第10話 転移者の多いギルド

 異世界カイベシアには、カイベシア生まれの住民と、地球世界から来た「転移者」が存在した。


 カイベシア生まれの住民のなかには、地球世界の記憶を持つ「転生者」が存在した。


 肉体まるごとの transmigration を経験したのが「転移者」であり、もといた場所の記憶があった。


 魂だけの transmigration を経験したのが「転生者」であり、前世の記憶がある場合とない場合があった。


 カタカナ以外の文字についての記憶を持っている場合、「転移者」と「転生者」は、ともに地球世界を知っているという意味で同類だった。かれらは、独自に組織をつくっていた。


 その「モジカツギルド」では、みんなそれぞれ、もといた世界あるいは前世の記憶にまかせて、ひらがな も カタカナも アルファベット(ラテン文字ふくむ)も、かなり自由に使っていた。ただし、公の場では使わなかった。ゆえに、外部への影響力は皆無だったということになる。


 は、楽曲の歌詞カードで、ひらがなとアルファベット(ラテン文字)をつかうようになった。もちろんカタカナもつかう。おそらく、ほかの人たちも、そのようにするだろう。そして、かれらだけにまかせておくわけにもいかない。


 かなもじユニオンを味方につけて、モジカツギルドで「同人誌」を企画して、カタカナだけでなく、ひらがなもアルファベット(ラテン文字)も使って作品を出版するというのはどうだろう。地球世界ジョイベシアにあったみたいなことをやってもいい。だが、表紙に載せる絵によって印象が悪くなってしまうようなことは避けたい。敬遠されたらすべて台無しになる。


 出版された作品は、図書館にも寄贈する。受け取ってもらえるかどうかは、やってみないとわからないな。こっちの世界(異世界カイベシア)の図書館は、ひとつだけということはないだろう。


 なんなら図書館の空きスペースでに活躍してもらうというのはどうだろうか。いや、それは頼りすぎだろう。もちろん却下だ。


「最近、いくつかの書店が何者かによって襲撃されたという話を聞いた。はっきりしたことはわからないが、どうやら、あつかっている本がカタカナのものばかりで、いわゆるが全然ないではないかという不満によるものらしい」


「しばらく、が続いていて、の輸入には消極的だったからな」


「くすぶっていた不満が一気に爆発したということか?」


「あるいは、あらたなが増えてきたためだろうか」


「地球世界に居場所がなくなって、こっちの世界カイベシアに逃げてきた人々がいるとかいないとか」


「地球世界からの転移って、そんなにあっさりうまくいくものなのかねぇ?」


「いわゆるってやつさ。たぶん」


「まるで映画みたいだな」


「カタカナ支配が終わると思ったら、次は何の支配が来るんだ?」


「外から来た連中が支配者になるのかい? そうなる可能性もゼロじゃないな」

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