第3話 アルファベットをとりもどすために

「確認しておきたい。英語の知識は一応あるか?」


「一応、あります。学校で習ったので。」


「助かった。カタカナでは、アラームとアラートの母音の違いを示すことは不可能だ。スタートとスパートの母音の違いも区別できない。アルファベットを使えば、alarm と alert であり、start と spurt だ。発音の違いがわかるのだ。」


「laughter と slaughter の -augh- 部分の発音は、スペリングを見てもわかりませんよね。カタカナを使えば読み方のヒントが得られますよ。」


「カタカナをフリガナのようにして使えば、そうなる。だが、表記をカタカナだけにしてしまうと、LとRの区別さえ不可能になる。」


「おれ、そういう発音の区別、できないからね。」


「あなたはそうかもしれないが、われわれにとっては大きな問題だ。アルファベット(ラテン文字)を取り戻したいのだ。」


「なるほど。しかしですよ、アルファベットを取り戻して英語を書いたとしても、though, thought, through, rough, trough みたいなのは、綴りを見てもどういう読み方なのか全然わからない。せっかくアルファベットを復活させるのであれば、表記を改良できそうに思うのですが? 」


「一理ある。だが、正書法改革をするにしても、綴り字改革案が無数にあってまとまらないのだ。」


「異世界にも、英語の綴り字改革案が無数にあるのでしょうか?」


「どういうことかな?」


「英語にアルファベットを復活させるときに、かつての文字と発音の不一致をそのまま再現するのでなく、文字を見たら読み方がわかるようにしてほしいなあ。」


「それがアルファベット復活に協力するための条件なのか?」


「そう思っていただいてかまいません。もちろん、カタカナが英語に合わせて日本語と異なる使い方をされること自体、不愉快なので、カタカナを異世界の英語から引きはがして、日本語専用文字として取り戻したい。そして、ひらがなも取り戻す。」


「取引成立と考えていいのかな?」


「かまいません。でも、異世界なんて危険な場所は、・・・」

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