第24話 帝国への潜入

アレクシスがバルカニア帝国に対抗するための準備を進めている間、帝国内部ではガブリエルが送り込んだスパイたちが活動を開始していた。彼らは、帝国が開発していると噂される魔法兵器の情報を探るため、帝国の重要拠点である首都ファルメンティアに潜入していた。


スパイたちのリーダーであるリュカは、元傭兵であり、その冷静な判断力と機敏な動きで数々の危険な任務を成功させてきた。彼は数名の仲間とともに、帝国の軍事研究所へと忍び込む計画を立てていた。


「帝国の魔法兵器開発計画が進行している場所は、この研究所だ」とリュカは地図を広げ、仲間に説明した。「我々が狙うのは、研究所内にある設計図や研究データだ。それが手に入れば、帝国の計画を事前に知ることができるし、我々も対抗策を立てやすくなる。」


リュカは慎重に仲間たちの顔を見回した。「だが、ここは厳重な警備が敷かれている。失敗すれば、全員捕まるだけでなく、帝国に対して我々の存在が露見する。だから、ミスは許されない。」


仲間たちは静かに頷き、全員が決意を固めていた。


**


夜、ファルメンティアの街が静まり返った頃、リュカと仲間たちは黒装束に身を包み、研究所へと忍び寄った。帝国の兵士たちが巡回する中、リュカたちは影のように動き、警備をかいくぐって進んでいった。


研究所の建物は頑丈な石造りで、外部からの侵入は極めて難しい。しかし、リュカたちは事前に手に入れた情報をもとに、建物の隠された側入口を見つけ出し、静かに扉を開けて中へと潜入した。


研究所の内部は暗く静まり返っていた。だが、その静けさが逆に緊張感を高めていた。リュカたちは声を出すことなく、足音さえもほとんど立てずに、目的の部屋へと向かっていった。


「ここだ」と、リュカは低く囁き、扉を指さした。そこは、魔法兵器の設計図や資料が保管されているはずの部屋だった。彼は鍵を慎重に開け、扉を押し開いた。


部屋の中には、数々の書類や設計図が散らばっていた。リュカたちは手分けして資料を集め、重要なものを選び出していった。


「これだ…」リュカは一枚の設計図を見つけ、目を見張った。それは、強力な魔法兵器である「エクリプス・ランス」の設計図だった。この兵器は、巨大な魔法の力を利用して、広範囲にわたる攻撃を行うことができるという。


「これが完成すれば、帝国は我々を圧倒する力を持つことになる。急いで戻るぞ」とリュカは仲間に命じた。


だが、その瞬間、部屋の外から足音が聞こえてきた。帝国の警備兵が巡回している音だ。リュカたちは一瞬で行動を決め、部屋の暗がりに身を潜めた。息を潜め、じっと様子を伺う。


「誰かいるか?」警備兵の声が響く。だが、リュカたちは動かなかった。数秒が永遠のように感じられる緊張の中、警備兵たちは部屋を覗き込んだが、異変を感じなかったのか、やがて立ち去っていった。


「今だ!」リュカは囁き声で仲間に指示を出し、素早く部屋を脱出した。彼らは慎重に研究所を後にし、再びファルメンティアの闇へと消えていった。


**


一方、アムリオ領では、アレクシスが魔法兵器開発の進展を見守っていた。賢者グレゴールが指導する研究チームは、古代魔法の遺物を利用した新たな魔法兵器の試作を進めていた。


「古代魔法を制御するのは難しいが、確かにその力は強大だ。もしこの兵器が完成すれば、帝国の攻撃にも十分対抗できるだろう」と、グレゴールは説明した。


「完成までどれくらいかかる?」とアレクシスは焦りを感じながら尋ねた。


「まだ時間が必要です。しかし、帝国が本格的に動き出す前には間に合わせたいと思っています。」


アレクシスは頷きつつも、時間との戦いであることを強く実感していた。帝国の動きが加速すれば、彼らの準備が整う前に戦争が始まってしまうかもしれない。


**


数日後、リュカたちは無事にアムリオ領へ戻り、アレクシスに「エクリプス・ランス」の設計図を手渡した。


「これが、帝国が開発している魔法兵器です。このままでは、我々は大きな脅威に晒されることになるでしょう」とリュカは報告した。


アレクシスは設計図をじっと見つめ、深く息をついた。「ありがとう、リュカ。君たちの功績は大きい。この情報を基に、我々も対抗策を練る。時間はないが、必ず勝機はあるはずだ。」


こうして、アムリオ領はさらなる防衛策と反撃の準備を進めることになった。アレクシスは、父レオポルドがいなくとも、自らの決断で領地を守る責任を果たさなければならない時が来ていた。


戦いの時は刻一刻と迫っていた――。

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