地球最後の日

夏目 漱一郎

第1話 地球最後の日

 この物語はフィクションであり、この物語に登場する政治家等は実在の政治家とは一切関係がありません。



 戦争、大災害、そして気候変動。 そのどれ一つをとっても、地球や地球に棲む我々人類にとってかなり大きなダメージを与えてきたが、幸いな事に、それでも我々人類を滅ぼすまでの壊滅的なダメージには至っていない。しかし、だろう。そう、今度ばかりは人類もこの地球ほしごと消滅してしまうかもしれないのだ。



          *     *     *



  アメリカ・NASAチームからその事実が報告されたのは、今から三か月前の事だった。巨大な隕石がこの地球に向かって近付いてきている……今までにも隕石が地球に落下するという事例は何度かあったが、今回のそれは今までのものとはまるっきり規模が違った。所説はあるが人類がこの地球に生まれる前、当時の地球を支配していた恐竜は、隕石の襲来によって絶滅してしまったという。今回のそれは、おそらくそのくらいの規模の隕石である。人類はおろか、地球上の生物がすべて滅んでしまう程のレベルなのだ。


 その報告を受けて、アメリカ政府はすぐにも対策に乗り出した。人類を救う為に中国とタッグを組んであの『アル○○ドン』のように、専門のプロジェクトチームを組んで有人のロケットを隕石に向けて飛ばしたが、隕石を破壊するまでには至らなかった。


 その後、隕石を破壊出来るほどの有効な手段は発見出来ず、月日は流れ、いよいよ『人類滅亡のXデー』を迎えようという日になった時、世界の関心は日本の東京の大田区に存在する小さな研究所、『沢田研究所』。その所長である沢田教授が、誤って事をヒントにして開発に成功した、『レーザーを照射する事によって、物質を内部から破壊する装置』に人類の未来は委ねられる事になったのだ。



Xデー・午後二時………


「いやぁ~しかし、大変な事になりましたな。まさか、こんな大変なミッションを日本が担う事になるとは思いませんでしたよ」


「そうですよ。人類の未来が懸かっている訳でしょう? もしこれが成功したら、よ」


「なんと、ノーベル平和賞! 参ったなあ~、そんなのもらった日には、銀座のクラブでモテモテになってしまうなぁ~~」


そんな談笑をしながら研究所に向かっているのは、総理大臣の岸部と防衛大臣の金原の二人であった。まかりなりにも人類滅亡の危機、この危機を乗り越える事により、裏金問題で下がりに下がった国民の支持率をまた持ち直すきっかけにしようという魂胆であった。


「確かこの辺でしたよね、沢田研究所というのは……やっぱり車で来るべきだったかな……」


「いやいや、こんな下町に不釣り合いな黒塗りの高級車なんかで乗り付けて、。今が大事な時だからね、金原君」


「それもそうですね……あ、あれじゃないですか?」


金原防衛大臣が沢田研究所の看板を見つけ、指差した。研究所では既に同じく国会議員の真実一路まなべかずみちが三十分前から沢田教授と共に装置のセッティングを黙々と進めていた。因みに、集合時刻はとうに三十分過ぎている。



          *     *     *



「こんにちは~~~~っ!総理大臣の岸部ですが~~~、沢田研究所様の研究室はこちらでいいんでしょうか?」


「遅いっ! アンタ達、こんな大事な日になんで遅刻して来るんですかっ!」


「あ、マナミちゃんご苦労様。先に来ていたんだね?」


「アンタ達が遅いんでしょ! 今の状況分かってるんですかっ!」


この作戦は、レーザーの照射可能距離、隕石のスピード、破壊された時の破片の軌道等………様々な観点から開始時刻を決定しており、総理達の三十分の遅刻はこの作戦に致命的な影響を与えていた。


