第十七話 #パーティ準備

「クロ〜! 冷蔵庫に入ってるケーキみたいなの何だったの!」


「それおやつ! みんなで食えばいいと思ってチーズケーキ作ったんだよ!」


「そうなのか! 美味しかったぜ!」


「おい、勝手に食ったのか?!」


 

 キッチンで魚を捌いていたら、チーズケーキを勝手に食われていた件。


 早々に味の感想を言ってそそくさと逃げた姉を追いかけるのを諦め、チーズケーキの存在確認をするため冷蔵庫を開けると、一枚の大きなお皿だけが残っていた。


 まておい、あんのあま全部食ったのかよ!

 兄妹みんなで食べる様に作ったからクソデカかったはずだが!?

 それを一人で!?

 なんというカスだ。



「まあでも姉ちゃんのおかげで俺のチャンネル伸びたしなあ……」

 


 姉との初コラボを終えた狂犬のクロのチャンネル。

 日を跨いでチャンネルを確認してみると、凄まじいほどの数字が伸びていた。

 

 チャンネル登録者数がなんと二十万人を突破していた。

 コラボ前が十二万人ぐらいだったから、あの配信だけで八万人伸びたことになる。

 確認したのも早朝だったし、あの勢いだと今はお昼だからもっと増えているかもしれない。

 

 姉から聞いたが、SNSのトレンドを一位から五位を俺と姉関係のワードが総なめにしていたことが要因なんだとか。

 流石は超人気配信者だ。

 影響が計り知れねえぜ。

 全て姉ちゃんのおかげだ。


 その功績を考えたらつまみ食いくらいさせてもバチは当たらないか。


 俺はそう考え、今にも姉に凸りそうな出刃包丁を握りしめる手の力をそっと弱めた。

 思わず溢れそうになった涙を必死に堪えながら。

 結構いい牛乳使ったのに……

 一口でもいいから食べたかった……ひぃん……

 

 さて、我が家では普段料理をするのは妹であるが、俺がキッチンに立っているのは訳がある。


 姉が俺との初コラボ記念にパーティを開くから、俺に料理をしろというのだ。意味がわからない。


 わざわざ記念にパーティを開くほどのことなのかは疑問だが、姉が開くと言ったら開くのだ。

 例えそれが、小指をぶつけた記念だの、携帯新しくした記念だの、誕生日前夜祭だの。

 クソみたいな理由でも強制的にパーティは開かれるのだ。


 会場は当然の如く俺のマンションだ。

 我黒崎家は最上階のバルコニー付きなので、都内の夜景を展望できる最高のパーティ会場だぜ。



「お兄ぃ、何つくってるの」


「んあ、寿司」


「寿司」



 必死に魚を捌いていると、ひょこっと妹が現れて質問を投げかけてきたので返答を返す。

 

 パーティに欠かせないものと言ったらなんだろう、そのとおり寿司だ。

 ケーキでも、チキンでも、プレゼントでもなく、我が家では寿司がパーティの大部分を担うのだ。

 もれなく黒崎家だけだと思う。


 実家が寿司屋を営んでいる俺の家は、何かお祝い事がある度に親父が寿司を握るのだ。

 


「いつも思うけど、料理なんかからっきしなくせに魚捌くのと寿司握るのだけは上手いのなんでなの」


「ダンジョンでいつも刃物ぶん回してる探索者だからな」


「つまり探索者と寿司屋は同義ということ!?」


「逆に考えれば寿司のいろはを俺に教えた寿司職人の親父も探索者って訳だ!」


「お父さんが包丁一本でモンスター倒すのが想像に容易い」


「涼しい顔してドラゴン三枚おろしにしそう」


「わかる」


 

 そんなたわいもない会話を妹としながら寿司を握る。

 にぎにぎ。



「それで気になったんだけどさ」


「おん」


「この大量のサーモンはなんなの?」


 

