第9話 最後は拳で。
俺を標的にした怪異は、なんとも形容し難い唸り声を上げながら俺めがけて突っ込んできた。
スピードもあまりない単純かつ直線的な攻撃。
俺はそれを身を翻しして回避しつつ、蹴りを一発お見舞いしてやる。
だが、怪異は軽くよろけたくらいで目に見えたダメージはない。
(いや、これでいい!)
俺はその隙に、近くに落ちていた自分の身長の半分ほどの長さの鉄パイプを拾い上げる。
(これなら武器として使える!)
そして体勢を崩した怪異が再び攻撃を仕掛けてくる前に、俺は鉄パイプに神力を籠める。
黄色く淡い光を発する俺の神力が鉄パイプを這うように広がる。
が、顔を上げるとすでに怪異は勢いよく距離を詰めてきている。
そして、あっという間に触れられる距離まできた怪異は、俺の胸元を抉ろうと右腕を振り下ろす。
それに対し神力で強化した鉄パイプで攻撃の軌道を左側に反らす。
攻撃を受け流され、またしても体勢を崩した怪異の隙を俺は見逃さない。
すかさず奴の懐に潜り込み、腰を入れる。
しかし、俺が攻撃を繰り出す前に、怪異は俺の殺気を感じ取ったのか追撃を諦め、とっさに後ろに跳躍する。
だかその回避行動は予想の範囲内。
俺は攻撃を受け流したまま左の膝元にあった鉄パイプを構わず振り上げる。
が、すでに怪異は、鉄パイプの攻撃が当たる距離には居らず、端から見れば間合いを見誤った無駄な攻撃。
だが、この一撃は届く!
【
そう叫ぶと同時に振り上げられた鉄パイプから刃の形を成した神力が斬撃として飛んだ。
「ッグェァ!」
当たるはずのなかった攻撃が届き、怪異が苦悶の声をあげながら吹き飛ぶ。
―――【鎌鼬《かまいまち》】
それは神術師の基本神術のうちの一つ。
己の神力を刃の形にし飛ばす技。
近距離と中距離、どちらでも効果を発揮する技で、基礎ゆえに多くの神術師が使用する技。
練度によって威力や飛距離が変わるのはいうまでもない―――
だが遥斗の放った【鎌鼬】は、怪異を一撃で仕留めるには威力が足らず…
「くそっ!甘かったか!」
怪異は肩から腹の辺りにかけて、一筋の傷を負っているが、
浅い。
これでは致命傷にはならない。
ならば、
(今よりも威力の高い一撃を!!)
時間をかけて戦えばこいつは確実に倒せる。
だが、今は時間がない。
焦る気持ちを抑えつつ、次の攻撃の準備をする。が、
(っ!さっきより速くなった!)
先程よりも速く距離を詰める怪異。
俺は怪異の両腕から次々と繰り出される攻撃を払いのけながら後退する。
(くそ!これじゃあ武器に神力をためる時間がない!)
遥斗は神力の操作に長けているわけではなく、溜めを作らないと威力の高い【鎌鼬】を放つことができない。
(どうする!?もたもたしてる時間はないぞ!!)
なおも怪異の攻撃は止まない。
一つ一つの威力は決して高くはない。
だか遥斗に時間を作ることもない。
遥斗は攻撃を受け流しながら考える。
そうするうちに壁際まで追い詰められてしまったかに思えたが、、、
(今だ!!)
振り下ろした右腕を鉄パイプに弾かれた怪異は、わずかにのけぞる。
その一瞬の隙を突き、壁に立て掛けてあった1メートル程の大きさの鉄板を怪異の顔面めがけて投げつける。
が、怪異は狼狽えもせず鉄板を片手で払いのけ逃げ場のなくなった遥斗に攻撃を仕掛けようとするが―――
そこに遥斗はもういなかった。
その代わりにあったのは、神力の籠められた鉄パイプ一本。
「!?」
怪異は察知していた神力が遥斗のものではなく物に籠められた残穢だと気付き振り返るがもう遅い。
すでに怪異の背後には、拳にありったけの神力を籠め、まさに渾身の一撃を放とうとする遥斗の姿があり―――
次の瞬間、遥斗の神力が弾けた。
神の童 カズのこ。 @kazu-taro
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