第25話 戦火の前触れ

アレクシスは、リュカたちがもたらした「エクリプス・ランス」の設計図を目の当たりにし、事態の深刻さを改めて実感していた。バルカニア帝国が開発しているこの魔法兵器は、広範囲にわたる強力な攻撃を可能にするものであり、完成すれば王国全体を脅威にさらす可能性があった。


「このままでは、帝国は確実に攻めてくるだろう。我々が持つ時間は限られている…」とアレクシスは独り言のようにつぶやいた。


リリア、カイル、ガブリエルもその場にいたが、全員が深刻な表情をしていた。誰もがこの状況を重く受け止めていたが、それでも行動を起こさなければならないことは明白だった。


「エクリプス・ランスが完成する前に、何か手を打たなければならない」とリリアが静かに語り始めた。「もし、帝国がこの兵器を使う準備を整えているなら、我々も対抗策を講じる必要があります。」


ガブリエルがその意見に応じた。「帝国がどれほどの力を投入してこの兵器を完成させるのか、まだ完全には分かっていない。しかし、エクリプス・ランスの設計図には、いくつかの不安定な要素が見受けられる。魔法エネルギーの暴走が発生するリスクがあるようだ。」


アレクシスはその言葉に考え込んだ。確かに、兵器の破壊力は大きいが、その反面、制御に失敗すれば帝国側も自滅する可能性があった。


「もしその暴走を誘発できれば、敵の兵器を無力化できるかもしれない…」アレクシスの思考が巡り始めた。「だが、そんなリスクの高い賭けに出る前に、まず我々も何かしらの反撃手段を持たなければならない。グレゴールたちが進めている魔法兵器の開発はどこまで進んでいる?」


カイルが答えた。「まだ試作段階だが、少なくとも防御を強化するためのシールド魔法は実用化が近い。ただ、エクリプス・ランスのような攻撃力を持つ兵器の開発には、もう少し時間がかかりそうだ。」


「時間はある限り使うとして、まずは防御を固めよう。そして、もし我々が優位に立つ機会があるなら、その時にはためらわずに攻める。」アレクシスは力強く指示を出した。


**


その夜、アレクシスは城の一室で静かに考え込んでいた。彼が今直面している状況は、かつての父レオポルドが経験したものとはまるで違う。父は数多くの戦争を勝利に導いたが、帝国のような強大な敵との全面戦争は経験していない。自分には、果たしてそれができるのだろうか。


「父なら、どうするだろう…」と、アレクシスはまたも呟いた。しかし、その問いに答える者は誰もいない。彼自身が答えを見つけなければならないのだ。


突然、扉がノックされた。入ってきたのはリリアだった。


「アレクシス様、少しお話大丈夫でしょうか?」リリアは優しい口調で尋ねた。


「もちろんだ、リリア。何かあったの?」


リリアは少しためらった後、言葉を選びながら話し始めた。「アレクシス様が今抱えている責任は、重く感じていることが伝わってきます。でも、あなたは一人ではない。私たちも、カイル様も、ガブリエルも、全員があなたを支えようとしている。」


アレクシスは静かに頷いた。「ありがとう、リリア。でも、最終的な決断を下すのは俺だ。王国や領地を守るために、間違った判断をするわけにはいかない。」


リリアは真剣な眼差しで彼を見つめた。「そうですね、でも覚えていてほしいです。決断を下す時、あなたには私たちがいます。あなたの判断が正しいかどうかは、私たちも共に確認し、行動できる。だから、孤独を感じないでください。」


その言葉にアレクシスは少しだけ肩の力を抜いた。「ありがとう、リリア。その言葉に救われるよ。俺は…そうだな、できる限りのことをやってみる。」


**


翌日、アムリオ領の防衛はさらに強化され、各地に設置された監視塔から帝国の動きを見張る体制が整えられた。アレクシスは、帝国からの突然の攻撃にも即座に対応できるよう、兵士たちにも準備を怠らないよう指示を出した。


だが、帝国の動きは依然として静かだった。それが逆に不安を煽る。嵐の前の静けさのように、何かが起こるのは確実だったが、いつ、どのように動くかが読めないのだ。


アレクシスは常に状況を見守りつつ、グレゴールたちによる魔法兵器の開発進展を確認していた。防御のシールド魔法は実戦配備が目前であり、攻撃魔法についても少しずつ形になりつつあった。


その時、急報が届いた。


「帝国軍が動き始めました!大規模な部隊がこちらに向かっています!」伝令兵が血相を変えて報告した。


アレクシスは即座に立ち上がった。「ついに来たか…。よし、全軍に戦闘準備を整えるように伝えろ。ガブリエルとカイルにも状況を報告するんだ!」


戦いの時が、ついに訪れようとしていた。帝国の大軍勢が迫る中、アレクシスは覚悟を決め、立ち向かう準備を始めた。

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