 そう言いながら、たくさんのサーモンの寿司が乗ったお皿を指さす唯。



「サーモンだよ」


「そんなこと聞いてない! こんだけ作ってどうするの!」


「食べる以外にあるかよ! 生物だから今日のうちに全部たべるよ俺が!」


「相変わらずサーモンしか食べないのなんなの! 軽く五十はあるよ! ここまで来たらそういう病気だよ! ほんと舌が子供のまま!」


「はぁ? サーモンは美味いんだよ! だから、えっと…………」


「口論下手か!」



 コイツは分かっていない。

 サーモンがいっちゃん美味いのだと。

 

 過去に数回だけいった回転寿司でのレパートリーやばいぞ。


 ちなみにサーモンチーズ炙りってやつが俺は一番のお気に入り。

 親父は邪道とか言ってたけどあれ美味いっす。



「お兄は頑固だし、これからもサーモンばっか食べてサーモンになっちゃえばいいんだ!」


「酷い女だ!」


「はい、じゃあこれ運ぶね」


「頼んだ」


 

 茶番を突然終わらせたと思ったら、突然お手伝いモードに切り替わって俺の寿司をリビングまで運んでいく唯。

 

 俺の家はメンツの過半数が配信者ということから、日常会話の中でこういった茶番がよく繰り広げられる。

 

 突然寸劇が始まり、突然終わる。

 それは夕立のようなものだろう。

 

 最早一種の職業病だろコレ。


 唯はしっかり者で真面目だが、かなりノリがいいので配信者としてやっていけてると思う所以たる特徴の一つだな。切り替えが素早くてメリハリがある。

 こういうところ姉妹だよね。


 なんか唯が所属してる事務所、なんつったっけ、Vtuber?の事務所に所属しているらしい。


 ファンや他のメンバーの間で即興演技アドリブに優れているとかで評価されているらしい。

 面白そうだから今度唯ともコラボしてえな。



「やっぱり仲良いね、クロ」


「おお、なんだ。今のは不幸自慢の開始の合図かマジノコ」


「あいや、そういう訳じゃなかったんだけど……ただ家族と仲良いのいいなって」


「家族限らず仲良いのはいいことだろうが。おい、座ってないでお前もご飯運べ」


「オッケー」



 俺の指示に従うように、マジノコは大量のサーモンの寿司を唯の後を追うように運んでいった。


 全く、これだからヒンヤリキノコは。

 寒い時期だからって、メンタルまで冷えることはないだろ。

 俺の寿司食ってホットキノコになってくれや。



「よし、まあこんなもんでいいか」


 ふう、と一息、包丁を置いて伸びをする。

 んー……


 とりあえず、買ってきたサーモンは全て寿司にした。

 みんなで食べる様のバリエーション豊富な寿司も作ったし、片付けしてから今作ったの持っていくか。


 と、その前に、



「休憩するならあれ飲まなきゃな!」



 冷蔵庫に向かう。


 俺には愛飲しているものがある。

 某紅茶企業のレモンティーだ。

 牛乳パックから注がれるあのレモンの香りと、仄かな酸味がたまらねえんだ。

 俺の7割はレモンティーで出来ていると言っても過言ではない。


 さあ、冷蔵庫をご開帳と行こうじゃないか!


「あ、あれ?」



 ない? な、無いんですけど!?

 おかしいな、さっきの買い出しで買ってきたはずだが……おかしいな俺はまだ一度も飲んではいない。

 しかも買い出しの具材を入れた時に一緒に入れたのを確認したはず……


 そうだ、さっきのチーズケーキを確認した時もレモンティーはなかった。

 つまり。

 


「あんのアマァ!!!」


 

 俺氏、嘆きの咆哮。









◇◇◆



「うーん、美味美味♩」









———————————————

書きたいの思いついたので本編更新です。


質問、リクエスト募集してます。

↓URLから送れます。

https://marshmallow-qa.com/fi9ypi1yckmy6fw?t=HJ2jfo&utm_medium=url_text&utm_source=promotion

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Aランク第1位の探索者が配信者になった話 三角形MGS @sankakumazisugoi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画