「沢田教授、予定より時間が大分押しています。そろそろ発射の方を………」


巨大な隕石を破壊する装置とは思えないくらい、その装置は想像以上にコンパクトな外観をしていた。


「へぇ〜これがレーザー発射装置ですか、思っていたより随分コンパクトですな。まさかとは思わなかった」


「いやぁ〜時代はエコですからな。そこのところはこだわりましたよ」


「いいなぁ。これなら、北朝鮮のミサイルとかも撃ち落とせるんじゃないですか?」


「そうですなぁ。よかったら、防衛省で買ってくれませんかね。これ」


「うわ〜それはいい。それじゃ教授、一躍大金持ちじやないですか。私、銀座のいいクラブ知ってるんで今度一緒に飲みに行きましょうよ」


「おお、それはいいですな。是非今度………」


「時間が押してるって言ってんのが聞こえなかったのかっ! こんな時によくそんな呑気にしていられますね!」


もう、こうなると立場もクソも無い。真実は遠慮なく総理の岸部を怒鳴りつけていた。そして沢田教授の方を向き、このミッションの重要性を改めて教授に念押しした。


「教授。もしこれが失敗に終わったら、人類は滅んでしまうんですからね! よろしくお願いしますよ!」



「大丈夫ですよ、真実さん。既に照準は合わせてあるし、あとはこのボタンを押すだけです」



沢田教授は真実の忠告に対し自信たっぷりにそう答え、装置のボタンを力強く押した。



          *     *     *














「なにも発射されないようだが?……………」


「あれ?おかしいな………そこ、コンセント抜けてないですか?」


「いや、コンセントは刺さっている様だが………」


「う〜ん………じゃあ、停電とか?」


「それはありません、念のため私が前もって電力会社に問い合わせたところ、この地区で今日停電の予定は無いとの回答でした」


さすがは真実である。万が一の事も考え、そこまで抜け目無く下調べをしていた。しかし実際に電気はきていなかった………その事を総理が指摘する。


「でもマナミちゃん、さっきからエアコンも切れてるみたいだし、テレビだってほら……」


そう言って岸部総理はリモコンをテレビに向けボタンを押すが、テレビの電源は入らなかった。


「だとすると、もしかして街がパニックになり変電所か何かが破壊されたのかもしれない! ちょっと私、外の様子を見てきましょう」


このまま電気が来なければ大変な事になる………真実は、玄関のドアを開け外へと走った!


「しかしおかしいなあ、さっきまで確かに電気が来ていたのに………」


「まあ、とにかく真実君が戻るのを待つとしようじゃないか」


やがて、真実がドアを勢いよく開け戻って来た。息を切らせ、右手には何か紙のような物を持っている。


「おや、マナミちゃん早かったね。………何、その右手に持ってる物?………」

















◇東京電力からの大切なお知らせ





毎度ご利用いただきありがとうございます。沢田研究所様の6月、7月、8月の電力使用料金が未だ未納です。つきましては2024年9月13日の午後2時までに入金の確認が出来ない場合、電力の供給を停止させてもらいますのでご了承してもらいますようお願い致します。




「………あ…………」


「あ、じゃないっ! よりによってこんな時にっ! なんで電気代払ってないんだっ!」


「だってお金が無かったんだからしょうがないだろ! もとはと言えば、アンタ達が仕分けだの何だのってウチの補助金打ち切ったからいけないんだっ!」


「それは、お宅が結果を出さなかったからだよ。補助金が欲しかったら、一番にならないとね」


「一番じゃなきゃダメなのか! 二番じゃダメですか?」


「なんか昔と立場が逆だな………」


「まずい!早くレーザーを発射しなければ!」


真実の言う通り、もう隕石を破壊できるタイムリミットは五分を切っていた……補助金云々で揉めている場合ではない。


「沢田教授、もう時間がありません! ここにはのようなものはないんですか!」


「うむ……発電機か…….そうだな、あれならある」


沢田博士は、何かを思い出したようにそう呟くと倉庫のある奥の方へと歩いて行った。おそらく、これが最後のチャレンジになるであろう。


やがて、沢田博士は両手に何かを抱えて三人の前に戻って来た。


「これが発電機だ!」


じゃね〜かっ!」


三人が同時に突っ込んだ!


「そんな事言ったって、これしか無い! 誰か頑張って漕いでくれたまえ」


もう、タイムリミットまでは三分しかない!もはや選択肢はなかった!


年齢的にも、ここは真実が漕ぐしか無い。第一、この重大局面をあの総理らに任せるなんて恐ろしい事が出来る訳が無かった。


「私が自転車を漕ぎます! 博士、電力がレベルまで達したら発射ボタンの方を押してもらえますか?」


「任せたまえ! 真実君、一緒に人類を滅亡の危機から救おうじゃないかっ!」



「はいっ! 頑張りましょう、博士!」


「いいぞ〜二人とも〜!」


「ブラボ〜〜ッ!」



緊張の面持ちで硬い握手を交わす真実と沢田博士、総理と金原はその二人を温かい拍手で送り出した。


そして、真実は上着を脱ぐとおもむろに自転車のサドルへ跨がり、全力でペダルを漕ぎ始めた!



ハア… ハア… ハア…



タイムリミットまではあと三分………

真実のそのひと漕ぎひと漕ぎに人類の未来が懸かっていた!



「いいぞ真実君! あと100ワットだ!」


「ハア……ハア……」


「よしあと50ワットだ! いけるぞ、真実君!」



「しかし金原大臣、この部屋は暑いね」


「エアコンが切れちゃいましたからね………じゃあ、エアコン点けますか………」




パチッ




1500…………」


「お前らああああああ〜っ!」



こんな事にならないように、今度はもっとちゃんとした人に総理をやってもらいたいものです。


――おわり――












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