鈍痛
ジョン・ヤマト
鈍痛
○○○
『ニートワイ、バイト始めたが三日でバックれる』
以前に似たような事を調べていた名残か、ネットサーフィンをしていると時折このような動画や記事をよく目にすることがある。
それを見るたびに記事の人物のことが羨ましく思う。何せ三日
我ながら惨めなことだ。だけどいくら後悔しようとも自分を奮起することはできずに日々を浪費しながら更なる泥沼へと自らを浸らせ続けている。
まったく、一体何がダメだったのだろうかね。
「人生生きていればなんとかなる」
学生時代までの自分は漠然とこんな事を思いながら生きていた。近場の高校を通い、何となしに大学へ入り、結局は今まで勉強してきた事とは真逆の会社へと就職した。
実家から片道一時間。工場の組み立てのライン工のよくある仕事だ。そしてそれが自分の犯した最初の過ちだった。
キッカケはその仕事の夜勤業務。学生までは昼に活動して夜に寝ていた自分にとって夜に活動するというのは中々大変なものだったみたいで予定調和のように体調を崩した。その時世間では珍しい感染症が流行しており、体調を崩した時は一週間休むのが義務付けられていた。
お金のために早く復帰をしたいが規則は規則、自分はスポーツドリンクを飲みながら布団で横になる日々を過ごし、復帰した頃には夜勤の期間が終わり、日勤の業務が再び始まった。
それからだろうか、次の夜勤が近づくにつれて腹痛や動悸に悩まされるようになった。夜勤の当日には体温は37.8度を超すのが恒例になり、いつしか日勤の時ですら体調を崩すようになった。
適応障害によるうつ状態。それが自分の罹った病気の名前だった。
病名の書かれた診断書と共に上司に報告すると、別の工場への異動を命じられた。ちなみに報告の時に上司から『面接の時に夜勤もいけると言っていたよね』とお小言を言われたが、まあこれは就活時の自分の失言だったと後悔しておこう。
そうして心機一転、夜勤の無い部署へと異動することになったが、悲しいことに再び失敗を重ねてしまう。
よくある話だ、人間関係に失敗した。その部署の上司に対して少しだけ意見を言ってそれで目を付けられた。
毎日のように浴びせられる嫌味、まあこれは別に問題無い。問題なのは嫌味を言われる事で職場の雰囲気が悪くなる事だった。
今振り返ると自分は元々他人の眼を機にする内気な性格だった、それ故に『自分のせいで職場の空気を悪くしている』という事に対して自分自身を責めてしまったのだ。
そこからはもうお約束もお約束。逃げるように退職して更生年金から国民年金に切り替えるためにハローワークと市役所を往復する日常の始まりだ。
そうして晴れてニートになった自分は漠然とした日々を過ごすようになった。
朝起きて、朝ごはんを食べ、趣味の時間を没頭し、夜に寝る。そんな日常も最初は楽しかったんだと思うが、時間が過ぎて行くに連れて働いていないという危機感が肥大し始めた。
そんな時に転機が訪れる。先天的なハンデを背負った人や自分のような精神的な病気や抱える人達の受け皿としての働き先を知り合いに紹介してもらったのだ。
給料は最低賃金だが仕事は誰でもできるようなシンプルな内容。仕事の復帰としてはむしろ最上だっただろう。
そうして職場見学を経て体験実習をする事になった前日、体調を崩した。腹痛に発熱、心臓の動悸。以前の職場の時に出て来た適応障害の症状そのものだ。
その時に我ながら痛感したね、"まだ終わってなかったんだ"って。
結局体験実習は一日だけやって離脱。知り合いには多大な迷惑を掛けてしまった。その後はまたいつも通り、堕落して無為な日常に逆戻りというのがオチだ。
よく『ガラスのハート』という言葉を聞くことがあるが、この言葉の意味をようやく理解できた。
この言葉をネットで調べると『脆く傷付きやすい心』という結果が出る。これは半分合ってるだろう。
じゃあもう半分の意味は何かと言うと『砕けた心は二度と元には戻らない』ということだ。
自分のハートは仕事によって一度砕けた。そして仕事を離れた事で少しずつだが砕けたハートは治って来ていたのだ。だがそれは
最後に二言だけ。
鈍痛は頭ではなく心を壊すんだ、傷付く前に痛みを回避する方法を見つけて欲しい。逃げるは恥だが役に立つ。
もし一人で見つけるのが無理なら、身近にいる人に相談して助けてもらおう。所詮は一時の恥だ、ガラスの心が砕けるより圧倒的にマシだからね。
鈍痛 ジョン・ヤマト @faru-ku
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