第16話 逃げる正義、追いかける影

藤崎と橘は理事長室の隠し通路から外へと抜け出すと、夜の静けさが二人を包み込んだ。彼らは影の組織の魔手から逃れるため、そして証拠を無事に警察へ届けるため、学園から脱出することを最優先に決めた。緊張した空気の中、二人は素早く身を隠しながら警察署へと向かって走り続けた。


「急ごう、橘。奴らに追いつかれる前にこの証拠を渡さないと……」藤崎は言いながら、暗い路地を駆け抜けた。


橘はその言葉に頷き、緊張を隠せないまま藤崎に従った。だが、二人が走り出してから数分後、背後に足音が聞こえ始めた。影の組織が二人を追ってきていたのだ。


「追ってきてる……藤崎、どうする?」橘は振り返り、焦りの色を浮かべた。


「隠れながら進もう。このまま正面から警察署に行くのは危険だ。まずは彼らを振り切るんだ。」藤崎は冷静に指示を出し、路地裏の複雑な道を選んで進んだ。


二人は人目につかない小道を選びながら、影の組織の追っ手をかいくぐっていった。小さな裏道や狭い路地を通り抜けながら、時折後ろを確認するが、追っ手は執拗に二人を追い続けていた。音もなく暗闇に溶け込む彼らは、二人にとって最大の脅威だった。


「橘、ここで一度隠れて彼らをやり過ごそう。」藤崎は息を整えながら、廃屋の裏手に橘を連れていった。


橘も息を切らしながら「わかった。ここで様子を見よう」と同意した。二人は廃屋の陰に身を潜め、追っ手が通り過ぎるのを待った。足音が近づき、そして――徐々に遠ざかっていく。しばらくして、ようやく二人は警察署に向けて再び歩を進めた。


「やっと振り切れたかもしれない……」橘はほっと息をついたが、藤崎はまだ警戒を解いていなかった。「警察署まであと少しだ。気を緩めるな。」


藤崎と橘は慎重に進み続け、ようやく警察署が見える場所までたどり着いた。警察署の明かりが遠くに灯っているのが見えたとき、二人は一瞬だけ安堵した。だが、その瞬間――再び背後から車のエンジン音が響いてきた。二人が振り返ると、黒塗りの車が猛スピードで迫ってきていた。


「逃げろ!」藤崎は叫び、橘の手を取り再び全力で走り出した。だが、車は二人をすぐに追い詰め、道を塞ぐように停車した。ドアが開き、黒いスーツを着た男たちが降りてきた。影の組織の手の者だ。


「これ以上は逃がさない。証拠を渡せ。」一人の男が冷徹な声で言った。


藤崎は橘を守るように前に立ち、「証拠は渡さない。これが亮の命を奪った組織の全てを暴くものだ。お前たちの思い通りにはさせない。」と強く言い返した。


男は一瞬だけ口元を歪めて笑ったが、その目には冷酷な光が宿っていた。「お前たちが何を知っているかはどうでもいい。だが、ここで死ぬことになるのはお前たちだ。」


その瞬間、男は懐から銃を取り出した。藤崎は瞬時に状況を把握し、橘を引き寄せて身を低くした。銃声が響き渡る――だが、その音はすぐに別の音にかき消された。


「止まれ!警察だ!」パトカーのサイレンが鳴り響き、複数の警察車両が急に現れ、黒いスーツの男たちを包囲した。警察が到着したのだ。


「間に合った……!」藤崎は安堵の表情を浮かべた。


男たちは驚き、すぐに逃げようとしたが、警察の迅速な対応により、その場で全員が拘束された。影の組織の手の者たちは抵抗することもできず、次々と連行されていった。


藤崎と橘は無事に警察署に保護され、証拠を無事に渡すことができた。影の組織が学園を通じて行っていた不正取引や資金洗浄の全貌は、裏帳簿という形で明らかになり、理事長も逮捕された。学園全体に及んでいた影の勢力は次第に崩壊し、正義が勝利する瞬間が訪れた。


---


数日後、藤崎と橘は再び学園に戻った。事件は解決し、影の組織も壊滅状態に追い込まれたが、学園はまだその余波を受けていた。学園の未来はまだ不透明だったが、亮が命をかけて守ろうとしたものを、藤崎と橘は守り抜くことができた。


「亮が残したものを、僕たちは守れたよね。」藤崎は静かに橘に話しかけた。


橘は小さく頷き、亮のことを思い出しながら言った。「うん……でも、私たちの戦いはここで終わりじゃない。」


藤崎はそれを聞いて微笑んだ。「そうだね。まだやるべきことがある。学園を本当に立て直すためには、僕たち自身が変わらなければならないかもしれない。」


「これからどうするの?」橘が問いかけた。


「まずはこの学園が正しい道に進むための手助けをしよう。そして、亮の夢を形にするんだ。彼が見ていた学園の未来を、僕たちが作る番だ。」藤崎は力強く答えた。


橘も決意を新たにした。「亮が望んでいたことを、私たちが実現しなきゃいけないわね。」


二人は静かに学園を見上げ、未来を見据えて歩き出した。影の組織は倒れたが、藤崎と橘の戦いはまだ続く。正義を守るため、彼らは再び立ち上がるのだった。

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【完結】読者と共に作るミステリー〜名門校、星陽学園。ある日、人気者の生徒が校舎裏で冷たく倒れる。華やかな学園の裏に潜む闇、真相にたどり着けるのは君だけだ。 湊 マチ @minatomachi

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