第8話 黒いもの

私は最近に連れて来られたが前はどうだったんだろう?

そんな気持ちがふつふつと湧いてきた。


「ねぇモモっち。前にここで働いていた人ってどこにいったの?」

「なんにゃいきなり。」

器用に2本の前足を動かし書類を整理していたのを止めてこちらを振り返った。

「ん〜、前からここはあるじゃん?ということはいきなりこんな仕事が出来たわけじゃないんでしょ?」

「そうにゃ、前任者はいたにゃ。でも私だって詳しくは知らされてないにゃ。」

「そうなの?なんで辞めたのか気にならない?」

モモっちに尋ねると、

「なんとなく辞めた理由もわかるしあまり気にはならないにゃ。」

「えー、気になる教えて。」

私がしつこく絡むと、

は気にしなくていいにゃ。そんなことより仕事をするにゃ。」

と怒られた。


今回ここに来る子は3匹。

2匹は大往生で亡くなり、ここで飼い主を待つことを希望した子だ。

1匹は病気になり、飼い主が気づかずそのまま亡くなった子で、

待つのか、着替えるのか、転生するのか、決められない子だった。

先に待つことを希望した子の書類を作り、原っぱに送り出した。

残った1匹の子はアメショーのまだ小さい子だった。


「さて、まずはお名前聞いていいかな?」

私はアメショーの子を抱っこしながら聞いた。

実は長生きした子は2本足で立てる子がほとんどで、抱っこをさせてくれない。短命の小さい子はまだ2本足で立てなく大体抱っこさせてくるので、ここぞとばかりにもふもふと抱っこをする。こんな特典でもないとやってられない。

「みー。」

「私はみぃっていうの。名前似てるね」

目線を合わせていうと、みーちゃんは泣きそうになってた。

「え?名前似てるの嫌だった?ごめんね?いや、でも、こればかりは…。」

「落ち着くにゃ!」

モモっちにパシンと何かで頭を叩かれた。

「痛っ!くはないけど、なんでハリセンなんて持ってるのさ」

「頭に届かないからにゃ。」

「いや、そうじゃなくて…いいや。で、みーちゃんはここで待つ?それとも先に進む?」

ハリセンを前足でパシパシしていたモモっちが、

「まだ小さいからね。いきなりは決められないにゃ。飼い主さんが好きなら待つ、あまり思い入れがないなら、転生を薦めるにゃ。」


ちょっと意外な提案だった。

原っぱは待ち人を待つ場所以外にも、他の子との交流ができる場所でもある。

小さいなら他の子と交流して、生みの母親を待つとかそんなことを薦めると思っていた。

「まだ小さいにゃ。猫生もそんなに歩いてないにゃ。何に生まれ変わるかわからにゃいけど、黒く染まる前に転生するのは悪い結果にはならないにゃ。

ここは痛さやお腹が空くことはないけど、待つ目的がなかったり、自分で待つ期限を決められないなら感情が黒く染まることがあるにゃ。だから転生をしたほうがいいにゃ。」

え?感情が黒く染まる?初めて聞いたよ?

染まるとどうなるの?っていうか、染まった子見たことないけど居たの?

と、モモっちに目で訴えてみたが無視された。


みーは、かなり悩んでいた。

「じゃぁさ、単純に考えて見ようよ。飼い主さんいい人だった?」

「独りにされてるほうが多かった。ペットショップ?で買われて最初のうちは、話しかけられたり美味しいオヤツも貰えていたけど、時間が経つとご主人様は帰ってくるの遅かったり話しかけても、お気に入りのおもちゃを持っていっても、後でねとか邪魔とか…」

そこまで話すと、みーがまたポロポロと泣き出した。

あー、流行性のウイルスが流行った頃の子かぁ、と思っていると、みーの体の周りに靄がかかってきた。

私は、みーを撫ぜ撫ぜもふもふとした。

少しでも落ち着くように。あと、黒いものが散るといいなぁと思いながら。

しばらくそんなことをしていると、みーの周りから黒い靄が薄まってきた気がする。

「みぃ、みえたみたいだにゃ。その黒い靄が悪いものにゃ。酷いこと、嫌だったこと、悲しかったこと、一定期間そんな感情に囚われると出てくるにゃ。

誰でも持ってる感情だけど、ここに来れる子は比較的少ない子だけが来るから見ることもなかったけど、こういう子も偶にくるから覚えておくにゃ。

そして、黒く染まっちゃうとにいることが許されなくて速攻他所行きにゃ。」

後半のセリフは少し寂しそうにモモっちがいった。


中途半端な脳筋の私でもわかる。これはヤバそうだと。

え、この状況なら待つことは選択肢にないだろう。

着替えも選択肢から外すほうがいい?

あれ?結局転生が一番いいのか。

んーでも、せっかくの猫生なんだから少しはみんなでワイワイと楽しんだほうがよくないか?と、あーだこーだと、頭を捻っていたら、

「みぃは余計なことを考えないほうがいいにゃ。ロクなことにならないにゃ。みーが選べないなら私が選ぶにゃ。ここにいると黒いものに取り憑かれるにゃ、だからその前に転生するにゃ。」

そういったモモっちは小屋の中に入り書類の用意を始めた。


少しだけなら他の子と交流してもいいかなぁと、一歩足を動かしたところでモモっちに怒られた。おかしい、小屋の扉は閉まってるのに。





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虹のたもと にゃぁ @fanfandayo

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