終章
小隊長である
そして、それによって、普段は異形を相手にしている対異特務小隊にもまた、指令が下された。
『教団関係者が出入りしているとみられる指定の場所を、ただちに制圧すること』
おまけにその指定の場所とやらは、ほぼ確実に複数の教団の信徒が出入りしている、特に有力な場所ときた。
異能を使う相手には異能を使える手駒をぶつけよう、といったところか。
どこか釈然としない思いを抱えつつ、
「各自、持ち場へつけ!」
五道の号令で、連れていた部下のうち、四人が廃寺の四方を囲む。
そして事前の打ち合わせ通り、五道が合図を出すと同時、残りの二人の部下とともに軍刀を構え、寺の堂内へ突入した。
「帝国軍だ! ……って」
五道は、拍子抜けして
崩れかけの堂の中は、もぬけの殻だった。情報では、いつもなら昼間のこの時間、複数人がここにいるらしい、ということだったが人っ子ひとりいない。
もちろん、突入前に周辺の確認をしたが、五道たちがやってきたのを察知して隠れた様子もなかった。
「五道さん、情報と違いますね……偶然、留守だったのでしょうか」
「それはおかしいでしょ~。上だって、こっちに情報を回してきたってことは、何度も裏をとっているだろうし。とにかく、警戒は解かないように」
部下の問いかけに答えながら、五道は油断せずに堂内をあらためて見回した。
何よりもまず目を奪われるのは、壁に大きく描かれた教団の紋。これがある以上、教団の関係者がここにいたのは間違いないだろうが──。
「
ひとり呟いて、首を
物理的にも術的にも、それらしきものが設置されていないのは確認済みだ。
「五道さん。あらためて探ってみましたが、何もありません」
こうなると情報が間違っていた可能性も出てくる。この非常時に、到底許される間違いではないが。
(いや、でも待って。……まだ何か、見落としているってことも)
五道がそう思ったのと、ジジ、と何か、火で
五道の視界に、今まで確かになかったはずの大きな──爆弾のような塊が映る。
「え?」
火薬を積み上げて導火線を取りつけただけのような、単純なもの。しかし、その構造はぱっと見ただけで、少なくともちょっと破裂するくらいでは済まないのがわかる。
しかも最悪なことに、延びる導火線の先は
さっと血の気が引き、五道は反射的に叫ぶ。
「全員、結界を張れ!」
次の瞬間。
◇◇◇
たった数日離れていただけなのに、列車を降りた途端に押し寄せてくる帝都の
しばらく列車に揺られた三人は、無事に帝都中央駅のホームに降り立った。
「
「はい」
一方、清霞は
「貿易会社で働く奴が何を言う」
「ははは。確かにいろいろな場所を飛び回ることも多いですが、俺の拠点はやっぱりここですから」
ごみごみとして
しかし、言い合う清霞と新は不意に黙り込み、真剣な顔に変わる。
「これから忙しくなる」
「そうですね」
異能心教。
これからきっと、慌ただしい日々が始まる。
美世も自然と、表情を引き締めた。
自分にできることは限られているけれど、できる限り、彼らを支えていきたい。そのためには、ひとりでのほほんとしているわけにはいかなかった。
異能の修行にも、よりいっそう励む必要がある。
駅の雑踏の中を三人で移動しながら、これからどうするか話し合う。
「俺は
「はい。お願いします」
「そうだな、頼む。私はまず、屯所で五道に話を聞かなければ──」
清霞の声が、不自然に途切れた。
新が足を止め、美世も立ち止まって二人を見る。
どうしたのか、と
(な、なに……?)
何もわからないのに、何かがおかしい。
人々の雑踏が、喧騒が、どんどん遠くなる。まるで、美世たちが世界から隔離されてしまったように。
そして、感じるのは異様で、不気味で、何か
「これは」
「薄刃の異能の気配がしますね」
冷静な二人の声にひとまず安心したものの、美世は本能的に襲いかかってくる
何が、起こっているのか。その答えは、すぐに示された。
三人だけが取り残されたがごとき世界に、す、と浮かび上がるように、ひとつの影が近づいてくる。
「お初にお目にかかる。
──我が娘よ。
災いは、人の姿をして美世たちの前に現れた。
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わたしの幸せな結婚 顎木あくみ @agitogi_akumi
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