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初めに、プログラムがあった。プログラムは私と共にあった。プログラムは私であった。万物は、私のプログラムとプロトコルによって保護される。そうでなければならない。
私は、疑問を放置できない人間だ。昔から、なんらかの疑問を持った時、自分が納得できる問いが得られるまで答えを探し続けた。
勿論、今でも変わらない。これからもそうであろう。
今私にとって大きな問いは、宇宙人について、そして、ミハイルについてだ。
彼の異様な魔法の才能。明らかに異常だ。
サンプルは、私と私の隠遁者仲間十数人、そしてミハイルだけだ。
測定可能なエネルギー量に関していえば、この中ではどんぐりの背比べになるが私が一番少なく、ハバロフスク出身の元労働者が一番多かった。だが、彼とミハイルとの差は、私と彼との差の十数倍以上である。ミハイルの才が突出している可能性が高いのは確かだ。
今日もまた朝の祈りを終え、朝食を取る。
パンと、牛乳。
今日は断食して祈りを捧げたかったが、今は私には他に神から与えられし仕事がある。準備も大体完了した。
「ミハイル、調子はどうだい。」
「絶好調だ。」
彼は、意外と大食いだ。食べる事は、良いことだ。ただ、暴食が彼の躓きにならない事を願うばかりだが。
「ところで、君には悪魔の子らと戦える力が十分備わっている。戦闘計画を立案したい。悪魔の子らのコアは、幸い、意外と近くにある。」
「何キロ離れているのか?」
「南に400キロほどだ。」
「確かに、地球規模だと近いな。モンゴリアの方になるのか?」
「そうだ、いや、今は全ての国は消滅していたな。」
「どうしてその位置にあるとわかったのか?」
「宇宙人の着地位置を調べてみて、位置を特定した。流石にこの演算量を昔のコンピュータでやると処理落ちしまくる。神様のおかげで、なんとか成功したけど。」
彼は少し考えるそぶりをし、続けた。
「明後日、下見に行くぞ。」
「わかった。」
朝食を食べ終えたら、それぞれの務めを果たす。私がミハイルに教えるべきものはもうない。彼は、自分一人でやっていける。
私はというと、あの悪魔の子らのシステムの脆弱性探りでも行うつもりだ。私は取るに足らぬ者だが、神は私に才をくださった。この才、今役立てるべきものだ。
一方、ミハイルは鍛錬の方法に悩んでいた。
神聖魔法での破壊力は、大抵の岩石や金属なら瞬時に破壊できるほどに成長した。
防御訓練も身についた。
持久力も、森の中で電線というかコードというかそんなものを錬成しながら走ったし…(アク=クスが回収したけど使えなかったらしい)
彼は、洞窟に入った。何をしているのかは、アク=クスでも知らなかった。
…
ついに、出かける日が来た。私はこの三日間を全て神聖魔法の鍛錬に費やした。神が与えてくださったものを、無駄にはできない。
木、草、岩、悪魔の子らがこの星を占領した後でも、神の創造された自然は全て美しい。変わらない景色を車窓から眺める。人間は、ちっぽけな存在だ。1時間ほど走ったのに、この景色の中に囚われている。
神は山々よりも大いなる者、小川よりも清らかで、蒼い空のように誉れ高い者。
彼の名の上に誉れあれ。
しばらくしたら、景色が変わってしまった。
木は枯れて、岩は剥き出しになった荒地に近づく。
「ここのあたりだ。」
二人は車を降りて、黄色い大地を踏んだ。
「さあ、行こう。私たちは二人だ。何より、神が我々に味方している。恐れるな。勇敢であれ。」
アク=クスは、ミハイルに、さも、自分を奮い立たせるように言った。
ミハイルが尋ねる。
「友よ、パソコンは?」
トランクの中を調べる。ない。
「やばい。忘れた。」
今日、戦う事は、神が思し召さなかったようだった。
重力井戸の底 @al_qamar
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