終わんないよ!!

のう

終わんないよ!!

8月20日18時27分

 まだ暑さの残る夏の夜。私は美味しいお味噌汁に口をつけながら、ダラダラと冷や汗を流していた。

――ッスゥ――

「……明日締め切りって……嘘だよな?」


19時53分

 夕ご飯を食べ終わり、お風呂から出て、パソコンを起動する。

 そろそろ原稿という名の現実に向き合わなければいけない。

 現在抱えている原稿は二つ。二つとも明日が締め切り。一つは長編で、六割……ううん八割! 八割くらい終わってるはず! ……だけどもう一つは……何を隠そう、正真正銘まごうことなき真っ白。

「いやまぁガンバれば終わる……お、終わるっしょ! ハ、ハハハ……」

 大声で独り言を放ち始めた私に、母の白い目が突き刺さる。痛い。

 まぁ本当にこっから頑張ればね? お、終わるからね? っていうか終わらせますからね?

 息吸って、吐いて。うん、よし!

「うおっっっしゃ、やるぞおおおおおおお!」


24時00分

「ふわぁ、もう日付変わっちゃった……お母さんもう寝るよ?」

「……? ああ、わかった」

「原稿頑張ってね、おやすみ」

「……おやすみ」

 一旦パソコンから離れて、ぐーんと大きく伸びをする。

 そっかぁ、日付変わったかぁ、日付……。

「……ん?」

 待って日付? っていうことは今24時? 開始から4時間強?

 ばっとスクリーンに目を向ける。1、2、3行……。

あれ、私、全然進んでない……?

「で、でも、ま、まだまだ朝まで時間はある、し……」

 いーっちょ、本気、出しますかぁ……。


8月21日3時49分

 ちゅんちゅんちゅん。鳥の声が遠くから聞こえる。

「わあ。おそとがあかるくなってきたな~」

 ハッハッハッハ。私以外誰もいない早朝のリビングに、乾いた笑い声が響く。

「いやぁ~、4時間やって、進捗ゼロ! 素晴らしい!」

 ハーッハッハッハッハ!

 ……ハイ、反省しております。現実逃避で漫画など開いた私がバカでした。

 ちゅんちゅんちゅん。再び聞こえる鳥の声と、窓から降り注いでくる朝日。おっかしいな、ついさっきまで深夜だったはずなのに。なんだろうこの、4時近くになると急に朝になる感じ。

「……続きは、ベッドでやろうかな」

 眠いし。案外ベッドの方がはかどったりするし。

 パソコンを抱えて、ベッドによじ登る。しょぼしょぼ目を擦りながら、画面に向き合う。

 いやほんとに、そろそろ、書き終わらないと、まず、い、から……


?時??分

 手足の痺れで目を覚ました。

 うつらうつらしながら目を開けると、目の前に真っ暗画面のノートパソコン。そしてそのパソコンに土下座するように眠りこけていた私。

「ん、私、寝ちゃってたの……?」

 手探りで、パソコンの電源ボタンを押す。

「今、何時……」

 7時07分。

「……あ?」

 ホーム画面に表示されていた時刻に目が固まる。

「え……嘘……今、7、時……? それじゃ、私、原稿……」

 終わっていない二つの原稿のことが頭に浮かぶ。あ、あ、あ……。

「うわああああ!!!!!」


7時12分

「どりゃああああああああああああああああああああああああああ」

 ああこうなったらヤケクソだ!書くしかねえ!

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

 必殺!スーパーウルトラアルティメットスーパータイピング!

「ほんにゃあああああああああああああああああああああああああ」

 なんでこんなに切羽詰まってる時でも筆おっそいんだよ私!

「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

 もう、もう、ほんとの、ほんとに……

「終わんないよおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


8時03分

 ふ、はは、ははははは……。

「力尽きたぜ……」

 机にどさりと倒れこむ。終わった……、ついに終わったんだ……。


 ……片方の原稿だけ、だけど。

 

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終わんないよ!! のう @nounou_you_know

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