三回見たら死ぬ絵の作者による遺言
(雑音)(ビデオが定位置に固定される)(絵や画材で埋め尽くされた部屋と、一人の男が映っている)(雑音)
……こんにちは。
こんにちは言うんも違うか。お前らみーんな、ボクの絵買ってくれんかったもんなあ。ボクのこと知らんやろ。はじめましてやはじめまして。
(この後40秒間、青辺氏が笑う姿が映される)
はははは!!!……はあ…ボクの最後の遺作が今日、でき上がりました。いや、まだ完成やない。ボクの死をもって完成する。ボクを評価せんかった世界への復讐や!!ははははは!!!!
最後の絵は、呪いの絵や。呪いは、四国に住む呪いの専門の先生に相談して作り上げた。先生によれば、呪いの強度を上げるためにはふたつの条件が必要って話やった。
ひとつは、ボクの命と引き換えにすること。何十年も怨嗟を抱え続けた男が、生命と引き換えにした呪いや。強いでえ~~?せやけど、それでも見ただけで死ぬ呪いなんてもんは作れん。
そこで回数の条件や。じわりじわりと人間を蝕み、3回目にようやく発動する呪い。1回や2回見ただけじゃ死にはせん。3回見ることが発動のトリガーとなる。見る…いうんは少し違うか。絵を見なくてもええんや。絵の情報を正しく認識しただけで条件を満たす。
絵を見るっちゅうんは要するに、絵に含まれてる情報を頭に入れる行為や。それなら、絵そのものを見ずとも、絵の情報さえ正確に伝えればええ。たとえば…絵の情報を詳細に書いた文字列とかな。
絵はデータ化してインターネットやSNSにバラ撒いた。絵の情報を載せた小説も何作か、小説投稿サイトに投稿した。
それはじわじわと広がり、お前らがインターネットを楽しんでいる時に…ふと、目に飛び込んでくる。
1回目。それの存在を知る。
2回目。以前にも、それを見たことを思い出す。それを3回見たら死ぬなんて噂も、もしかしたらその頃には聞いてるかもしれん。ぞわりと、恐怖に包まれる。そんなわけない。噂に決まっとると笑い流す。でもな。
3回目。死ぬんやで。
(カチリ、と音がする)(青辺氏がライターに火をつける)
絵の原本は友達にあげたわ。せやから、ここにあるんはどうでもええ絵ばかり。今から全部燃やしたる。
(青辺氏が一枚の絵に火をつけ、放り投げる。床に散らばった絵に次々と燃え移っていく)
ああ、火が回る前に、ボクがどんな絵描いたかお見せしましょか。コピーしたやつがあるんや。ホラ、これや。
(青辺氏が一枚の絵を画面に写す)(海を背景とした、荒涼とした風景の絵画。砂浜の岩には奇妙な生物が座っている。この生物は筋骨隆々の成人男性の肉体を持ち、黒い服を着ているが、その頭部は哺乳綱食肉目アシカ科のトドに酷似。寒々しい色彩で描かれた、不気味な印象を与える絵)
この絵を見るんが1回目の人は早くあと2回見てくれることを願っとるで。2回目の人はあと1回やなあ。震えながら暮らすことになって、気の毒やな。
そして。
これが3回目だった奴、終わりやで。
(青辺氏の笑い声)(画面は炎しか映さなくなっている)(笑い声は炎の中からなおも続いている)
三回見たら死ぬ絵の作者による遺言 ぴのこ @sinsekai0219
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