『新薬』 下


 通信機も作動しないと来た。


 もはや、外部に知らせる方法はない。


 唖然としているなか、ポッドの蓋は、ゆるゆると開いたのである。


 1つだけなら、まだいいが、その部屋にあった、28のポッドの蓋が、全て開いたのである。


 そうして、中から、氷付け(普通の氷にあらず。)になった人々が、しずしずと、しかし、重々しく、現れたのである。(はだかだからね。)


 これが、恐怖でなくて、なんだろう、と、言うわけだ。


 しかもだ、問題は、現れて、ちょっとお茶しながら休憩する、だけならまだ良いだろう。 ☕


 しかし、全員が、ぼくのほうに、回れ向け! したのである。


 さらに、ゆっくりと、両手をあげて、映画の妖怪みたいに、迫ってくるのだ。


 『あぎゃあ〰️〰️〰️☺️』


 冷凍人間に抱きつかれたら、体温が急激に下がって、たぶん、即座に命が危ない。


 それも、28体となると、想像の範囲外である。


 さらに、冷凍人間に食われたりしたら、もう、訳が分からない。


 『み、みなさん、こないでくらさい。ぼ、ぼくは、まずいです。あなた方と違って、落ちこぼれです。』


 すると、一体がぼさっと言ったのである。


 『落ちこぼれの匂いがする。落ちこぼれは、うまい。いじめがいがある。食べがいがある。いじめても罪にならない。いじめ〰️〰️〰️✨』


 『なにお〰️〰️〰️。そら、言いすぎだあ。』


 まさに、異常事態になったので、あるのだ。


 しかし、当分、助けは来ないと、あからさまに、認識できた。


 しかも、この冷凍さんたちは、さすがにぼくの気には入らない。


 なんとかしなければならぬ。


 こうなれば、命が助かるためならば、少々なにをぶっ壊したって構わないだろう。


 ぼくは、緊急用の警備棒を携帯している。


 あくまでも、自衛のためだと言われていた。


 しかし、もしかしたら、こんなことが、起こることを想定していたのだろうか?


 そいつは、分からない。


 分からないが、これしかない。


 相手に棒が当たると、痛いうえに、適度なデンキショーック!🤯 を与えるのである。


 しかしだ、冷凍人間になんらかの効果があるとは思いにくい。なんせ、28体だからね。


 ならば、どうするか。


 あれだ。あれ。



 『いじめ〰️〰️〰️!』


 『いじめ〰️〰️〰️〰️〰️😁』


 冷凍人間さんがじわじわと寄ってくるのだ。


 もう、どうなるかは、分からないが、電気回路の集中化パネルをぶっ壊す。それしかない。

 

 しかも、時間はちょっとしかないのだ。


 『いじめ〰️〰️〰️〰️〰️😁😁😁』


 寒気がぐっと押しかかる。


 ぼくは、配電盤の蓋を開けた。


 電子キーは持っていた。


 ただし、もしも、使ったら責任を問われることになっていた。


 つまり、その行為が間違いだったら、そく、人生が終わるくらいに莫大な賠償金を背負うことになるらしい。


 でも、もしかしたら、そいつは、勤労基準法に反するかもしれないとも思う。本来、会社の責任だろう。


 が、そんなこと、言ってられないわな。


 やるしかないのだ。


 彼らは、もう、すぐそばに迫っていた。凍えるほど寒い。


 異質な冷気が、異常なまでに厳しい。


 『ええい、まーまーよ😱』


 ぼくは、スイッチ・オンして、自衛棒を配電盤の中に、突っ込んだのである!


 電子機器は非常に敏感で、ちょっとでも異常が感じられたら、ブレーカーが働き、冷凍保存以外の機能は止まり、本部に警報が入るのだ。


 もっとも、それで、彼らが止まる理由はないかもしれないが。


 ところが、やってみたら、理由があったらしい。


 冷凍人間は、どんどんと、あっという間に、解凍してしまったのである。


 『いじ、め〰️〰️。………みじめ〰️〰️〰️』


 『あああ。これで、人生が終わった。』


 ぼくも、その場に、解凍してしまった。



     🍦



 なわけで、やがてぼくは、無事に救出されたのである。


 しかし、予測されたように、会社から多額の損害賠償責任を果たすように訴えられてしまったうえに、刑事責任さえ問われたのだ。大量殺人罪とかで。


 しかし、それは、受け入れがたい。


 弁護士を雇うお金はないが、こうした裁判を支援する民間グループがあり、ぼくは、なぜだか、そちらの支援を受けたのである。


 つまり、理不尽な大企業や、政府機関を、毅然として叱ろうと、そこにお金を出す人がいまだ、いたわけだ。


 動機はともかく、ありがたいことである。


 お陰さまで、ぼくは、損害賠償はしなくて済んだのみならず、罪にも問われず、さらに結果的に慰謝料まで頂いたのである。


 企業側は、大損失にはなっただろうが、このままだと、イメージも丸潰れで、事業の存続さえ危ないとみたようだった。


 というのも、じつは、そうした現象が起こる可能性は、事前に分かっていたということが、明るみになったのである。ただし、あくまで、1人だけの事態、とみていた。大量に同じようになるとは、夢にも思ってはいなかった。これは、しかし、責任回避の理由にはならないとされたのである。


 まあ、まさか、同じ区画の、全部の冷凍人間さんが起き出すとは考えてはいなかったようである。


 このあたりの謎は、まだ、解明されてはいない。


 冷凍人間さんには、ある種の意識があったのかもしれない。とも、言われた。かなりの欲求不満だったのではないか?


 また、良くない幽霊さんが取りついた、と主張する人もあった。

  

 電気的なトラブルだ、という人もあった。冷凍人間さんは、電気人間になって、コンピューターに操られたのだ。だから、ショートしたら、解凍したのだ。とか。


 まあ、まだ、つまり、良くは分からない。


 しかし。


 『もはや、争うべきにあらず。是非に及ばず。』


 と、社長さんが、ついに言ったらしい。

 

 また、この技術は、実際上、かなり重要であり、地球政府も火星政府も、どうやら、そこに、深く絡んでいたらしい。そこで、政府も、残り少ない人類の批判を畏れて、やおら、態度を変換したわけだった。次の選挙に負けるかもしれない、というわけである。


 さて、それにしても、ぼくみたいな、しろとを雇って、安易に安く仕事させていたのは、あまりに、ずさんと見なされたのでもある。


 結局、貴重な、優秀な、28人の冷凍人間が、消滅したのであるから。


 それは、ぼくとしても、非常に残念であった。


 だから、この仕事は、ぼくをもって、無くなったのである。


 

      🍂



 とはいえ、ぼくは、また、無職になった。


 だから、ふたたび、スローワークのお世話になることとしたのである。


 そこで、ふってわいたのが、スローワークでの臨時採用だった。


 窓口での相談業務である。


 びっくりであった。


 まあ、とにかく、そうなったのだ。


 しばらくして、やたら、見覚えのある人が相談にやってきた。


 火星商事の、もと部長さんである。


 トラブルを起こした責任を取り、辞職したらしい。


 『なんで、きみがいるんだ。』


 部長さんは、非常に、不満のようであった。


 ぼくは、相談はしなかったが。


 たいへん、お気の毒である。


 なお、おくすりは、いまだ飲んでいる。



      🌇



      おわり




   🐨🐒🐵🐼🐻🐰🐨







 

       ぽ





      🙋マタネ!










   



 

 


 

 


 


 

 


 

 


 

 

 

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『新薬』 やましん(テンパー) @yamashin-2

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