眼のような人体の一部も吸血鬼と成る。
何故死体が動くのか
誰もが魂を二つ持っていて、吸血鬼は片方しか去っていないので墓の下で蠢くという話がある。
トランシルヴァニアに吸血鬼は居ない
ハンガリーの伝承にある吸血鬼に襲われるという観念は在っても(他所の伝説にあって地元の退治方法を受け付けない外部からの外敵扱い)トランシルヴァニアじたいに吸血鬼の伝説はない。吸血鬼ドラキュラ?ありゃフィクションだ。人狼伝説は有る。