あどけない空 【最終話】
愛する心のはちきれた時
あなたは私に会ひに来る
すべてを棄て、すべてをのり超え
すべてをふみにじり
又嬉嬉として
✷
生まれついた名前を持たない彼は、意識のない手を繋ぎながら、深く深くため息を吐いた。
「
そこへ女が一人、取次役に案内されながら、いたって呑気な顔で現れた。
「ありゃりゃ。いつも大変ですねえ、
「出たな祈祷師、脈はあるが目を覚まさない。何とかしろ」
「構いませんよ、追加で報酬をいただけるのであれば。でもこれじゃ、全て元通り。おあとがよろしいようで。とはいきませんね」
たかが独楽をつついて回すだけなのに、どうしてそこまで下手なのだろう。呆気なく倒れた途端、童子は大粒の涙をこぼして遊び相手兼友人を呼んだ。
「うっ、うっ、ひっく。うわ~ん、また負けちゃったよお。とうが~、来て~」
呼ばれた少年は、甲斐甲斐しく涙を拭いてやりながら、なじるような視線を
「叔父上、
「ふん、ヤなやつ。だれだよおまえ。もう飽きた。遊ばないなら、あっち行っちゃえ」
暇つぶしに独楽を回していたところへ、勝手に近付いて来たのはそっちの方だろう。せっかく教えてやったのに興醒めだ。つまらなくなり、棒もその辺へ放り出すと、カラカラと転がって、待ち人とその連れの少女一名の爪先へ当たりかけた。が、行儀など気にしない待ち人はその前に別方向へ蹴飛ばした。
「もう、どこ行ってたの。おれ一人で、ずっと、ずうっとさびしかったんだから」
「
優しく抱きしめられてから身を離されると、渋々従って部屋へ戻る。とうがはそれを見ながら抗議した。
「なんとか言ってください
「
その間にも
「うええん、父上~。よしよしして、頭撫でて」
「それにしてもすぐ泣く……、まあいい。
「はい
子供三人とはそこで別れ、
「あーおそい、待ちくたびれた~」
「ありがとう、ちゃんと待っててくれたんだな。――本当に幸せだ。俺はあなたが、生きていてくれるだけで喜びなんだ」
冒頭の詩は 大正二・二『人に』より引用
智恵子抄 高村光太郎
青空文庫(2024/08/17 20:29アクセス)
https://www.aozora.gr.jp/cards/001168/files/46669_25695.html
媛彦談《ひめひこだん》∶カクヨム版 @yosinumayosi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます