第2話 未来予知

 ある日、私は自分のノートに書いた覚えのない記述を発見した。

「カレンが事故で死亡する」

 私はいつこんなことを書き記したのだろうか。記憶にない。しかし、紙に書かれた文字は明らかに私の字で、使っているペンもインクも私の物だ。一度紙に記されてしまった以上、この未来は確定してしまう。文字を消しても、紙を燃やしても結果は変わらない。そんなことはとうの昔に実験して分かっている。

 私はカレンを失うわけにはいかない。私は再びペンをる。

 しかし、紙を前にして、私の手は動かなくなってしまった。

 「カレンは事故に遭うが、奇跡的に一命を取り留める」「カレンは事故には遭わなかった」「カレンは私と共に天寿をまっとうする」なんでも良かった。カレンが助かるのなら。

 無理やりにでもカレンについて何か書こうとした場合、書かれる内容はいつも同じだ。

「カレンは事故で死亡する」

「カレンは事故で死亡する」

「カレンは事故で死亡する」

 私は気がふれそうだった。


 その日から、私はカレンを家から一歩も外に出さなかった。ありったけのかねを使って見張りを雇い、屋敷の警備を厳重にし、たとえ何が起こってもカレンを事故から守れるように手を尽くした。


 数ヶ月後、自宅の屋敷に飛行機が落下し、カレンは死亡した。

 私が出かけていたわずか数十分の間の出来事だった。


 私は泣いた。神や世界をも呪うかのように、思いつく限りの罵声を叫びながら泣いた。私の嘆きは、三日三晩こだまし続けた。


 本当は薄々気づいていた。

 私が能力を使うのは、いつも何か予感のような感覚が閃いたときのみだった。やりたいことを、何でも書いたわけではない。

私の能力は、『紙に書き記した内容を現実にすることができる能力』ではない。『これから起こる未来を紙に書き記すことができる』だけの、現実にはなんの影響力もない力だったのだ。

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