暴力団組長へのインタビュー記録
担当職員:
インタビュー対象:指定暴力団
「まずは感謝いたします。抵抗することなく聴取に応じていただいたことに」
「ハッハッハ!ウチにカチコミかける連中なんざ普段なら蹴散らしたとこやがな、今回は大人しゅうお縄についてやったわ」
「そこです。我々は、あなた方との戦闘を予想していました。藤堂組は、好戦的な暴力団として知られていますから。しかしあなた方は、一切抵抗することが無かった。そこがどうにも不可解です。理由をお聞かせ願いたい」
「俺が下のモンに言っといたんや。あの絵を狙う連中がウチに踏み込んでくるかもしれん。その場合、素直に絵を渡したれってな。ま、撃ってきたら撃ち返すつもりやったけどな。ハッハッハ!!」
「…あの絵画は、凶悪な呪物特性を有していました。あなた方はそれを用いて殺人を行っていた。つまり、あなた方は把握していたのでしょう?あの絵画の呪物特性を」
「ま、そうやな」
「あなた方はどういった経緯であの絵画を手に入れたのですか?そして何故、あの絵画の呪物特性を知っていたのですか?」
「それを答えるにはな、条件をつけるで。俺と一緒に連れてこられた組のモンがいたやろ。アイツらを解放してくれたら答えたるで」
「…なんですって?」
「どうせお前らも期待しとらんやろ。アイツらの持つ情報には。組長である俺の方が多くの情報を持っとると考える。当然や。なら、俺の要求を飲んで俺から情報を引き出したほうが有意義やないか?」
「……いいでしょう」
藤堂氏の要求により、藤堂組幹部を釈放。所在を明確にするため、全員に生体埋没式GPSを皮下注射した。
「あなたの要求通り、幹部の方々を釈放しました。では約束通りお話しいただけますね?あなたが例の絵画を入手した経緯を」
「おう、あんがとさん。そうやな、あの絵は俺のダチから貰ったんや」
「ダチのな、遺作なんや」
「遺作…あの絵画の作者は既に亡くなっているということですか」
「そうや。知らんやろ、
「…報告書には、こう書いてあります」
呪物特徴詳細:海を背景とした、荒涼とした風景の絵画。砂浜の岩には奇妙な生物が座っている。この生物は筋骨隆々の成人男性の肉体を持ち、黒い服を着ているが、その頭部は哺乳綱食肉目アシカ科のトドに酷似。寒々しい色彩で描かれた、不気味な印象を与える絵。
「私もこれと同じ印象を抱きました。ひどく、不気味な絵」
「そのトドな、俺を描いたって言っとったんやで。アイツ完全にパーになってたらしいわ」
「…
「さあなあ。とにかく、アイツがパーになった理由は簡単。画家として、売れなかったからや」
「アイツは生前、よお言うとった。売れたい。認められたい。褒められたい。自分を評価せん奴は、死ねばええ」
「俺は好きやったんやけどなあ、アイツの絵。だがアイツは、大勢に認められんかったら満足できんかったらしい」
「アイツは例の絵を俺に渡し、こう言ったんや」
「その絵は、3回見た人間を殺す絵や。君の商売に使うとええ。殺人の証拠を残さずに人を殺せる。せやけど、君たちボクの友人には作用せん。ただし、その絵を押収しに来る連中がいるはずや。その場合、素直に渡してやってくれ。その絵自体に、それほどの価値は無い」
「その絵自体に、それほどの価値は無い…?何か違和感のある発言ですね。どういう意味でしょう」
「なあアンタ、“見る”ってどういう意味やと思う?絵を見たら死ぬ。それはどういうプロセスで起こるんやと思う?」
「絵っちゅうんは情報の塊や。3回見たら死ぬ絵で死んだ連中は、単に例の絵を3回見たから死んだんやない。絵に含まれる情報を、3回受け取ったことが死のトリガーになったんや」
「情報を伝えられれば殺せるんなら、元の絵にこだわる必要も無いわなあ」
「……まさか」
「ぎょうさん出回っとるで。あの絵をデータ化したモンがインターネットに」
「……至急確認します。本日のインタビューはこれまでとします。明朝、またお話を伺いますので」
「オウ、ほんじゃあな」
「……“見る”っちゅうんは、“読む”とどのくらいの違いがあるんやろな」
【至急連絡】
更新日時:2024年9月14日19時30分
9月14日19時頃、藤堂氏が独房より脱走。警備の人員を殺害し、施設外へ逃走した。生体埋没式GPSは機能せず。破壊されたものと思われる。至急、捜索せよ。
【至急連絡】
更新日時:2024年9月14日23時12分
本案件に関わる職員が、現時点で7人死亡した。死因は急性心不全や、危険度一級の蒐集呪物の暴走による被害など。
藤堂氏の証言から、絵画の情報を3回認識したためと推測される。以降、絵画の詳細な情報は閲覧資格を持つ者のみが閲覧できるものとする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます