第23話 影の兵器

アレクシス・フォン・アムリオは、兄カイルやガブリエル、リリアとともに新たな会議を開いた。彼の中には確固たる決意があった。バルカニア帝国の陰謀を防ぐためには、単なる防衛策だけではなく、攻撃的な対抗手段も必要だった。


「バルカニア帝国が魔法兵器を開発しているという情報が事実であるなら、我々もそれに対抗する手段を持たねばならない」と、アレクシスは切り出した。「今後、彼らが我々に圧力をかけてくる前に、こちらが先手を打つ必要がある。」


カイルは少し驚いた表情を見せながらも、すぐに賛同した。「確かに、その通りだ。我々はただ待つだけでは、彼らに出し抜かれてしまう。だが、どのように魔法兵器を作り出すのか?それには相当な知識と資源が必要だ。」


「魔法技術については、我々が既に進めているインフラ整備の技術を応用できるかもしれません」とリリアが提案した。「ただし、兵器に転用するには専門的な魔法知識が欠かせません。私が集めた文献によれば、いくつかの古代魔法の遺物を使えば、強力なエネルギーを引き出すことができるかもしれません。」


アレクシスはその言葉に興味を引かれた。「古代魔法か…それならば、我々の魔法研究所にいる賢者たちに協力を仰ぐ必要があるな。」


「それと、もう一つ気になることがあります」とガブリエルが慎重に口を開いた。「帝国が魔法兵器を開発しているという情報源ですが、完全に確実とは言えません。偽の情報を流して我々を混乱させる可能性も考慮すべきです。ですから、まずは帝国内部の動向をさらに探るために、スパイを送り込むべきです。」


アレクシスは頷いた。「その通りだ。情報がなければ、我々は盲目的に動くことになる。ガブリエル、すぐに信頼できる者たちを帝国に潜り込ませてくれ。」


こうして、アムリオ領は二つの作戦を同時に進めることになった。一つは、魔法兵器の開発を目指す作戦。もう一つは、バルカニア帝国の動向を探るための情報収集作戦であった。


**


数日後、アレクシスは魔法研究所を訪れ、古代魔法の専門家である賢者グレゴールと面会した。グレゴールは老齢でありながらも、その知識は広範かつ深遠で、アムリオ領の魔法技術の発展に貢献してきた人物だった。


「アレクシス様、お久しぶりです。何かお手伝いできることがあるのでしょうか?」と、グレゴールは柔和な笑みを浮かべながら尋ねた。


アレクシスは率直に要件を伝えた。「我々はバルカニア帝国の脅威に対抗するため、魔法兵器を開発する必要があります。特に古代魔法を利用して、より強力な武器を作りたいのです。」


グレゴールは一瞬考え込み、その後、静かに語り始めた。「古代魔法は、非常に強力であると同時に制御が難しいものです。特に、兵器として利用する場合、魔法の暴走や副作用も考えられます。それでも試みる覚悟がおありですか?」


「覚悟はできています。帝国に対抗するためには、危険を承知で進めなければなりません。」


グレゴールはその決意を感じ取り、真剣な表情で頷いた。「分かりました。では、我々が保管しているいくつかの古代魔法の遺物を利用し、試作を進めてみましょう。ただし、時間がかかることをご了承ください。」


「もちろんです。急がずに、確実なものを作り出してください。」


**


一方、ガブリエルはバルカニア帝国へと送り込むスパイたちの手配を進めていた。帝国の内情を探るためには、巧妙な計画が必要であったが、彼は慎重かつ迅速に行動した。ガブリエルの手腕によって選び抜かれた精鋭たちは、帝国へと密かに向かった。


アレクシスは、帝国の動向を探りつつ、自らも防衛と攻撃の準備を進める中で、ふと感じるものがあった。それは、父レオポルドの存在だった。父の不在が続く中で、アレクシスは次第に「自分は父を超えることができるのか」という思いを抱くようになっていた。


「父がいたら、どんな決断を下しただろうか…」と、夜空を見上げながらアレクシスはつぶやいた。


彼は未だ若いが、その肩には領地と王国の運命が重くのしかかっている。バルカニア帝国の陰謀に立ち向かうためには、迷いや恐れを捨て、前進するしかなかった。


「私は、必ず守り抜く。父が築き上げたこの領地を、そして王国を。」


彼の中で決意が固まるにつれ、アムリオ領は次第に戦いの準備を整え、静かに嵐の前の緊張感を漂わせ始めていた。


物語の行方は、これからアレクシスの手に委ねられている。彼は一体どのような戦略で帝国の脅威に立ち向かうのか――その答えは、まだ誰にもわからない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る