第3話
チャイムと同時に全員がシャーペンを持つ。時計の音だけが聞こえる空間に紙の擦れる音やシャーペンを持ち上げる音の波が襲ってくる。私も周りの圧に負けじと食らいついていた。一時間目、国語。踊るような文字の羅列に目を背けたくなる。文字たちを整列させて読み込んだ。いつもとは違う雰囲気のカタカナの単語を漢字に直して熟語の意味を選択肢の中から選ぶ。隣の人の紙を捲るスピードに焦る。必死にしがみついて時間と戦った。終わりを告げるチャイムが鳴る。ふうと一息吐くが、あそこは違ったなとか、今あの漢字を思い出したとかいう後悔が押し寄せてくる。眉間にシワが溜まってただ硬直しながら座っていた。
「沙弥ー!!」
半泣きの声で真菜が近づいてきた。前に突き出していた手を机に着地させていた。
「まじ終わったんだけど。漢字すらまともにできなかったぁ…このままじゃお小遣いなくなっちゃう」
「それよりも次は論表だよ?一番やばいんでしょ?」
「ああそうだったぁ。お願い!全くわかんないから教えて!」
真菜は私の手を両手で包みこんだ。こんなとき、どんな表情をすればよいのだろうか。嬉しいが同時に悲しくなる。だって、手が触れ合っていても私の想いは真菜には届かないし、重なることもないから。そしてこの行為は私が友達として好かれている証拠でもあるため、正直これ以上ぬか喜びさせないでほしかった。
「…いいよ。じゃあほら、早く行こ」
不器用な笑みにも目を大きく開いて喜んだ表情を返してくれた真菜に少し心が痛む。あーあ、これが私のものになったら、なんにも要らないのに。真菜が机に手を置いていた跡をなぞって、小走りで自分の荷物のところへ行く彼女についていった。
何度でもまた恋をする 夢星らい @mizunoKAGAMI
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