第5話
我らが学校は『私立晴夢学園』という、いかにもな名前の学園である。中学校から大学までエスカレーター式になっている学園で、東京ドーム五個分の敷地にはちょっとしたアミューズメントパークや温泉施設や購買や学生寮などが入っている。いかにも深夜アニメ的非現実極まりない学園であった。晴夢でハーレムと読めるようになっている。思いついた時は天才だと自分を褒めたものだが、今になって思えば死ぬほど恥ずかしい名前だ。
制服はブレザー。男子は紺の、女子は朱色のブレザーを着る事になっており、この配色が
何が言いたいかというと、僕は黒歴史の巣窟に足を踏み入れてしまったのである。
「ここが中等部であっちが高等部。大学は少し離れているけど、まあ、作者さんには紹介する必要ないか。って……どうしたの? 気分が悪そうだけど」
「いや、大丈夫。ちょっと視力と記憶と過去が失われないかなって思っただけ」
「だいぶ重症だよね!?」
ゲームの序盤には必ずヒロインの紹介パートが存在する。プレイヤーのゲーム欲を高めるためにパッケージを飾るメインヒロインが登場したり開発イチ推しのキャラが登場するのがこのパート。
開発のイチ推しやメインヒロイン。つまりは僕の黒歴史が次から次へと襲ってくるわけだ。
これからあんな奴やこんな奴にたらい回しにされると思うと、羞恥心と嫌悪感で頭がおかしくなりそうになる。
これから登場するのは創作に興が乗り始めた頃のキャラクターたち。つまりは脂がのったヒロイン達が現れるわけだけど、創作を続けていると妄想との境目がだんだん曖昧になるものである。趣味なら特にだ。
メインヒロインである
「名残惜しいけど、他の子にもチャンスをあげなきゃだもんね……」
光莉が心底名残惜しそうに僕の手を取った。光莉はこれからのイベントに登場しないのでここでお別れとなってしまう。彼女は全ヒロインの中で一番まともなキャラだから、正直ずっと一緒に居たい。
「やだなぁ……光莉といれば回避できないかなぁ……」
「イベントの通りに進めないと女神さんに怒られちゃうんだよ。ごめんね」
クソがよ。
「でも、大丈夫? これから登場するのってさぁ、あの四之宮さんだよね」
「うん……」
「四之宮さん、最近様子がおかしいから気をつけて」
「おかしいってどういうふうに?」
そもそも四之宮舞華はキャラ設定からしておかしい。僕の性癖と妄想をフンダンに詰め込んだようなキャラであるからおかしくて当たり前なのだけど、それを知っているはずの光莉が気をつけてと言うのはどういう意味か?
僕はキチンと訊ねておかなければと思い聞き返したが、時すでに遅し。
「やばっ! はやく如月くんの真似して!」と、光莉が後ろ手に手を組んだ。これは彼女の通常立ち絵である。
「わぁ、見て。四之宮さんがいるよ。今日も綺麗だね」
「ワア、ホントダ。キレイダネ」
「成績優秀で先生からの人望も厚いんだって。噂だと、あの東大に推薦で入れるかもしれないくらいなんだよ」
「ヘエ、スゴイネェ」
四之宮舞華の登場シーンで僕らはこんな会話をしている。ゲーム画面には四之宮の立ち絵がデカデカと表示されて、これがメインヒロインですよとプレイヤーに伝えている場面である。
腰までかかる黒髪ロングにぱっつん前髪。瞳はふんわりと大きくバラの花弁のような気品を漂わせている。かすかに赤みが射した頬は人当たりの良さを演出し、見る人を優しい気持ちにさせるような笑顔を浮かべる。
170センチという高身長だが体重は50キロと少し。痩せすぎず太り過ぎない体躯はモデルのように均整がとれている。
制服の上からでも重いと分かる胸の膨らみはDカップ。見る人が欲情を起こさないのはミロのヴィーナスのように美しい形をしているからだ。芸術に興奮する人はそうそういないだろう。
誰もが美しいと認める清楚な生徒会長。それが四之宮舞華の表の姿だ。
裏の姿は僕の性癖が詰まっているので言いたくないが、一言で表すなら『ドS女王様』だろうか。どうせ後々開示されるのだからしばし待たれよ。
僕はこれから彼女に連れ去られる事になっている。
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攻略したヒロインと現代に帰れるらしいので全員攻略します あやかね @ayakanekunn
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