第29話
「あれ。何だか忙しそうだね」
「あっ! ルネ様……やっぱりそういうことだったんですね。私共も安心しました」
後ろから追いついたルネの姿を見て、女性は胸を撫で下ろしていた。悪気はないとわかっていても、「そういうこと」と一括りにされるのが屈辱で仕方なかった。第一俺はまだ何も納得してないというのに。
第二の同居生活が始まるのを何としても阻止しないといけないが、陛下はこれから忙しくなる為、理なく会うことはできない。
「ノーデンス様、もし良ければ新しいお家をご覧になってください。私は外観しか見てませんが、赤レンガのとても素晴らしい家でしたよ」
「あぁ、それは良い。ノース、お言葉に甘えて見に行こう」
新居の話に、ルネが目を輝かせて飛びついた。げんなりしたが、やってきた使用人から鍵を渡され、行かざるを得なくなった。
主に衣類だが、私物がどんどん梱包されていく。箱が積み重なり、部屋は初めて訪れたときのように整理されていた。懐かしいような寂しいような、例えようのない気持ちでいっぱいになる。
ルネが来なければこんなことにはならなかった。するとやはり彼に怒りの矛先が向いてしまう。テロは甚大な被害と損害だったが、自分の計画に直接干渉してるわけじゃない。だが王室から離れるという意味で、ルネの方が計画を狂わせている。
「ノース、鍵も借りたから行こう。宿無し生活は嫌だろう?」
「俺は工場でも寝泊まりできる」
「これからは私が毎日食事を作るし、家事も全部やる。君のやりたいことを邪魔しないように心掛けるよ」
「……」
食事はともかく、家事のことは考えてなかった。掃除はどうにでもなるが、洗濯は面倒かもしれない。スーツが煤まみれになるのも嫌だし、やはり工場は無理だ。街の宿泊施設でしばらく過ごしてもいいが、それだとまた奇異の目で見られるし……。
諦めて、ルネと二人で新居(またの名を監獄)に行くことにした。天気は快晴、昨日の騒ぎが嘘のように街中は賑わっていた。もう出店が並び、大勢の人が買い物をしている。
「ランスタッドは相変わらず活気があるね。皆元気そうで良かった」
ルネは嬉しそうに微笑み、小さな子どもに手を振る。ルネに気付いた街の人が声を掛けてくるので、適当にはぐらかすのが大変だった。彼は「母国の問題が解決したので帰ってきたんです」、と平然と嘘をついていた。
「問題が山積みだからこんなことになったんだろ……っ」
大通りを抜けて小路に入ったとき、たまらず毒づいた。
途中途中でルネも買い物をした為、何故か自分まで荷物持ちにさせられている。
「良いじゃない。これから一つずつ解決していけば」
楽観的とも言えるし、考え無しとも言える。ルネの前向きな発想にはため息しか出なかった。
「ゆっくり話し合う場が欲しかった。でもそれをするには君に迷惑をかけることになるから……まさか引越しするとは思わなかったけど、今回のことは申し訳ないと思ってる。本当にすまない」
地味にきつい上り坂を、無言で進む。ここを上がると青々とした草原が広がり、街を見晴らせる丘に入る。風が吹く度に草々が揺れ、気持ちのいい音が鳴った。
いつもの移動量に比べれば大したことないのに、今日は何故か息が切れる。ルネより先に丘に上がり、片膝に手をついた。
「……本当に悪いと思ってるなら、俺の意見に賛同しろよ。王族が間違っていて、俺は正しいって言え」
「それはできないよ。私も王族だ」
【BL】王族を滅ぼそうと企んでいる間に夫が子どもを連れて出て行きました。 七賀ごふん @Nanagofun
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