【フィクションです】アポカリプス・ヌア
博雅
ゾンビよ、呪われよ
※このお話はフィクションです。実在の団体とは関係ありません※
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ぼくがクリスチャンになったのが19の頃。英語による礼拝と楽しげな賛美が売りの教会に、洗礼を受た教会から逃げるように通い始めたのが21歳ごろのこと。
その牧師ともう一人の牧師に、悪魔祓いを受けたのが23歳になった時分だ。
当時、「何が罪かわからなくなってきた」「悪魔崇拝をしている気分だ」「聖霊に対する罪を犯したのかもしれない」などと口走っていた僕は、教会の地面の床に仰向けに倒され、「名を名乗れ」「キリストの血によって、清められろ!」などと大声で怒鳴られ続けた。僕も、『チェーンを切る』という、悪魔祓い専門書という本にあったような祈りを、何度も、何百回も口にした。
でも、悪魔は出て行かなかった。
ぼくは嘘をつくことにした。治った、と言ったのである。
母親のもとに早く帰りたかっただけだ。
だが、発作が翌日の朝出た。とにかく死にたくなって、居てもたってもいられない心持になって、飛び降り未遂を起こした。そして、精神病院にぶち込まれた。
教会とは縁を切り、ただ、イエスという男に未練はあったのだろう、カトリック教会などにはたまに顔を出していた。
☆☆☆
ある朝、いつものように執筆活動の練習として朝の5時からPCで書き始めると、いきなりドアのインターホンが鳴った。驚いてぼくは飛びあがった。
カメラごしに外を確認する。──わずかだが、人だかりができている。
しかも、各々が血を口から垂らしていたり、片腕がちぎれた状態で平然と歩いていたり、様子が明らかに珍妙なのである。
──ぼくがはじめて、ゾンビというものを見たときがそのときだった。
家にあった、昔ながらの金属バットを手に、ドアをそっと開ける。
瞬間、ぼくは目の前の「人だったモノ」にバットを振り下ろす。
ぐちゃり、と頭が潰れる音がした。ゾンビは頭を狙うのが効果的だと知っていた。
残りのゾンビを始末したぼくはその足で、憎きあの牧師をぶっ倒そうと思い、そいつが住んでいた家(ぼくの家とそいつの家は近く、よく遊びに行っていたのだ)、に向かうことにした。ゾンビは幸い、ぼくと通り過ぎても何の反応もしない。お腹がすいていると食べたくなる性質を持って居るのかもしれないのか、理由はともあれ、走りながら牧師の家を目指す。
そいつは家の前で、玄関の鉄格子にひっかかってこちらに出ようとしていた。
なんとも間抜けな姿である。──悪魔祓いに参加していた、もう一人の牧師もいた! これは好都合だ。ぼくはあえて、噛まれない位置から鉄格子の隙間に手を入れ、ドアを開ける。
「ぐぼぉぉぉ」
牧師だったものがくぐもった声を上げる。僕は横殴りに顔をぶちのめした。
骨が折れたのだろう、だが首を90度ほど曲げたゾンビはぼくに近づいてきた。
もう一度、バットを頭上高く掲げて、そいつの頭に振り下ろす。肉塊ができた。
もう一人の牧師には、「血によってwww清められよwww」と爆笑しながら、
バットでまず脛を殴り、転倒させてから「仕事」に入った。まず、額を殴打する。次に、鼻をめり込ませる。なんとも滑稽な傷だろう。最後に、憎たらしい言葉を吐いていやがったな、と思いながら、思いっきり口を目掛けて振り下ろしてやる。
何度も、何度も、何度も、「呪われろwwww 『俺を背中から呪ったな、別に構わへんで』とか言ってたやろ、呪ってやる!www 呪われろ、呪われやがれ、そして死ねwwwww」と大喜びしながらバットを振り下ろした。とても顔とは思えない肉の塊が出来上がりぼくは、満足してその場を去った。幸い、これまでの「仕事」は周囲のゾンビには気づかれていない様子だった。危ない危ない。
町はゾンビで溢れかえっている。ぼくは人通り、もといゾンビ通りの少なそうな場所を見つけ、しばらく休憩することにした。
(でもなんで、ぼくだけが)
思案していると、急に足元に銃声音と、何かが鋭く当たる音がした。拡声器から声がする。
「君、噛まれていないなら両手をあげろ」
見ると、特殊部隊と思しき車や人がずらりと並んでいた。ぼくはバットを落とし、手を空中に挙げる。十中八九、自衛隊か警察だろう。
暫く思案していると、
「これで検査をするんだ。終わったらこちらに投げ返してくれ」
箱を投げ飛ばしてくる。開封すると、妊娠検査薬のようなものが入っていた。
舌で小さな棒をなめ、体温計のような器具に差し込み、箱に入れて、投げ返す。
間。
幸か不幸か、ゾンビたちの姿が見当たらない。スピーカーから小さな会話のような音が聞こえてくる。
「Zレイティング・スペクトラムで検査中…ズィーコード無し、感染してません」
「我々が保護します。こちらへどうぞ」
バス3台分はあろうかという巨大な装甲車に案内されるぼく。
中には、震えている若者、遠い目をした婦人、支えねば倒れてしまいそうなご老人。
「おまわりさん、いつからこんなんになったんですか」
「ある教会の──自称『罪赦された罪びと』の連中が、ウイルスを散布したのさ。それも、白昼堂々、サラリーマンが行き来う交差点のど真ん中でね」
饒舌な巡査、あるいは特殊部隊と思しき彼は、手持ちのAK47(ぼくはFPSが大好きなので、銃の種類はほんの少しだけならわかるのだ)のメンテを始めた。。
「一人、また一人とゾンビ化していったよ。毒をまいた奴らももちろん一緒にね」
「テロですか」
「そうなるな。ところで君、どうして無事だった」
「この、中学校の友達にもらった金属バットのお陰です」
「そりゃよかった」
装甲車が止まり、ドアが開けられる。何重にも建てられた壁の中の、軍事施設のようだった。
「ここは少なくともあと100年は持ちこたえられる施設でね。100年分のクリーンな水はもちろん、農産物、フェイクミート、畜産業、ありとあらゆる病気に対応できる医師たちとこれまた数十年分の薬剤と治療器具の類、──外に出なくてもいい生活が死ぬまで送れる、そんな素材と道具が全部そろってる」
「ここで持ちこたえるつもりですか」
「ああ。だが、この国──大日本の大統領の行方が、君がいた場所あたりまでは追跡できたのだが、それ以降わからなくなった。彼を探して確保するのが、目下の作戦だ」
「僕たち…足手まといになりませんか」
肩をすくめ、なんでそんなことを、といった態度をとる隊員。
「人助けさ。それに、『コード』とよばれるウイルスに効く抗生物質が、もうすぐ完成しそうなんだ。ただそれには、もう少し生身の──言い方がおかしいが、生身のゾンビと、生身の人間が必要なんでね」
「僕たち、実験で殺されるんですか」
「まさか。採血…いや、唾液採取だけで済みそう、ってことらしいからね」
心からお亡くなりになってほしかった牧師たちは潰すことができた。
だが、戦いはこれからだという。
僕は志願して、兵隊になるための実弾を用いた訓練を受けることにした。
ぼくは、戦う。
それで、幻聴が止まずとも。それで、悪夢が止まずとも。
戦い続けることが、ぼくが治る道だと、そう信じて。
【フィクションです】アポカリプス・ヌア 博雅 @Hiromasa83
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