第26話 運命の開戦

帝国軍の大規模な進軍が報告されてから、アムリオ領内は一気に緊張感に包まれた。アレクシスはすぐさま全軍に戦闘準備を命じ、各部隊を最前線に配置した。ガブリエルとカイルも指揮官として、それぞれの役割を果たすべく兵士たちと共に行動を開始した。


アレクシスは、城の戦略室で地図を見つめていた。帝国軍の進軍ルートは明らかで、いくつかの拠点を経由しつつ、王都を目指しているのは確実だった。だが、その速度と規模は予想を超えており、どこで迎え撃つべきか慎重な判断が求められていた。


「カイル兄さん、ガブリエル、リリア、これが最後の確認だ。皆の意見を聞かせてくれ。」アレクシスは冷静に語りかけた。


カイルは、すでに熟考した上で答えた。「帝国軍の進軍速度を考えれば、まずはアムリオ領の山間部で迎え撃つべきだ。地形の利を活かせるし、防御に向いている。敵の数を削ることができれば、その後の戦闘でも優位に立てるはずだ。」


ガブリエルも同意した。「そうですね。加えて、スパイが得た情報によれば、帝国軍の中にはエクリプス・ランスを装備している部隊がいるようです。彼らがその兵器を実戦で使用する前に、何としても阻止しなければならない。山間部なら、その攻撃力を制限できる可能性があります。」


アレクシスはガブリエルの言葉に頷いた。「エクリプス・ランスが実戦に投入されれば、我々の防御は崩れる。山間部での戦いは確かに有利だが、それでも彼らの攻撃力を過小評価するわけにはいかない。」


リリアが口を開いた。「防御用のシールド魔法は、グレゴールたちの協力でほぼ完成しています。これを戦場で適切に活用すれば、エクリプス・ランスに対抗することも可能です。ただし、シールドの維持には限界があるので、決定的なタイミングで使用する必要があります。」


「分かった。シールドは最も重要な局面で使おう。帝国軍の力を削ぎ、彼らの進軍を阻止する。その上で、我々も反撃の機会を狙う。」アレクシスは戦略をまとめた。


**


数日後、アムリオ領の山間部に布陣したアムリオ軍は、帝国軍との戦闘準備を整えた。各部隊は、それぞれの持ち場で緊張感を漂わせながら、敵の接近を待ち受けていた。


やがて、地平線の向こうから黒い影がゆっくりと現れ始めた。帝国軍がついに姿を見せたのだ。その圧倒的な数と規模に、兵士たちの間に不安が広がる。だが、アレクシスの指揮の下、誰も動じることなく、自らの任務に集中していた。


「皆、心してかかれ!」アレクシスの声が戦場に響き渡る。「我々は、この地を守り抜く!帝国の脅威に屈してはならない!」


その声に応じるように、兵士たちから一斉に士気を高める叫び声が上がった。そして、ついに戦端が開かれた。


帝国軍は、まず大規模な弓兵隊を投入し、アムリオ軍に遠距離からの攻撃を仕掛けた。だが、アムリオ軍はそれに即座に対応し、シールド魔法を展開して防御を固めた。矢はシールドに当たるたびに、無力化されていった。


「今だ!反撃に移れ!」アレクシスの号令と共に、アムリオ軍の騎兵隊が突撃を開始した。カイルが率いる精鋭部隊が敵の前線に切り込む。帝国軍もすぐに応戦するが、地形を活かしたアムリオ軍の戦術は効果的で、帝国軍は一時的に足を止めることを余儀なくされた。


しかし、その瞬間、帝国軍の後方から異様な光が放たれた。エクリプス・ランスが発動されたのだ。巨大な魔法エネルギーが螺旋を描きながらアムリオ軍へと向かっていく。


「リリア、今だ!シールドを!」アレクシスが叫ぶと同時に、リリアが準備していたシールド魔法を発動させた。強大なエネルギーがアムリオ軍に迫る中、シールドがその攻撃を受け止め、激しい衝撃音が響き渡る。


「耐えろ…!」アレクシスはその場に立ち尽くし、必死に祈るように呟いた。


そして、数秒後、エクリプス・ランスのエネルギーは消え去り、シールドはギリギリのところでその役目を果たした。


「成功した…!」リリアが息を切らしながら叫んだ。


だが、アレクシスはすぐに気を引き締め直した。「まだ終わっていない!今こそ反撃の時だ!」


アムリオ軍は帝国軍がエクリプス・ランスの使用で消耗している間を見逃さず、一斉に反撃を開始した。カイルの部隊が敵の前線を突破し、ガブリエルの指揮する弓兵隊が遠距離から敵を狙い撃つ。


「このまま押し切れ!」アレクシスは自ら前線に立ち、兵士たちを鼓舞しながら突撃を命じた。


戦場は混沌としていたが、アムリオ軍の戦術が次第に優位に働き始め、帝国軍はじわじわと退却を余儀なくされていった。アレクシスの決断とリリアの魔法が功を奏し、ついに帝国軍は撤退の命を下した。


**


戦いが終わった後、アレクシスは戦場を見渡しながら、胸の内に湧き上がる複雑な感情を抑えていた。勝利は手にしたが、これで終わりではない。帝国が再び攻めてくることは確実だった。


「これは、ただの始まりだ…」アレクシスは呟いた。


その時、遠くから急報が届いた。


「バルカニア帝国の別動隊が、アムリオ領の南部を攻撃しています!」


アレクシスは眉をひそめた。「別動隊だと…?」


帝国の策謀はまだ続いていた。アレクシスたちは次なる戦いに向け、再び立ち上がる必要があった。

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2024年9月20日 20:00
2024年9月21日 20:00

いけ!アレクシス! Nami @namisan1217

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