異世界にて
第6話 異世界の図書館と転生者たち
ロン・ターマとともに、名前のない"テツカズの分身"は異世界に到着した。
そこは、異世界カイベッセ(Kiybesse)と呼ばれていたはずだったのだが、とりわけ英語話者のあいだでは、カイベスィ、カイベス、カイベセイなどのような具合であり、呼び方が統一されていなかった。そこで、あらたに広まってきた呼び方は、異世界カイベシア(Kiybessia)である。これは、「カイベシア人」を意味する「カイベシアン」(Kiybessian)からの
異世界カイベシア(Kiybessia)では、転移者や転生者のおかげで、地球世界の言語が通じるようになって久しい。いまいるのはテラトキア大陸で、主要言語は日本語。ただし、文字はカタカナだけが使われている。ほかの言語をしゃべる人たちも暮らしているが、文字としてはカタカナが必須だ。
ターマ:「あらためまして、ロン・ターマです。わたしのことは、ターマと呼んでください。これからよろしく」
???:「ターマさんですね。よろしくおねがいします」
ターマ:「もうそろそろ、
???:「とりあえず、苗字は本体と同じ
ターマ:「では、
トモキ:「苗字で呼んだ場合、テツカズさんとの区別ができないので、呼び方はトモキで おねがいします。カタカナだけの異世界に来たので、名前はカタカナのほうがいいですよね」
現世の本体がテツ、異世界に来たのがトモ。それだと、どこかで聞いたような名前の響きだな。そんなふうに思ってしまうのは、なんでだろう。いやいや、あくまでテツカズとトモキだ。とりあえず、名前としてはそれでいい。だが、テツカズの呼び方は、テツでもいいんじゃないかな。
ターマ:「カタカナでトモキですね。わかりました。では、行きましょうか」
テラトキアにある図書館だ。建物の中に入る。
閲覧できる書籍は、カタカナ表記のものに限られる。
本のページをパラパラめくってみる。すべてカタカナだ。これは読みにくい。
トモキ:「日本語だけではない。すべての言語がカタカナ表記にされてしまっている。おかしい。なにか理由があるはずだ」
そのように感じることができるのは、本体であるテツカズの記憶を引き継いでいる影響だろう。
ターマ:「いずれわかること。そのためにここへ来たのだから」
トモキ:「この世界の歴史に関する本をさがしてみるか。日本語で書かれたものがあればいいのだが、そんなに甘くないかも、だよな」
ターマ:「いや、テラトキアでは日本語が主要言語だから、日本語の書籍は多いはず」
トモキ:「そうだとしても、すべてがカタカナで書かれているのだから、さがすのも一苦労だ」
注意深く見なければ、日本語と外国語の区別もできない。文字の種類が違うのなら、ちょっと見ただけで、日本語かどうか、すぐわかるのに。
= = = = = = = =
ターマ:「知り得た情報を現世からの視点でまとめてみようか」
トモキ:「
ターマ:「全自動脳内変換の有無については不明。でも、おそらくないでしょうね。もしあったとしても一部の限られた人間のみ」
トモキ:「書き言葉は、それぞれの言語に対応したそれぞれの文字を使っていた。だが、現世で大きな戦争があり、日本語勢力の転移者・転生者が一時的に爆発的に激増した。収容するにも人数が多すぎた。仮設住宅は足りなかった。時間的な猶予もなかった。学校や図書館などを含めて公共施設でさえ、日本語勢力の移民で埋め尽くされてしまった。異世界の住民は寛大だった。ありとあらゆる配慮や援助を惜しまなかった」
ターマ:「そして、いつのまにか「カタカナヲツカウカイ」という謎の組織が結成されていた。かれらの求めた平等はゆがんだものであり、人々は恐怖した。わたしとしては、資金源が気になる」
トモキ:「学校や図書館、書店、マスメディアなど、かれらの考える平等によって、文字表記がカタカナだけにされてしまった。このときに、ひらがなも漢字も使わないようになったのでしょうね」
ターマ:「当時の異世界、いや、テラトキアでは、一時的に日本語勢力の転移者・転生者が圧倒的マジョリティーになってしまったらしい。その時代の日本語勢力の移民たちは、ひらがなよりもカタカナをよく使うらしくて、それで、カタカナ一色に染まってしまった。漢字は、しりぞけられた」
トモキ:「でも、異世界でも人は不老不死ではない。転移・転生ブーマーは、確実に数を減らしつつある。そして、「カタカナヲツカウカイ」という謎の組織は、内部崩壊により自滅したらしい。やっぱり、資金の枯渇とか、あったんでしょうか」
ターマ:「目的を達成して存在理由を失ったのかもしれませんね。それでもなお、あとから来た転移者や転生者たちは、この世界を『文字がカタカナだけの世界』と認識するに至った。郷に入っては郷に従え。新参者たちは、カタカナを使うようになった」
トモキ:「でも、転移者・転生者たちには、文盲である場合を除いて、出身の国・地域で使われていた文字の知識があった」
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