第23話 シルバーギルド

いまのところ、トンキ・ソウテンは、異世界カイベシアの様子を学んだというだけであり、なにかをなしとげたというのでもない。


「しばらく居候いそうろうさせてもらっていますが、そのあいだ、これといって何もできていなくて、いったい何のために異世界カイベシアに来たのかなあって。この世界のオカネも持っていませんし。」


「やはり、そろそろギルドに登録するのもいいかもしれないな。」


「もともと冒険者っていうのでもありませんし、そのようなつもりもなかったので、ただの訪問者というか異世界旅行者というか。」


トンキは、冒険者ギルドにも加入しなかったし、ましてや、転移者の多いギルドへの加入もしていなかった。


「活動するための拠点がないのね。では、ひとつ提案をしようか。シルバーギルドに加入するというのはどうかな。転生者でなくても加入できる。そのギルドをつくったのは、交易商人シルバーソウル。シルバースクールの創設者でもある。」


「登録すれば、仕事をもらえるのですよね。」


「冒険ではない依頼も引き受けられるでしょ。」


「では、さっそく行ってみたいのですが、場所の案内をおねがいします。」


ロン・ターマは、トンキをシルバーギルドに連れて行った。トンキは、加入の手続きをすませた。使える魔法は、防御・移動・回復・水の4種類。(年齢は不問ということなので、たすかった。)


「知ってのとおり、テラアマスのカタカナ支配は終わりをむかえた。そして、この異世界を支配しているのはラテン文字。ただし、ほかの文字が禁止されているわけではないので、そういう意味ではゆるやかな支配。どこの大陸でも、おおむね通用しているので便利ではある。これは、ラテン文字の勢力が強かったからにほかならない。」


「そして、英語やフランス語ですか。ほかにスペイン語とか?」


「まあ、そうなる。近年、カーメリア大陸で不穏な動きがあるのよ。とある別の大陸、あるいは地球世界で居場所を失った人々がを通じて大勢到着してからは、どうにもおかしなことになっているみたいね。かれらは自分たちの文字をすてて、ラテン文字も英語も使うようになった。ニューカマーたちは、古参の連中と手を組んで、宝石・金融・政治に飽き足らず、暴力的な手段に訴え、いわゆるを推進しようとしているらしいの。英語勢力の連中は、ブルーヘキサゴンとともに、地球世界だけでは飽き足らず、こっちの世界カイベシアでも英語帝国主義をやろうというわけね。」


「北カーメリア大陸だけではなく、ほかの大陸でもを?」


「そのようだ。だが、英語それ自体は、特に優れた言語というわけではない。英語勢力が強くて英語がひろまっただけのこと。」「かれらは、をひろめ、英語を使わない人間を劣った人種とみなして社会的に排除するつもりなの。」


「英語を使わない人間は、どうなります?」


「職業選択の幅がせまくなる、なかなか面接に受からない、収入が不安定になるなどで、家庭を持つことがむずかしくなる。英語を使う者だけが親となる。こどもたちは、英語を使うことを推奨されるでしょうね。」


「ほとんど選択の余地ないですね。半強制というわけですか。」


「英語の出版物を安くしてやるから輸入しろという圧力をかけてくるかもしれない。その分だけ、その他の言語の出版物が比率をへらすことになる。印刷所や図書館などは、軍事的標的にされるおそれがあるだろうし、実際にやられてからでは手遅れになってしまう。」


「書店は、すでにターゲットになっているというし。」


「かといって、交易の共通語としての英語をなくしてしまうわけにもいかない。」


「だが、それぞれの言語にも存在する権利がある。」


「われわれの計画としては、混乱に乗じてを普及させる。あまりクリーンなやりかたとは思わないがな。」


「この世界の多様な言語の権利を守りつつ、交易共通語の表記法は変えてしまうというわけですか。」


「そのとおり。幸か不幸か、識字率はあまり高くなさそうだし。でも、読み書きを身に着けた人たちのことも無視できないけどね。」



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